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離散から連続へ変化する性別について

 松井博さんのnoteで、アメリカで行われた自己の性認識に関するデータに触れられていた。
 次の画像がその結果で、若い世代になればなるほど自分をLGBTQだと認識する人の割合が多いこと、特にZ世代では20%の人がそう思っていることが見て取れる。

https://www.axios.com/2022/02/17/lgbtq-generation-z-gallup より

 Z世代の次の世代では、もっと沢山の人が自分のことを単純な「男女」の区別には当て嵌まらないと考えるようになる筈だ。筈だというか、僕は男女2つの性別しか扱うことのできない社会を不自由で未発達な社会だと考えているので、ここには願望も含まれている。
 世代間でこんなに自分の性認識が異なっているのはおかしいという考えを持つ人もいると思う。つまり”生物学的”に人間には男女の2つの性別が存在していて、まれに自分の性別の認識が曖昧な人が”例外的”に現れるのであって、その割合は世代なんかでこんなに差が付くものではないだろうと。Z世代はLGBTQの情報に多く触れているので、だから自分もLGBTQだと思い込んでいるだけだろうと。
 でも、僕達人間は、僕達の社会はそんなに単純にできているわけではないのではないだろうか。

 僕達はボードリヤールが言ったハイパーリアルを生きている。たぶんメディアの発達と時間の経過は2020年代を複雑なハイパーリアルの果てのような社会にしている。映画やドラマや小説と言った物語を例にとると、僕達の生活がそれらの影響下にあることは誰も否定できない。つまり現実の"模倣である物語(シミュラークル)"の生み出したハイパーリアルを生きている。時間を遡っていくと、今の僕達の社会(ここには勿論僕達の思考形態、感受性なども含まれる)に影響を与えた物語は、少し前の時代の人達がその時代の影響下で生み出した物語だが、その時代は更に前の時代が生み出した物語に覆われている。これはどんどんと過去へ遡ることができる。
 話が分かりにくいので、過去を起点にして書き直すと、まず「社会(1)」において、作家達が「物語群(1)」を生み出す。「物語群(1)」はそれを読んだ人々に影響を与え「社会(2)」を生み出す。「社会(2)」の作家達が「物語群(2)」を生み出し、それは「社会(3)」を生み出し・・・ということが延々と繰り返された後の時代を僕達は生きている。
 具体的に書くと、僕達は恋愛しているとき、必ず少しはどこかで見たラブストーリーの影響を受けた行動や感じ方をしている。でも、それは自分自身にとってはリアルな恋愛でリアルな体験だ。だから、もしも自分でラブストーリーを書くとしたら、そのベースにはこの《リアルな》自分の恋愛が用いられる。そうして書かれたラブストーリーは、また誰かの恋愛に影響を及ぼす。僕達はその恋愛のことを《《リアルな》》恋愛だということができるだろう。そして、その人がまたラブストーリーを書いて、それを読んだ人が恋をしたら、それは《《《リアルな》》》恋愛だ。2022年の僕達の「リアル」にはいくつのカッコが付いていることだろう。
 だから、今の自分が持っている考え方や物事の感じ方を「ピュアで真なるもの」だと捉えることは間違いだ。人間には男女という2つの性別が存在していて、ほとんどの人は異性に対して恋心や性的欲求を感じるという考え方は、1つのハイパーリアルに過ぎない。もしもZ世代の性認識をメディアの影響で起きた勘違いだというのであれば、それは取りも直さず、ほとんどの人は男か女どちらかはっきりしている筈だということも勘違いに過ぎないということを意味する(逆の言い方をすれば、僕達の社会はいつの時代も全てのことが勘違いに過ぎないということでもあるが)。
 これから、性別を男女の2項で語ることに対する違和感を表明する人は、ますます増えて、男女の間には緩やかなグラデーションが敷かれ、世界はより自由になるだろう。
 


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