切る(自作SS)
私は非常に重苦しく複雑な心地の中、自分自身に刃を向けるという決断をした。絶えず身に降りかかる漆黒の壁を、振り落としたかったのだ。
しかし、私には勇気が足りなかった。刃の先端は私を見ている。自分で自分を切る……? 私独力では不可能だった。そこで私は協力者を得た。
彼はこの手の相談に熟練していた。「本当にやるのか」と彼は問う。私は逆さまになった彼の姿を見て頷いた。彼は刃を取りだした。よく研がれた金属の光沢が確認できる。そして、刃は遂に私の身体を切断しようとした。私は一瞬目を閉じた。変化への恐怖・期待がそこにあった。
遂に刃は私の身体を切った。切った。切り刻んだ。私は、重荷を捨て全てが軽くなったような独特の爽快感と浮遊感を得た。「これでよろしいですか」彼が問う。そうだ。その通りだ。私が望んでいたのは、これだったのだ。そして、切り刻まれていく私は、浮遊に身を任せた末、次第に意識を失っていった。
気付けば、そこには「さっきまで私だったもの」が四散していた。私は黒くて気味の悪いそれらに囲まれて座っていた。漆黒の壁は打破した。でも、失ったものは多かった。でも、私が私でなくなるなんてなんと面白いのだろう。意外と心地よいかもしれない。私はニヤりと笑いながら、床屋を後にした。
昔書いたSSだけど案外おもろくないすかw?
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