3分でわかる衛星リモセン法〜用語の定義〜
2018年11月15日に施行された衛星リモセン法は、リモセン記録の適正な取扱いを確保するため、①リモセン装置の許可制度、 ②リモセン記録を保有する者の義務、 ③リモセン記録を取り扱う者の認定等についてルール化しています。
リモセン法でも用語を定義している規定がありますが、肝心なリモセン装置とリモセン記録の定義が若干複雑なのでまとめてみます。
衛星リモートセンシング装置
条文上は、以下のように非常に複雑・難しい表現になっています。
地球を回る軌道に投入して使用する人工衛星(以下「地球周回人工衛星」という。)に搭載されて、地表若しくは水面(これらに近接する地中又は水中を含む。)又はこれらの上空に存在する物により放射され、又は反射された電磁波(以下「地上放射等電磁波」という。)を検出し、その強度、周波数及び位相に関する情報並びにその検出した時の当該地球周回人工衛星の位置その他の状態に関する情報(次号において「検出情報」という。)を電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)として記録し、並びにこれを地上に送信する機能を有する装置であって、これらの機能を適切な条件の下で作動させた場合に地上において受信した当該電磁的記録を電子計算機の映像面上において視覚により認識することができる状態にしたときに判別ができる物の程度(以下この条及び第二十一条第一項において「対象物判別精度」という。)が車両、船舶、航空機その他の移動施設の移動を把握するに足りるものとして内閣府令で定める基準に該当し、かつ、これらの機能を作動させ、又は停止させるために必要な信号及び当該電磁的記録を他の無線設備(電磁波を利用して、符号を送り、又は受けるための電気的設備及びこれと電気通信回線で接続した電子計算機をいう。以下同じ。)との間で電磁波を利用して送信し、又は受信することのできる無線設備を備えるものをいう。
そこで、いくつかの要素に分解してみます。
①「地球を回る軌道に投入して使用する人工衛星(以下「地球周回人工衛星」という。)に搭載されて、」
ここでいう「人工衛星」とは、「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」をいいます。
宇宙活動法でいうところの「人工衛星」と同じです。
②「地表若しくは水面(これらに近接する地中又は水中を含む。)又はこれらの上空に存在する物により放射され、又は反射された電磁波(以下「地上放射等電磁波」という。)を検出し、」
そもそもリモートセンシングとは、「主として地球表面の対象物からの電磁波を人工衛星などのプラットフォームに搭載されたセンサで観測し、対象物に関する情報を得て、様々な分野に利用する技術(あるいは科学)」とされています(出典:基礎からわかるリモートセンシング 日本リモートセンシング学会)。
太陽や衛星から電磁波を放射すると地表などで反射して返ってくるので、返ってきた電磁波を検知して情報を取得しているというわけです。
リモセン法の規定でも、このようなリモセンの仕組みが反映されています。
③「その強度、周波数及び位相に関する情報並びにその検出した時の当該地球周回人工衛星の位置その他の状態に関する情報(次号において「検出情報」という。)を電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)として記録し、並びにこれを地上に送信する機能を有する装置であって、」
②の情報を記録し、地上に送信する機能を有している装置ということです。
④「これらの機能を適切な条件の下で作動させた場合に地上において受信した当該電磁的記録を電子計算機の映像面上において視覚により認識することができる状態にしたときに判別ができる物の程度(以下この条及び第二十一条第一項において「対象物判別精度」という。)が車両、船舶、航空機その他の移動施設の移動を把握するに足りるものとして内閣府令で定める基準に該当し、」
全ての装置が規制対象となっているわけではなく、②③で取得した情報を画像データにしたときに、一定の基準に達する高分解能のリモセン装置が規制対象となります。分解能は解像度のことで、例えば「分解能2m」であれば、「2m以上の物を見分けることが可能」という意味です。
具体的には、使用するセンサーの種類によって分解能の基準値が決められています。
つまり、光学センサーを使う場合には「2m以下の物を見分けることができるもの」、SARセンサーを使う場合には「3m以下の物を見分けることができるもの」であれば規制が及ぶということになります。
なお、センサーはそれぞれ以下の違いがあります。
①光学センサー:太陽光や対象物が出している熱を計測。夜間や悪天候に弱い。
②SARセンサー(Synthetic Aperture Radar):センサーからマイクロ波を出し、対象物が反射したマイクロ波を計測。夜間や悪天候でも観測できる。
③ハイパースペクトルセンサー:対象物から反射した太陽光を計測。超多波長の光を計測できる。
④熱赤外センサー:対象物が出している熱赤外線を計測。気象衛星で使われ、海水面の温度分布や雲の温度を観測。
⑤「かつ、これらの機能を作動させ、又は停止させるために必要な信号及び当該電磁的記録を他の無線設備(電磁波を利用して、符号を送り、又は受けるための電気的設備及びこれと電気通信回線で接続した電子計算機をいう。以下同じ。)との間で電磁波を利用して送信し、又は受信することのできる無線設備を備えるもの」
②③の機能を作動・停止させるために必要な信号を送受信できることが必要です。
衛星リモートセンシング記録
リモセン装置とは別に、取得したリモセン記録自体にも着目されます。一定の条件以上のリモセン記録を取り扱う場合、様々な義務が課されることになるためです。
こちらも条文上は非常に複雑・難しい表現となっているので、分解してみます。
特定使用機関以外の者による国内に所在する操作用無線設備を用いた衛星リモートセンシング装置の使用により地上に送信された検出情報電磁的記録及び当該検出情報電磁的記録に加工を行った電磁的記録のうち、対象物判別精度、その加工により変更が加えられた情報の範囲及び程度、当該検出情報電磁的記録が記録されてから経過した時間その他の事情を勘案して、その利用により宇宙基本法第十四条に規定する国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障(以下「国際社会の平和の確保等」という。)に支障を及ぼすおそれがあるものとして内閣府令で定める基準に該当するもの並びにこれらを電磁的記録媒体(電磁的記録に係る記録媒体をいう。)に複写したものをいう。
①「特定使用機関以外の者による国内に所在する操作用無線設備を用いた衛星リモートセンシング装置の使用により地上に送信された検出情報電磁的記録及び当該検出情報電磁的記録に加工を行った電磁的記録のうち」
「特定使用機関」とは、リモセン装置を適正に使用できるものとして政令で定める国・地方公共団体のことで、「操作用無線設備」とは、リモセン装置の操作を行うための無線設備のことです。ここでいう「国」は内閣官房です。
このような国・地方公共団体「ではない」者がリモセン装置を使ってデータを送信する場面が想定されています。
②「対象物判別精度、その加工により変更が加えられた情報の範囲及び程度、当該検出情報電磁的記録が記録されてから経過した時間その他の事情を勘案して、」
リモセン記録はもちろん、リモセン装置にも機微情報が含まれています。
「加工」とあるのは、何も加工していないデータ(生データ)からリモセン装置や衛星の機微情報が漏れてしまう可能性があるので、生データを加工してそれを防ぐことが想定されているからです。
また、データ取得から時間が経てば、当時の状況と異なっている可能性が高くなり、機微情報が漏れてしまう可能性も低くなります。
要は、これらの加工内容や経過時間を考慮せよということです。
③「その利用により宇宙基本法第十四条に規定する国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障(以下「国際社会の平和の確保等」という。)に支障を及ぼすおそれがあるものとして」
そもそもリモセン法はリモセン記録がテロリスト等に渡らないようにするための法律なので、その精神が現れています。
④「内閣府令で定める基準に該当するもの並びにこれらを電磁的記録媒体(電磁的記録に係る記録媒体をいう。)に複写したもの」
全てのリモセン記録が規制の対象になるわけではなく、一定の基準に達するリモセン記録が規制の対象となります。
リモセン装置と同様、センサーの種類によって基準値が決められていますが、基準値は生データと加工後のデータ双方の観点から判断されます。
つまり、光学センサーを使う場合の加工前のデータは「2m以下の物を見分けることができるもの」、加工後のデータは「25cm以下の物を見分けることができるもの」が規制の対象となります。
参考:
・逐条解説宇宙二法 宇賀克也
・基礎からわかるリモートセンシング 日本リモートセンシング学会
・一般社団法人リモート・センシング技術センターHP
・環境展望台HP「リモートセンシング」
・JAXA第一宇宙技術部門HP「リモートセンシングとは」