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3分でわかるASAT(その1)

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ASAT(Anti-satellite weapon)とは、衛星破壊兵器のことです。

既に私たちの生活の中には、人工衛星の機能が活用されているサービスが多く浸透しています。
例えば通信サービスや地図アプリには衛星が活用されていますし、天気予報には気象観測衛星が捉えた情報が活用されています。

他方、もともと衛星は軍事利用から始まっていることもあり、他国の衛星を破壊することを考える人が現れても不思議ではありませんし、自国の衛星を破壊する実験をしたいと考える人も現れてきます。
実際に、1985年にアメリカでASAT実験が行われて以降、アメリカ、中国、ロシア等の各国ではASAT実験が進められてきました。
今回は、ASATにはどのような法的問題点があるのかを取り上げます。

ASATの類型

ASATにはいくつかの種類があります。

①自爆
②地上からミサイルで破壊
③再突入前の破壊

歴史的には、1964年にソ連が衛星Cosmos50を爆発させたのが最初の①自爆といわれています。なお、その際に発生したデブリは12日以内に消滅しています。

②の地上からミサイルで衛星を破壊する形の実験は、主にアメリカや中国で実施されてきました。特に、2007年に中国が行った実験は高度約800kmでなされたため、軌道上に長期間滞留するデブリを数多く発生させ、多くの非難を集めました。

③は、大型の衛星を大気圏に再突入させる場合に燃え尽きやすくするため(細かくするため)破壊するというものですが、実際には行われていないようです。

国際法に違反するか?ー通常兵器の使用は可能?

ASATには兵器の使用を伴いますが、何らかの国際法に違反することはないのでしょうか?今回は、宇宙条約、国連憲章、月協定の観点から見ていきます。

宇宙条約との関係

まず、宇宙条約4条は以下のように規定し、宇宙空間の核兵器・大量破壊兵器の軌道投入を禁止しています。

条約の当事国は、核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置しないこと並びに他のいかなる方法によつてもこれらの兵器を宇宙空間に配置しないことを約束する。

この規定からわかるように、通常兵器の使用は宇宙条約は禁止されていません。そのため、通常兵器によるASAT実験は宇宙条約には違反しないことになります。

ただし、宇宙条約4条第2文が、以下のように月その他の天体の平和的利用について規定している点には注意が必要です。

月その他の天体は、もっぱら平和目的のために、条約のすべての当事国によって利用されるものとする。

確かにこの条文には「月その他の天体」と規定されているのみであり、軌道上の平和的利用については規定されていないように見えます。また、「平和目的」の定義も曖昧ですが、無視することはできません。

国連憲章との関係

国連憲章2条4項は、武力による威嚇、武力の行使について規定しています。

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

この条文によれば、領土保全や政治的独立に対する「武力による威嚇」、「武力の行使」を慎む必要があるため、他国へ攻撃するためのASATは禁止されるといえます。

月協定との関係

月協定との関係では論点があります。
月協定3条3項は以下のように規定し、月の平和的利用について定めています。

締約国は、核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を月を周回する軌道、月又は月の周回軌道に到達する飛行経路に乗せないものとし、これらの兵器を月面上又は月内部に配置しないものとする。

これらの規定の内容は宇宙条約と似ていますが、保護の対象が「月」を起点にしている点が異なります。

他方、3条4項は以下のように規定し、「月面上」での「あらゆる型の兵器の実験」を禁止しています。

月面上における軍事基地、軍事施設及び防備施設の設置、あらゆる型の兵
器の実験
並びに軍事演習の実施は禁止する。科学的研究その他の平和的目的のために軍の要員を使用することは禁止しない。月の平和的探査及び利用のために必要なすべての装備又は施設を使用することもまた禁止しない。 

月協定は、「月」の定義について「月を周回する軌道、月又は月の周回軌道に到達する飛行経路」を含むとしているので(1条2項)、月周回軌道、月周回軌道に到達する飛行経路でのASAT実験は、通常兵器を使用していようとも禁止されていると解釈できなくもありません。

まとめ

次回(その2)は、ASATにより発生するスペースデブリをめぐる問題、ASATに対する反撃をめぐる問題点を取り扱います。

参考:
・日本の宇宙戦略 青木節子
・ゼロからわかる宇宙防衛 大貫剛
・RIPS秋季公開セミナー2019 宇宙の安全保障と日本の役割 青木節子
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦


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