永遠痛みに終わりは無いよ。

 私はついに、死のうと思った。
 人生が、どうしても嫌だった。何もかもが上手くいかず、この先の未来に温かい光が見えなかった。いわゆるお先真っ暗というやつで、どうしようもなく怖かった。
 なにもできなかった。体は、その内に重りを埋め込まれているのではないかと思ってしまうほどに重く、汚くも安心感のある布団から、起き上がることすらできない日が続いた。
 しかし、本気で死のうと考えたとき、それは変わった。急に心と体が軽くなって、それに向けてなら十分に動き出せて、何日も出ていない部屋からも簡単に出れて、家から何キロも離れたホームセンターにも、容易に足を運べた。
 風呂に入っていない私のことを、他人は不審者を見る目で見てきたのかもしれない。しかし、もうどうでもよかった。ホームセンターの入り口付近にある案内板を見て、さっさとロープを買って帰った。店員の全てを察しているような目は、もちろん無視した。
 そうして家にたどり着いても、私の自殺願望からくる高い行動力は消えなかった。私はまず、物干し竿を取りにベランダに向かった。何日も前の、カサカサになっている洗濯物をその場に落とし、頑丈そうな物干し竿を手に取ると、それとロープを持ってトイレに駆け込んだ。
 汚い便器の蓋を閉じ、それの上に乗る。そして物干し竿の長さを調節し、トイレの壁の上のほうにつっかえさせてから、それにロープを結び付け、さらにその先に、私の首が来る輪っかを作る。やり方はいくつかの本で読んでいたので知っていたが、それでもロープを扱う経験が皆無な私は手こずった。
 しかし、できた。不格好な輪っかだったが、今の私にはそれが幸福への扉に見えた。手足は震えなかった。いつかに読んだ文では、本当に自殺を前にすると恐怖を感じてしまうと書いてあったが、別に怖くはなかった。
 私はためらわなかった。もう何もなかったので、すぐに輪っかに首を通し、そして足をつけていた便器から足を離した。そうすることで体重がかかり、首のナントカという血管だか何だかが閉じられるだかして、簡単に死ねる。
 首吊りは眠るように死ねる。そう聞いた。しかし今の私の体にじわりと感じているものは、眠るように、だとか、そういう穏やかなものなんかではなかった。
 喉が締め付けられている。栓がされているような苦しいだけの窒息感と、首全体に感じる、硬いロープの痛み。
 私は目を見開いていて、自分でもよくわからない声を必死に上げていた。ただ苦しく、痛い。首のロープをはがそうと、両手でロープや首のあたりをボリボリと掻きむしる。しかし頑丈なロープはびくともせず、逆に長い間切っていなかったせいで長い指の爪を剥がしにかかる。そうすることで、指には焼けるような痛みが走る。私は牛のような悶絶声をできる限りの声量で上げていた。それでも痛みは無くならない。狭いトイレの汚い壁を、同じくらい汚い足でどんどんと蹴りつけても、それは変わらなかった。
 締め付けられるようなその痛みは、永遠に続くとすら思えた。

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