3分でわかるインドの宇宙活動法
ロケットや人工衛星を打ち上げるための根拠法は、日本やアメリカにだけ存在するものではありません。
近時、インドでは商業宇宙活動を行うための法律制定に向けた動きがあるので、今回はインドの法律案を紹介します。
宇宙条約で求められる監督体制と許可制
そもそも宇宙条約は、宇宙活動の基本的なルールとして、民間企業などの非政府団体の宇宙活動を監督する義務について定めています(2条)。
月その他の天体を含む宇宙空間における非政府団体の活動は、条約の関係当事国の許可及び継続的監督を必要とするものとする。
宇宙条約を批准している国は、「許可制度」を設けた法律によって国民の宇宙活動を監督しなければなりません。
インドの宇宙開発
現在、インドでは施行に向けて宇宙活動法案の作成が進められています。
インドは、独自に衛星やロケット、地上制御技術を開発して、国の衛星だけでなく商業利用としての衛星を打ち上げることができる国です。
インドにはサティシュ・ダワン宇宙センターがあり、インド宇宙研究機関(ISRO)の射場として活用されています。2019年7月に打ち上げられた月探査衛星チャンドラヤーン2号もここから打ち上げられました。
また、インドは2023年までに月に人を到達させるビジョンも掲げています。
法律の必要性とポイント
このような商業宇宙活動の展開に対応するため、また宇宙条約の要請に応えるために、インド政府による宇宙活動計画の策定、コンプライアンスの確保、技術的・専門的な支援、国際条約に基づく義務に適合しているか監視するなどの根拠法が必要です。
インド宇宙活動法案のポイントは、
①商業宇宙活動の許可制
②損害賠償ルールの整備
③適切な方法で国際的な慣行に従い宇宙活動から生じる責任問題に対処
することを規定し、宇宙条約の要請に応えると共に、民間事業者の参入(世界のマーケット含めて)を促すことにあります。
規制すべき点は規制し、他方で過度に規制をすることないような制度設計が検討されている点が重要です。
許可制
インドの宇宙活動法案では、商業宇宙活動を行う場合には政府の許可が必要とされています。
他国の法律では、対象となる人や行為(打上げなど)が明示されている場合もありますが、インドの場合は一切の商業宇宙活動が許可の対象とされています。
この「宇宙活動」は、「宇宙物体の打上げ、使用、運用、誘導、宇宙空間への突入・再突入、これらの目的のための調達を含むこれらの活動を実行するためのすべての機能」と幅広く定義され、「商業宇宙活動」は、「収益または利益を生み出し、あるいは生み出すことのできる宇宙活動」と定義されます。
この許可を出すにあたっては、公衆衛生、個人の安全・財産に危険が生じないこと、インドの国際的な義務に違反していないこと、インドの主権、完全性、安全性、防衛、外国との友好関係を維持し、公序良俗に違反しないことが必要です。
また、具体的な手続の内容についても規定されています。
なお、「宇宙物体」については、以下のように定義されています。
①地球軌道または地球軌道を越えた地点へ打ち上げられた、または打ち上げられることを意図した物体
②①の物体を軌道上に打ち上げることを目的とする機器(開発中、検証段階でも該当)
③①、②の物体の構成要素
登録
宇宙物体については登録が必要です。
国際的な登録については宇宙物体登録条約があり、インドも批准国となっています。
損害賠償
インドの宇宙活動法案には、宇宙活動や宇宙物体に関して第三者が被った損害・損失の賠償ルールが規定されています。
宇宙活動の許可を受けた者は、第三者から政府が受けた請求について賠償しなければなりません。
一見酷なように見えますが、許可の際に、政府は金銭的保証・保険を手配するようにしなければならないと規定されており、全くの金銭的後ろ盾なしに宇宙活動を行うことを強いられるわけではありません。
知的財産権
インド宇宙活動法案には知的財産に関する規定があります。
法案には、宇宙活動の過程で生まれたすべての発明・知的財産権は、国家安全保障を主な目的として、当面の間、法律によって保護されると規定されています。
ところが、宇宙空間の宇宙物体上で開発、生成、または作成された知的財産権はすべて、政府の財産とみなされるとも規定されています。
つまり、知的財産としては保護されるとはしつつも、政府のものとしているのです。これは民間事業者にとっては痛手であり、この条項がインドの民間事業者の参入の妨げとなってしまうことにならないか懸念されています。
情報の取扱い
インドの宇宙活動法案には、政府が宇宙技術、システム、運用、プロセス、手順に関する情報を他の人に開示することを制限するための規定があります。違反に対しては罰金の制裁があります。
この規定は、官民連携でプロジェクトを進める際や、公的部門に属する機密資料の民間パートナーによる漏洩対策を目的としています。
参考:
・Explanatory note on Draft Space Activities Bill, 2017
・An Indian Space Law: Long Overdue Rakesh Sood