3分でわかる宇宙ビジネスと特許権
宇宙で発明した場合?
宇宙旅行をはじめ、人類が宇宙空間に進出する機会が増加しています。
より多くの人が宇宙へ行くとなれば、新たな発見や地上ではなし得ないような芸術作品が生まれることでしょう。
宇宙兄弟では、せりかさんがALSの治療薬実験をしていました。
では、宇宙空間での発明に関する知的財産権はどのように取り扱われるのでしょうか?
そもそも特許とは?ー技術を独占的に実施できる権利
特許権とは、発明を独占的に実施することができる権利です。
新たな技術を発明した時、発明の内容を特許庁に申請して認められれば、原則として20年間、権利者だけがその技術を実施できるようになります。
他者が権利者と同じ発明を実施できないようにすることで、技術を保護できることになります。
宇宙空間での発明ー場所は関係ない?
2011年にアメリカの法改正があり、先に特許の出願をした者に特許を認める「先願主義」が世界的な原則になりました(それまでアメリカは先に発明した者に特許を認める「先発明主義」を採用)。
そのため、発明された場所がどこであろうと先に出願さえしてしまえば特許が認められることになります。
つまり、宇宙空間での発明であったとしても、その権利を必要とする国(その発明を守りたい国)で出願すれば良いことになります。
ISSで特許権侵害が発生した場合?ー登録国の法律が及ぶか?
例えば、ISSで特許権を侵害する行為がなされた場合、その行為を差し止めることはできるでしょうか?差し止めるためには、発明者の国の法律が及んでいる必要があります。
ISSでの行動はどの国の行動となるか?
まず、ISSはモジュールごとに管轄権が分かれており、各モジュールで行われた活動は、登録を行った国の領域で行われたものとみなされます。
例えば日本の実験棟「きぼう」でなされた行為は日本、アメリカの実験棟「デスティニー」でなされた行為はアメリカで行われたものとみなされます。
ISSに関するルール(IGA)については以下にまとめているので併せてご参照ください。
モジュールにその国の法律が及ぶかは別問題
そのモジュールでの行為についても登録国の法律を適用できるようにするためには、国内の知的財産法がどのように規定されているかによります。
例えばアメリカ特許法は、「合衆国の管轄または管理の下に、宇宙空間において、宇宙物体またはその構成要素に関して行われ、使用され、または販売されて全ての発明は、同法の適用上、合衆国内において行われ、使用され、または販売されたものとみなす」と規定し、デスティニーでなされた行為についてはアメリカ特許法が適用されるようになっています。
日本の場合ー特許法が及ばない?
アメリカと同じように日本の特許法がきぼうに及んでいると考えると、きぼうで日本の特許を侵害する行為がなされた場合、日本の領域でなされた特許権侵害行為として差し止めることができるということになります。
ただ、日本の特許法には、アメリカのように法律の適用範囲を拡張する規定があるわけではなく、条約に別段の定めがあるときはその規定によるとされているのみです(26条)。
日本の特許法がアメリカのように改正されなかったのは、IGAがここでいう条約に含まれると解釈されたからでした。
しかし、ここでいう「条約」とは、私人の権利義務を直接規定した、いわゆる自動執行力のある条約を指すと考えられています。
IGAはあくまで国家間の関係を規定したものであって私人(普通の人や会社)間の関係を規定したわけではないので、IGAは含まれないという考え方もあります(参照:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦)。これによれば、ISSで日本の特許権を保護するには、現在の立法では不十分ということになりそうです。
まとめ
今後、ISSの民間(商業)利用の路が開かれるとなれば、特許権侵害が問題となることも出てくるかもしれません。宇宙法分野でのルール整備が求められるトピックの一つです。
参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦