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週休3日制で実現する新しい地域づくり -椎葉村特定地域づくり事業協同組合-
私が理事長を務める椎葉村複業協同組合(通称:KATERI WORK)は、総務省の特定地域づくり事業協同組合制度を活用して設立された組合です。2025年1月23日現在、3名の職員が在籍し、一部の職員は週休3日制を選択して地域で活躍しています。
特定地域づくり事業協同組合は、中山間地域の人材不足や雇用機会の減少といった課題に対応するために設けられた制度です。この仕組みは、今後の中山間地域経営の鍵になるではないかと考えています。
このnoteでは、特定地域づくり事業協同組合の概要と、なぜ週休3日制を取り入れたのかをお伝えしていきます。
このnoteを読んでほしい方
特定地域づくり事業協同組合制度に興味のある方
中山間地域の将来や政策に興味のある方
週休3日制に興味のある方
1.特定地域づくり事業協同組合とは? その仕組みと可能性
そもそも、特定地域づくり事業協同組合ってなんですか?という方向けに制度の説明です。
特定地域づくり事業協同組合は、地域内の複数の事業者が協力し、人材を共同で雇用する仕組みです。この総務省の制度は、特に中山間地域の雇用環境を改善することを目的としています。
KATERI WORKは、この制度に基づき2023年10月10日に宮崎県椎葉村で設立され、6つの事業者(=組合員)が集まりスタートしました。現在では組合員数が7つに増えています。移住者3名を正規職員として雇用し、時期に応じて各組合員へ派遣しています。
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特に中山間地域では季節ごとに仕事量が変動する業種が多いのが特徴です。一つの事業所でフルタイム雇用を維持するのが難しい場合でも、協同組合として仕事をシェアすれば、年間を通じた安定した働き方を実現できます。
組合制度について、もっと詳しく知りたい!という方は総務省のこちらをご覧ください。
2.地域づくりという言葉の意味
2-1.「地域づくり」の定義
制度名の中にある「地域づくり」という言葉は漠然として捉えづらいかもしれませんが組合制度の核心にあるのは、実はこの言葉ではないかと考えています。
地理学者・宮口侗廸氏は、著書『新・地域を活かす』で「〈地域づくり〉とは、『時代にふさわしい地域の価値を内発的につくり出し、地域に上乗せする作業』」であると述べています。この定義からわかるように、地域づくりは一過性の取り組みではなく、時代や価値観に応じて進化するプロセスです。
また、小田切徳美氏は『にぎやかな過疎をつくる:農村再生の政策構想』の中で「貨幣的な価値に限定されるものではなく、環境、文化、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)等も、地域の重要な価値であろう。」と指摘しています。
地域づくりは単に経済的な成功を目指すのではなく、地域の文化や環境、住民同士のつながりといった幅広い価値を育むことが求められているのです。
つまり、実務家として勝手に大雑把に表現してしまうと、「地域づくり」とは経済的・環境的・文化的・社会関係資本的価値を上乗せし続けることと言えそうです。
2-2.組合職員の「地域づくり」
「地域づくり」の定義を上記の通り整理した上で、特定地域づくり事業協同組合の職員が担う「地域づくり」とは何かを整理すると、次の2種に分けられるのではないかと考えています。
①組合員の事業活動を通した地域づくり
業務時間内の活動。地域資源を活かした商品づくりや地元経済を動かす組合員(=派遣先)の仕事に従事することを通じて経済的価値の上乗せをしている。
②地域住民としての活動を通した地域づくり
業務時間外の活動。地区活動や伝統文化継承、集落営農など、地域社会を支える活動への参加を通じて環境的・文化的・社会関係資本的価値を上乗せしている。
実際にKATERI WORKの職員たちは、派遣先での業務を一生懸命やるだけでなく、②地域住民としての活動を通した地域づくりをしています。例えば、ある職員は地元の神楽を舞い、集落営農にも積極的に従事しています。また、ほとんどの職員が地域の一斉清掃に参加しています。
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職員が地域住民としての活動を通じた地域づくりを本人の思いに添った形でのびのびと取り組めるようにサポートすることも、組合事務局の仕事として大切だと考えています。
3.週休3日制を導入した理由とその効果
週休3日制を取り入れた理由は「②地域住民としての活動を通した地域づくり」に関われる、楽しめる余白を多く残したかったからです。
集落営農に神楽、自治会など、経済活動以外の活動が豊富なのが中山間地域の特徴です。そういった活動を楽しんでもらいたいという思いで週休3日制を選択できるようにしました。この仕組みにより、職員一人ひとりが自分の興味やペースに合わせて地域活動を選べる自由度が確保できます。活動を通じて地域に新しい価値を生み出しながら、個々の豊かな時間を大切にする働き方につながります。
その他にも、もしかしたら、地域活動以外にも副業的にコミュニティビジネス等にチャレンジできるかもしれません。
組合を設立して1年以上経過しましたが、前述の通り実際に職員が神楽等で活躍する様子を見て、中山間地域に価値の上乗せをしやすい環境設計という意味で週休3日制は良い選択だったと感じています。
働きながら地域の伝統やプロジェクトに参加できる余白の時間を作ることで、今後も、地域の価値が自然と育まれていくことを期待しています。
4.(補足)それぞれの視点
組合員
そもそも組合は組合員のための組織です。今回は職員のことばかり書いていますが、基本的には組合員の仕事に人材を供給することで、組合員の経済的な成長に貢献することを一義的な目的としています。しかし、「地域づくり」という言葉に着目して制度を考えると、派遣職員の人材育成や地域活動への接続といった取組みも同じくらいに重要だと言えます。組合員みんなで地域の持続可能性の向上に貢献していこうという気持ちで1つになることが組合運営ではポイントになると感じています。
地域
組合制度の趣旨を住民さんに理解していただき、職員を暖かく迎えてもらう必要があります。椎葉村は地域おこし協力隊が大活躍中(2025年1月23日現在、現役協力隊の人数が21名!!)のため、協力隊との違いなど、ご理解いただく必要がありますが、この点はまだまだ住民さん向けの説明が事務局として不足しているなと感じているところです。反省。
5. まとめ
なぜ週休3日制なのか?という質問をよくされるので、今回は特定地域づくり事業協同組合の概要を紹介をしつつ、週休3日制にした理由を書いてみました。
KATERI WORKにとって週休3日制は、働く人が地域と新しい関わりを持ちやすくするための仕組みです。地域に暮らす人々が働きながら、無理なく楽しく地域の価値を育てていける。そんな未来を目指していけたらと思っています。
これからも特定地域づくり事業協同組合という制度の可能性をもっと広げられるようなチャレンジをしていきます。この取り組みに興味を持たれた方や、質問がある方は、ぜひXで気軽に声をかけてください!