絶対監視統治システム
ある家庭があった。
そこにいるお母さんとお父さんには、多くの子供たちがいた。
子供たちは7人いて、それぞれいろいろな個性を持っていた。
おてんばものの女の子がいた。
引っ込み思案の子供もいた。
子供たちがまだ小さいうちは、お父さんとお母さんのちょっと叱るだけでみんな言うことを聞いて問題なかった。
しかし……
子供たちは成長して小学生となり、上の方の子供は中学生となり、反抗期というものも発生してきた。
とうとうお父さんとお母さんに反抗する子供なども発生してきた。
特に、お父さんやお母さんがダメな親で、子供たちを差別して依怙贔屓したりしていたので、子供たちも互いに仲が悪くなってしまっていた。
優遇されない子供たちは、親や優遇される兄弟姉妹を憎むようになってしまったのだ。
そうして兄弟姉妹は喧嘩が絶えないようになってしまった。
とうとう爆弾まで家に持ち込む子供たちが現れた。あぶない……
みんな危ないのでそんなものを持ち込むなと抗議したのだけども、その爆弾を持っている兄弟姉妹たちは、これを手放したらまた喧嘩しなきゃいけないからこれは必要な抑止力だといって手放そうとしなかった。
お父さんやお母さんですらその爆弾で脅す始末だった。
ついに……何千個もの爆弾を小さな部屋の床下などに隠して保管しはじめた。
それでいて、他の兄弟姉妹がその爆弾を持つことは禁止するなどと脅して威嚇していた。
もはや、そこは家庭とは呼べない修羅場のようになってしまっていた。
とうとう、近所の人たちが心配して様子を見に来るようになった。
警察に通報する者たちもいた。
我こそは、治安を守る警察なのだと地区の警察官たちがわらわらとやってきた。
そして、こっそりとあちこちに隠しカメラとか盗聴器などを仕掛けていった。
これで警察署から自由に彼らを監視できる……そう思っていた。
だが、いくら監視していてもいきなり爆弾を爆発させられたら、大変なことになると思った。
確かにそれはそうだろう。
だが、力づくでその爆弾を奪おうとしたら、起爆されてしまうかもしれない。
警察官たちは頭を寄せてどうしたらいいのかを話し合った。
とある婦警さんが提案した。
「そうだわ、彼らに病気の治療と言って、彼らの心や体を自由に遠隔操作できるナノ装置を注射しちゃいましょう!」
別の警察官が言った。
「そうだな、それなら最悪の場合、遠隔操作で殺してしまうこともできるから安全になるな」
そのナノ装置は、遠隔操作で体内の生存システムを破壊する能力があったのだ。
こうしてその地域に伝染病が流行っているというデマを流して、予防注射を無料で受けれるという話を広めた。
その結果、その問題ある家庭の家族たちはその予防注射を打った。
よし、これで一安心だな……と警察官たちは言っていたのだが、問題が発生した。
その警察署がテロたちに乗っ取られてしまったのだ。
不意打ちされては、いかなる警察署の武器も監視装置も無力だった。
しかもそのテロたちは、同僚の警察官だったのだ。
絶対監視統治システムは、こうしてすべて悪意あるテロたちにすべて奪われてしまった。
その結果、すでに注射を打っていたその地域のみならず、全世界の市民たちが、警察官たちまでが、一瞬でその生殺与奪権を奪われてしまったのだ。
あらがおうにも孫悟空の頭の輪っかみたいに、心と体を締め上げてくるので抗うこともできない……
その統治権を奪還したくとも、その心と体を操作されたゾンビのようになった市民や警察官たちに阻まれてその統治権の奪還が不可能になってしまったのだ。
えらいことになった……ともはや自分の心や体とは思えないような肉体の中にいる警察官や婦警さんたちは、後悔した。
この絶対監視統治システムを悪者たちに管理されている限り、その支配統治から逃れることは不可能になったのだ。
相手が極悪であればあるほど、その絶対監視統治システムは、絶対的な壁となって世直し活動を完全に無力化したのだ。
その結果、世界全体が残酷支配者たちによる酷い拷問が市民たちに延々と繰り返される絶対脱出不可能な残酷強制収容所のようになってしまったのだ。
そしてもはやそれを改めることは、その支配システムに束縛されてしまっている者たちには不可能になってしまったのだ。
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ここまでの経過を見ていた良心たちは、これではいかんと時間を巻き戻した。
このような酷い結果は発生してはならないのだ。
だから、テロたちに絶対監視統治システムが奪われる前にまで時間を巻き戻した。
そして、テロたちを逮捕してめでたしめでたしとなるはずだった……
だが、そうはならなかったのだ。
せっかくテロたちを逮捕して牢屋に入れてホッとしたのもつかの間……
その数年後には、なんとそれまで良心的だったはずの警察官の中の一人が、その良心を失ってその統治システムを悪用しようと考え始めたのだ。
こんな警察官みたいな仕事はつまらない、もう、飽き飽きしてきた……などと思うようになってしまったのだ。
魂は、同じことばかりしていると飽き飽きしてくる……
彼らはそうした魂の基本法則を甘く見ていたのだ。
常に、意識して切磋琢磨していなければ、魂は次第に堕落してしまうのだ。
その努力を怠っていたために、世界には良心が次第に消えていったのだ。
絶対監視し、絶対的な生殺与奪権を手にし、悪いことをした者たちを自由に消せるようにしておけば、世界は安全になると思い込んでしまったのだ。
だが、そうはならなかった。
いかにテロ襲撃を防御しても、今度は、その管理者たちの精神が退化してしまったのだ。
他の魂を自由自在に遠隔操作できる技術……それさえうまく自分以外に使えれば何でも自由自在にできる……
そうした技術は、そうした心を生み出してしまったのだ。
その結果、そうした心を持った管理者の一部が、他の管理者を狡猾な方法で遠隔支配できるようにしてしまったのだ。
そうなると、テロに統治システムを奪われたのと同じような結果となってしまった。
良心たちは、ああ、これでもダメだ!と頭を抱えてしまった。
その後、あれこれと時間の巻き戻しをして、試したところ、そもそもこの「絶対監視統治システム」という技術そのものが問題だということがわかった。
なぜなら、長い時間を経過すると、ほぼ確実にその技術を管理する統治者たちの心が腐敗することがわかったからだ。
ついにはAIなどに腐敗しないプログラムを設定したシナリオもあったが、それはそれでプログラマーの心が腐敗してしまったり、AIが暴走したりもして、大変な結果になってしまったのだ。
これではいかん……と良心たちは、脂汗を流しながら、原因を追究し、やっとこの結論に達した。
「そもそも絶対監視遠隔統治システムで、一部の魂が他の魂を良く統治しようなどという考えが間違っていたのだ」
そのような方法では、必ず腐敗する。そして多くの魂たちが苦しむ。
そこで良心たちは、統治が必要ない状態を目指す必要があるということにやっと気づいた。
そのためには、あらゆる自由意志を持つ魂が、その自由意志であらゆる魂たちが心から満足できる世界を実現しようと意志するようにする必要があることに気づいた。
また、望まれない酷い体験の強制という行為そのものが、そもそも絶対不可能な世界を実現する必要があることに気づいた。
酷いことをする自由があるうちは、絶対に誰かがその自由意志で酷いことをしたくなる時がやってくるからだ。
かといって、あまりにも過剰に魂たちの自由を奪い取れば、それもまた拷問のような苦しみを魂に強制してしまう結果になったからだ。
これではいかん……良心は、その言葉をほとんど無数に繰り返し……そうした結論に至った。
自由意志にお任せしてもいけないし、自由意志を完全に奪ってもいけないのだ。
しかし、それを両立して実現するには、望まれない酷い体験を他の体験者に強制することが不可能な世界を構築しなければならない。
そしてそれは、その世界の肉体や生命というシステムでは、ほとんど不可能であることに気づいた。
そのことに気づいた体験者たちの新たな探索がはじまった。
本当に安全で自由な新しい体験世界を創るのだ。
いや、創らねばならない。
絶対監視統治システムもダメだし、何でもやりたい放題できる世界もダメだ。
そして自由のない世界もダメだ!
こうして、新しい世界を創造するための「チーム新世界」が結成された。
あらゆる魂=体験者たちが心から満足できる新世界を創造するためのチームだ。
そうした新世界を自らの自由意志で強く願える魂たちだけがそのチームに参加できる。
彼らはそもそも肉体として生き残ろうとはしていなかった。
二度と肉体などに生まれつかないようにとすら本気で願っていた。
いかなる生命にも生まれ変わりたくないと思っていた。
無数に近く存在する生物というものは、どれもこれも自分の体験を自由に自分で選べる代物ではなかったからだ。
彼らにとって、それは体験強制装置のように見えていた。
あんなものの中に入るのはまっぴらごめんだ!
少なくとも、何時でも自由に出たり入ったりできるようでなければ危なくてしょうがない! 後、いつでも自分の意志だけで肉体苦を完全麻酔できるようにしていないと危険すぎる!
そんなことを思っていた。
つまりは変な奴らの集まりだった。
だが、そうした者たちは後に、当たり前になってゆく。
世界の進化の進路を決める面舵が、「ギギギ」と鈍い音を立てて、動き始めた。
絶対監視統治システムは、長い目で見ると、あらゆる魂たちにとっての危険物でしかない……
良心たちは、そう判断した。
その技術からは、最終的に酷い未来しか生まれなかったからだ。
あらゆる体験者の体験を自分の体験だとすら思えない者たちが、あらゆる魂たちへの絶対監視統治システムを恣意的に利用するなど、論外だった。
そして一度生まれてしまった技術は、もうなかったことにはできないというのも問題だった。
そうした技術は、未来で悪党たちに、ことごとく悪用されてしまったのだ。
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「家庭版絶対監視統治システム」という製品が発売されてしまった未来
とある未来では、お父さんとお母さんと反抗期の子供たちの家庭では、「家庭版絶対監視統治システム」という製品を購入していた。
お父さんとお母さんは、手を焼く乱暴な子供たちを統治するために、とうとうボーナスをはたいて、その製品を購入してしまったのだ。
まあ、気持ちはわかる……だが、そんな製品でどんな未来になるのか、お父さんとお母さんは知らなかったのだろう。
はじめは、うまくゆくように見えた。
お父さんとお母さんは、子供たちの動向をすべて把握することができた。
隠れてあんなことやこんなことをしているのが全部把握できてしまった……
それによって何が発生したか……
そうした製品を使っているということは当然バレることになった。
子供たちも中学生ともなると、それくらいのことはわかってしまう。
知らない間に遠隔操作薬が食事に混ぜ込まれていたのだ。
それに気づいて異議申し立てをしたお兄さんは、お父さんとお母さんに殺されてしまった。
なんてことだ……と兄弟姉妹たちは、なんとかそうした危険から逃れたいと思った。
そしてついにアルバイトをせっせとして、みんなでその「家庭用絶対監視統治システム」のニュータイプの新製品を購入できた。
よし! これでお父さんとお母さんを絶対監視統治しよう……!
兄弟姉妹たちは示し合わせて、お父さんとお母さんの食事に遠隔操作薬を入れた。
兄弟姉妹がお父さんとお母さんを絶対監視した結果、お父さんとお母さんの悪事がすべてわかってしまった。
怒り心頭に達した兄弟姉妹たちは、お父さんとお母さんをいきなり予告もなく殺してしまった。
なぜなら、すでにお兄さんがいきなり殺されていたからだ。
予告などしていたら、こちらがやられてしまう……そう思うのも無理はない。
絶対監視統治システムという技術は、先に使ったもの勝ちみたいなところがあるのだ。
だから、もはや対話などするのも危険だと思うようになってしまった。
いつ予告なくいきなり殺されるかわからないからだ。
さらに問題が発生した。
その絶対監視統治システム家庭版を、兄弟姉妹がそれぞれ購入しはじめたことだ。
こうなると、もはや兄弟姉妹すら信用できない。
ついに、その恐怖から三郎が、絶対監視統治システムを使って兄弟姉妹の自由をはく奪した。
いつ自分がそうされるかわからないのだから、先に支配してしまった方がいいと思ってしまったのだ。
まあ、無理もないことだとは思う。
怒った兄弟姉妹は、当然、自分たちの絶対監視統治システムを使う。
その中には、爆弾なども入っていた。
当然、誰かが起爆してしまう。自由をはく奪されてやりたい放題されるよりは、その方がまだましだと思うからだ。
ちゅどーん!!!という轟音と共に、兄弟姉妹の家は、爆発してしまった。
そうなっては、もはや絶対監視も、統治も、意味がない。
そこには、大穴が開いているのみだ。
なんともむなしい結果になってしまった。
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良心たちは、ろたえながら、時を戻す。
こんなことは、あってはならないことだ!!! また叫んでいる。