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宗会傍聴のすすめ-3時間20分の審議中断が示唆するもの-

実際に宗会の本議会を傍聴した経験のある方はあまり多くないのではないかと思います。しかし考えて見ると本願寺派の最高議決機関である宗会は、現在の宗派の方向性や実情を如実に反映しているはずで、宗会を知らずして宗派を語ることはできないでしょう。当会では、令和6年春の定期宗会を手分けして傍聴しました。その記録の中から、今回の宗会の印象的な部分をみなさんに読んでいただこうと思います。なお、宗会の傍聴席では録音は禁止されていますので、元になったのは傍聴者のノートだけです。発言の詳細や発言者については、議事録が公開された段階で見直しますのでご承知おき下さい。

松原議員は3月1日金曜日の午後、2人目の質問者として通告質問に立たれました。質問開始が13時20分ごろで、内容は「新しい領解文」に関してでありました。松原議員は、「新しい領解文」が出されたときのプロセスを総局に確認した上で、次のように問われました。

松原議員
ご消息には「多くの方々にさまざまな機会で拝読唱和いただき…」とある。ご門主さまがご自身の言葉を「拝読いただき」と言うのは、敬語の使い方をまちがっている。まちがった言葉づかいのままでご消息を出したことにより、ご門主さまを傷つけていることになる。
また、総長は方針演説の中で「新しい領解文」を「ご門主さまに制定いただいた」と発言されたが、制定ということは立法の仕事であり、ご門主さまではない。権限のない行為をご門主さまがされたというのは、ご門主さまに法規違反をさせたことになる。これらのことについて、総局の責任を問う。

これに対して総局は、一般論としてご消息の責任は総局が負うものであると答えられましたが、そこから具体的な話に進むことができず、議事は停滞して休憩となりました。13:40~15:45(約2時間)という長い休憩でした。総局の答弁から再開です。

総局
「ご門主さまに制定いただいた」というのは、法規上の制定のことではなく、一般的な広い意味で使っている。だからご門主さまに法規違反をさせたことにはならない。

松原議員
「新しい領解文」は法規に基づいて制定したと言っておきながら、制定は広い意味だというのは言葉の使い方が粗(あら)すぎる。この件はご門主さまに法規違反をさせた。責任をどう取るのか。

総局
法規違反をしているという認識はない。

松原議員
制定は立法の仕事である。この件は明らかにご門主さまを法規違反者にした。私たちはご門主さまを守る立場であるはずだ。違反の認識はないというのは通用しない。

このあと総局は、勧学寮が同意したことや、制定という言葉は広い意味だとくりかえすばかりで議論はまた停滞します。議長が助け船を出しました。

議長
言葉がずれているようです。

総局
松原議員は我々がまちがっているという前提に立っている。総局はそのようには考えていない。

松原議員
私が問題にしているのは、広い意味か狭い意味かではなく、制定とは定めることであって、ご門主にさまその権限はないはずだということ。

総局(池田総長)
演説の中の「制定」という言葉を訂正させていただく。

松原議員
それで終わりとするのか。責任とはそんなものではないはずだ。

審議再開してわずか20分の16:05に議長は二度目の休憩を宣言します。1時間15分の中断の後、17:20に本会議は再開されました。

総局(総長)
松原議員の質問にお答えする。混乱を生じているが、覚悟をもって解決に取り組む。

松原議員
総局の決意を承った。質問を終了する。(本会議終了)

17:20の議事再開から審議終了までわずか2分程度。初傍聴だった私には、最後に何が起こったのかさっぱりわかりませんでした。それから数時間後、池田総長が辞意を固めたらしいという噂が流れてきました。この噂は、宗会最終日に辞任表明がなされたことで、それなりの信憑性があったことが判明しましたが、通告質問の最後の総長の答弁から辞意のようなものを感じ取ることはできませんでした。それでも、質問者の松原議員が総局答弁に「決意を承った」と返しているところには、何らかの了解内容があったと見るのが自然でしょう。

午後1時の審議開始から午後5時22分の終了まで4時間22分、その間の中断は3時間20分におよび実質審議は1時間しかありません。この日のポイントは、中断時間の間に何が行われたかだと、私は考えています。審議の中断は2回ありました。最初は松原議員の質問に総局が答え始めたところで、2時間にわたっての長い中断でした。議員が、総局の「制定いただいた」という表現、ご消息に見られる「拝読いただき」という言葉づかいは不適切であるばかりか、ご門主さまを傷つけるものだという指摘をし、総局がそのような認識はないと否定したときです。これまで領解文の問題は、制定方法や教義上の疑問についての質問や指摘がほとんどで、言葉づかいにかかわる指摘は皆無でしたので、予想外の展開に総局側は混乱をきたしたのではないかと想像します。

2回目の中断中には、質問者側と総局側の意見をすりあわせ、混乱をなんとか着地させる方策が議長を中心に探られたはずです。それがあったからこそ、「覚悟して取り組む」「決意を承った」という、謎めいたやりとりで議論を収束させることができたのでしょう。尚、「覚悟して取り組む」という言葉に対する行動は総長辞任という結果になり、「制定という言葉を訂正」に関しては、「宗会だより」の通告質問に答弁が記されているのみで、まだどこにも発表されていません。

これを読んで興味を持った方、ぜひ来年春の定期宗会に足をはこんでいただきたいと思います。また可能であれば、今は開会式だけがネット中継されている宗会が完全公開されることを期待します。



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