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突如消えた現代版領解文「浄土真宗の救いのよろこび」

2009年に発行された「拝読 浄土真宗のみ教え」には、現代版の領解文として「浄土真宗の救いのよろこび」が収められていました。しかし、それが2019年には明確な説明がないまま改訂版で削除されました。改訂版には改訂編集委員会の報告書が一部記されていますが、全く意見を取り入れずに総局判断で削除しています。

ここに、初版と改訂版の説明文を掲載します。


暗唱法文「浄土真宗救いのよろこび」(案)について

『宗報』487号(2007年6月号)

【制作の基本理念】
<『領解文』『浄土真宗の生活信条』『浄土真宗の教章』の果たしてきた役割>
 浄土真宗では、蓮如上人の時代から、『領解文』が「真宗教義を会得したままを口にして陳述する」(注釈版-領解文解説)ものとしてえ依用されてきました。内容は簡潔であり、当時の「一般の人にも理解されるように平易に記されたもの」(同上)であり、今なお「領解出言」の果たしている役割は大きなものがあります。
 しかしながら、時代の変化により、『領解文』の理解において、当初の目的であった「一般の人にも理解される平易さ」という面が薄れてきたことは否めません。また、古語であるため、現代の人々に誤解を生む可能性も生じてきています。そのため、「浄土真宗の教章」や「浄土真宗の生活信条」が創出されてきました。「浄土真宗の教章」は、五項目にわたって浄土真宗の骨格を示すものであり、「浄土真宗の生活信条」は念仏者の生活の心構えが示されています。いずれも、その果たしてきた役割は大きなものがありますが、宗門の骨格や生活の心構えであるがゆえに、『領解文』で述べられるような、教えの内容や親授した領解が直接説示されているわけではありません。

<制作の意図>
 『領解文』の精神を受け継いで、現代の人々にわかりやすい表現で浄土真宗の教えによる救い・信心の喜びを暗唱し陳述する法文を作成しました。
 『領解文』は、宗門において重要な位置を占めるため、存続します。暗唱法文「浄土真宗の救いのよろこび」(案)は『領解文』に代わるものではなく、さらなる伝道資料としての依用を意図するものです。

<活用の目的>
 僧侶や門信徒が浄土真宗の救いのよろこびを、日常的にあるいは法座などにおいて、口に出して繰り返し味わうことによって、ご法義を宣揚することを目的としました。

<対象>
基本的には、浄土真宗の門信徒を対象としました。

<表現の形式>
・「浄土真宗の生活信条」はわかりやすく言葉のリズムのよいものです。これに倣ってわかりやすく、言葉のリズムがよく、格調あることに留意しました。文章は基本的に口語体とし、一部文語的表現を用いました。
・言葉のリズムを考慮し、基本的に7音5音としましたが、現代語のリズムである8音5音の形式も使 用しました。
・浄土真宗にとって欠くことのできない基本的な用語を入れ込み、繰り返し味わうことで印象深くなるものとしました。また、基本的な用語を用いながらも、わかりやすい文脈にすることで、一般にもある程度理解できるものとしました。
・『領解文』が文字数207字・音数254音であることを参考にして、文字数207字・音数250音としました。

<内容>
・「浄土真宗の生活信条」と対になって依用されることを意識し、「生活信条」の「み仏の誓い」「み仏の教え」の部分の内容を明記しました。また、表題も「浄土真宗の救いのよろこび」として、「浄土真宗」を付しました。
・念仏者の領解を基本として、「私によびかけます」「私の心」という表現としました。
・「阿弥陀如来」「南無阿弥陀仏」「宗祖親鸞聖人」「浄土真宗」など浄土真宗にとって欠くことのできない基本的用語を入れました。
・阿弥陀如来の本願は南無阿弥陀仏の名号となってはたらき、その名号のいわれを聞きひらいて信心が恵まれ、信心決定の上は報謝の念仏を称えつつ、報恩の生活に勤しみ、命終えれば浄土に往 生して仏果を得、還相摂化の活動をするという教義の概要を示しました。結びに宗祖のご遺徳を示し、伝道の決意を表しました。
 第一段 - 本願・名号
 第二段 - 聞其名号・信心歓喜 
第三段 - 摂取不捨・称名報恩・報恩の生活
 第四段 - 往生成仏・還相摂化
 第五段 - 宗祖遺徳・伝道

<形態>
 制作意図でのべたように、新たな伝道資料を提供するものですから、さまざまなばで活用されることを検討しました。
<モニタリング>
 本法文の形式や内容がどう受け止められるかを推し量る目的で、モニタリングを行う予定です。

『宗報』487号(2007年6月号)

拝読 浄土真宗のみ教え

2009年7月15日 第一刷発行
編集 『拝読 浄土真宗のみ教え』編集委員会
発行 本願寺出版社

発行にあたって

 親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画の一環として、2005(平成17)年、教学伝道研究所に「教学・伝道の振興にかかる企画制定委員会」が設置されました。委員会においては、親鸞聖人が顕らかにされた浄土真宗のみ教えを、現代の人々に親しみやすい表現によって示し、正しく領解した上で味わいを深めることのできる文章の制作が企画されました。
 その研究成果が、『領解文』のよき伝統とその精神を受け継いだ「浄土真宗の救いのよろこび」、ならびに『御文章』のよき伝統とその精神を受け継いだ「親鸞聖人のことば」であります。
 2009(平成21)年には、「『拝読 浄土真宗のみ教え』編集委員会」が発足し、「浄土真宗の救いのよろこび」「親鸞聖人のことば」を収めた『拝読 浄土真宗のみ教え』の刊行が企画されました。一人でも多くの方に、浄土真宗の教えに触れていただき、その味わいを深めていただきたいという願いのもと事業が進められ、このたび刊行の運びとなりました。

2011(平成23)年4月より2012(平成24)年1月まで、親鸞聖人750回大遠忌法要が厳修されます。この大きな節目を迎えるにあたり、聖人が顕かにされた浄土真宗のみ教えを深く受けとめ、いよいよ聞きよろこんで、今を生きる私たちのより処としていただくことを念願いたします。
浄土真宗本願寺派 総長 不二川公勝

発行にこめられた思い

 親鸞聖人が顕かにされた、阿弥陀如来のご本願の救いである浄土真宗は、親鸞聖人のご往生の後も750年の長きにわたり、私たちの人生のより処として大切に受け継がれてまいりました。
 親鸞聖人のみ教えが伝えられる上で、『御文章』や『領解文』が非常に大きな役割を果たしてきたことはよく知られています。『御文章』や『領解文』には、平易な言葉が用いられ、当時の人たちに真宗教義の要が領解されるよう示されました。「御文章拝読」「領解出言」といった形式を通してそれらを口に出言し、耳に聴聞することによって、み教えの理解とその法に出あえたよろこびは大いに深められてきました。『御文章』『領解文』は、浄土真宗においてなにもにも代え難い大切なものであることはいうまでもありません。
 しかし、時代の変化とともにことばは変わります。『御文章』『領解文』も現代の私たちにはその意味が理解しにくくなってきた面があることは否めません。そのため、『御文章』『領解文』の精神を受け継ぎ、現代のことばで表現され、み教えに出あえたよろこびを深めていくことのできる文章が求められてきました。このたび、そのような求めに応じて「浄土真宗の救いのよろこび」「親鸞聖人のことば」がつくられ、これらを阿弥陀如来の尊前で拝読・拝聴していただけるように『拝読 浄土真宗のみ教え』を作成いたしました。

『拝読 浄土真宗のみ教え』刊行にあたってより

浄土真宗の救いのよろこび

浄土真宗の救いのよろこび
阿弥陀如来の本願は かならず救うまかせよと
南無阿弥陀仏のみ名となり たえず私によびかけます
このよび声を聞きひらき 如来の救いにまかすとき
永遠に消えない灯火が 私の心にともります
如来の大悲に生かされて 御恩報謝のよろこびに
南無阿弥陀仏を称えつつ 真実の道を歩みます
この世の縁の尽きるとき 如来の浄土に生まれては
さとりの智慧をいただいて あらゆるいのちを救います
宗祖親鸞聖人が 如来の真実を示された
浄土真宗のみ教えを 共によろこび広めます

浄土真宗の救いのよろこび

拝読 浄土真宗のみ教え(改訂版)

2019年10月15日 改訂版第一刷発行
発行者 浄土真宗本願寺派 総長 石上智康
編集・発行 本願寺出版社

『拝読 浄土真宗のみ教え』改訂にあたって

 『拝読 浄土真宗のみ教え』(以下『み教え』と略称)は親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画の一環として、親鸞聖人が顕かにされた浄土真宗のみ教えを、現代の人びとに親しみやすい表現によって示し、正しく領解した上で味わいを深めることのできる文章として企画され、刊行されたものです。
 『み教え』は、2009年7月に刊行されて以来、10年ほどが経過しましたが、その間、2014年6月に専如ご門主が即如ご門主より法義の伝統を継承され、2016年10月1日、伝灯奉告法要の初日、ご親教に立たれたご門主は、「念仏者の生き方」を広く宗門内外にお示しになりました。さらにご門主は「伝灯奉告法要御満座の消息」でも「念仏者の生き方」について言及されておりますように、これは宗門の今後の方向性を示された大変に重要なご教示であります。
 このような次第をふまえ、『み教え』の編纂に携われた方々の制作意図を尊重しつつ、「念仏者の生き方」によって示された生き方を、『み教え』にも掲載する必要があるとして、『み教え』改訂編集委員会が設置され、全文の内容・構成をふくめ検討するなかで、委員会からは2018年9月30日付けで次のような報告書が提出されました。

1、「浄土真宗の救いのよろこび」の題名と内容については、加筆・訂正を行わない方向で検討すべきとした。
2、一部委員が「念仏者の生き方」の内容を承けた私たちの学びを、別の文章(短文二案)として作成し、それを「浄土真宗の救いのよろこび」の後に入れるよう提案がなされた。
3、「念仏者の生き方」に引用された親鸞聖人のご消息を<親鸞聖人のことば>に新たに収録する。
4、「念仏者の生き方」全文を『み教え』の中、適切な箇所に入れる場合には、「浄土真宗の教章」の後に収録することで意見が一致した。ただし、「2」に関連する事項として、「念仏者の生き方」本文を『み教え』の中に入れるならば、短文の必要はないとの意見があった。

 なお、改訂編集委員会としては、「これを一応の報告とさせていただき、今後は、総局において文言をふくめて、検討、決定して下さいまうよう一任いたします」ということであります。
 この報告書を承けた直後、2018年「秋の法要」におけるご親教で、ご門主から「このたび『念仏者の生き方』を皆様により親しみ、理解していただきたいという思いから、その肝要を次の四カ条にまとめました」として「私たちのちかい」のご教示がありました。
 そこで総局において総合的に検討いたしました結果、旧版『み教え』の基本的な編纂方針を継承しつつ、改訂に際しては、典拠が明確であり、しかも現代人にもわかりやすいことを原則として、

一、全体的な構成を、<親鸞聖人のことば>、<ご門主のことば>、<折々のことば>の三部とする。
二、<ご門主のことば>として、勝如ご門主の「浄土真宗の生活信条」、即如ご門主の「浄土真宗の教章(私の歩む道)」に加え、専如ご門主の「念仏者の生き方」および「私たちのちかい」を新たに収録する。
三、<親鸞聖人のことば>に、「念仏者の生き方」に引用された親鸞聖人のご消息とその味わいについて、改訂編集委員会の文案を加える。
四、<折々のことば>は従来のものをそのままとする。

との具体的な方針を決め、このたび『拝読 浄土真宗のみ教え』改訂版として発行することといたしました。
 この改訂版が、これまでにもまして、私たち一人ひとりが真実信心をいただき、あらゆる人びとに阿弥陀如来の智慧と慈悲を伝え、念仏者の生き方に学び行動する拠りどころとなりますよう願ってやみません。

2019(令和元)年9月
浄土真宗本願寺派 総長 石上智康


「救いのよろこび」が削除される経緯

2009年
・『拝読 浄土真宗のみ教え』発行
2015年
・宗門総合振興計画の事業に「現代版領解文を制定し、拝読する」
2018年
・『拝読 浄土真宗のみ教え』改訂編集委員会 設置
・7/27 第一回委員会
・9/20 第二回委員会
・委員会より総局へ意見書提出
・10~11月「実態把握調査(真宗教団連合)」にて「救いのよろこび」のアンケート
2019年
・1/21「実態把握調査」結果報告
・10月 改訂版を発行。「救いのよろこび」削除
2021年
・ご親教「浄土真宗のみ教え」を発布
2023年
・新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)を発布
・宗報の経緯説明には「救いのよろこび」が削除されたことは触れず完全抹消。


「救いのよろこび」の再掲載を求める意見具申(福岡教区)

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