4人の間に流れる、唯一無二の“Vibes” 〜中島朱葉『Looking For Jupiter』リリース記念Interview〜
逞しく力強いサウンドと独自の表現力で活躍するアルトサックス奏者、中島朱葉。
自身のリーダーバンドでの活動だけでなく、西村匠平、魚返明未、高橋陸との「.Push(ドットプッシュ)」や石若駿率いる「Answer to Remember」への参加など、その活躍はさらに広がっている。
そんな中島が2021年6月30日に遂に自身のカルテットで初のリーダーアルバム『Looking For Jupiter』をリリースした。
田中菜緒子(ピアノ、フェンダーローズ)、伊藤勇司(ベース)、濱田省吾(ドラムス)という中島が全幅の信頼を寄せるメンバーとの熱演が余す所なく収められている。
今回、中島にこのアルバムについての事はもちろん、普段の演奏や作曲についてのこと、また今後の展望などを伺った。
『Looking For Jupiter』を聴く際に、ぜひこのインタビューも合わせて読んでいただけると幸いである。
・『Looking For Jupiter』アルバムトレーラー
ついにリリースされたリーダーアルバム
-いよいよ初のリーダー作が発売されましたね
3~4年前から、周りの方々から「そろそろアルバムを作ってほしい!」という声をたくさんいただいていたのですが(笑)
それこそ、さらにその前、キャリア初期の10代の頃からアルバム制作のお話をいくつかいただいていたんですけど、自分の中でちょっと早いなぁという印象があって。
それは実力が不足しているというよりも、話題性で声がかかってるんじゃないかなぁというのがあって。10代で!とか女子高生で!とか。
-残念ながら、いまだにそういう風潮がありますね
しかも、自分のやりたいことよりも、先方の提案に応えなければいけないものが多くて。
これなら今は作らなくていいかなぁ、と思って全部断っていたんです。
いつか自分の出したいときに出そうと思って。
で、2年前ぐらいから、そろそろキャリアも重ねてきたし、リーダーアルバムを作ろうかなと思い出したころに、たまたま私のカルテットを聴きにくれたお客様の中で、「このカルテットでぜひCDを出してください!もし出すならサポートします!」と言ってくれる方がいらっしゃって。
それが今回のアルバムのエグゼクティブプロデューサーのCho Takanoriさんです。
-何か運命が引き寄せられたような話ですね
今回レコーディングした中島さんのリーダーカルテットの結成はいつ頃でしょうか
だいたい結成して2年くらいだと思います。
もともとベースの伊藤さんがこのメンバーで組んでライヴをしたのが始まりです。私も前からこのメンバーでしてみたいと思っていたんですけど、実際に演奏してみて、あ!やっぱり息が合うなぁと思って、そのまま乗っ取りました(笑)
-そのまま乗っ取り(笑)
でも、共演前からの印象が見事に当てはまったわけですね。
中島さんが感じる、メンバーの皆さん、それぞれの魅力を教えてくれませんか
菜緒子さんはたとえばデュオで演奏する時に、ルバートのようなテンポのない部分での呼吸がすごく合うんです。
それはスタイルとかではなくて、人としてのリズムが自分と似てるのではないかなぁと思います。普段しゃべっていてもリズムが合うんですよね。
お互いの好きな曲、サウンドも似てると思います。
-本当に相性が良いんですね
伊藤さんはとにかくバンドにエネルギーをもたらしてくれます。ここでベースがいてほしい!というところにガツンといてくれるし、素直な人柄がベースの演奏自体にもよく表れていると思います。
-アルバムを聴くと、太くて力強いベース音が随所に効いています
濱田さんはスウィングフィールが抜群!
人を踊らすことができるというか、ジャズを普段聴かない人でも、彼のドラムを聴いたら自然と身体が揺れる感じ。
知り合った当初からそのフィールがあったので、もともと持ち合わせている、天性のフィールなんでしょうね。
-パワフルなドラムで、まさにバンドを鼓舞していますよね
メンバーの皆さんは音楽性で選んだのはもちろんですが、それよりも4人の間に流れる“Vibes(バイブス)”というか、相性で選んだというのが大きいです。
4人で活動した時に良いことがたくさん起きるんですよ。今回のレコーディングが決まったのもこのバンドだし、ライヴが満員になって、お客様をもう入れられない!というような事もあったし。
演奏がうまくても、相性が合わないという事もあると思いますが、とにかくこの4人の相性は抜群なんです。
(写真左から…濱田省吾、中島、田中菜緒子、伊藤勇司)
-メンバーの皆様の事をお聞きしましたが、
ご自身の演奏において、心がけている事はどういう点でしょうか
作為的にならない、そう聴こえないようにすることですね。自分の中に聴こえてきたものを吹く、こうしてやろう、ああしてやろうと思わずに、共演者の弾いてくれたことに対して自然に演奏するということですね。共演者との会話、会場のお客様とも会話するような感覚です。
五感を全部使って、音の世界に入り込んで、過敏なくらいに共演者の方の息遣いも含めて聴いています。だからライヴが終わったあと、すごく疲れます。
-中島さんって、ライヴ中に共演者の方のサウンドをよく聴いているなぁと思っていたんですよ。
だから、そのお話をお聞きして、すごく納得しました。中島さんが共演者の方の良い演奏に瞬時にリアクションをとっている場面に何度も出会ってきましたから。そういうミュージシャンの方の演奏って、聴き手も信頼できます
“熱いサウンド”を求めて
-リーダーとしての初レコーディングで苦労した点、
また逆に楽しかった点はどういった点でしょうか
やっぱり初めてなので緊張しましたね(笑)
これまでのレコーディングと違って、リーダーでのレコーディングだと、自分が演奏する事だけでなく、メンバーの疲労具合などに配慮しながら、次にどの曲を録ろうかなとか、周りへの心配りが大変でした。
楽しかった点はリーダーとして、自分の作品をメンバーにレコーディングしてもらって、間近で完成していく過程を体験できた事です。
レコーディングした音をミキシングルームで聴いた時に今までにない感動がありました。
-今回はSTUDIO Dedeでのレコーディングとなりましたが、こちらでのレコーディングは中島さんが決められたのですか
はい、私が決めました。以前に石若駿くんのアルバム『CLEANUP』でレコーディングした時、すごく音が良いなと思って。
周りのミュージシャンの方々もDedeさんの音が良いという方が多くて。結果的に今回Dedeさんで録音して本当に良かったと思います。
-具体的にどういった点が良かったですか
マスタリングしてくれた吉川昭仁さんがすごく熱い方で、レコーディングが終わった時点で電話をくださって、彼の自分の好きなアルバムの話を私にしてくれたんです。そのアルバムが私も同じアルバムで!
-ちなみにそのアルバムとは?
アート・ブレイキーの『Free For All』です!
-最高!!!!!
好きなアルバム一緒やん!となって(笑)
あのアルバムのような熱いサウンドを私が求めているんじゃないかと、意図を汲み取ってくれて提案してくれたんです。
レコーディングエンジニアの松下真也さんと共に、吉川さんはバンドのメンバーと同じくらい音楽に入り込んで、考えて制作に携わってくれていると思いました。
その甲斐もあって、ジャズミュージシャン、ジャズファンが求めている音で作ってくださいました。
-そういう録音環境は心強いですね
1曲目の“Breakout”はファーストテイクを録る時に、実はマイクのレベルが大きくなり過ぎたらしいんですが(笑)、それが逆に良い結果になって、ダイナミックなテイクが録れました。
何回か録ったんですけど、結局1番最初のテイクが良くて。バーン!!とジャズの迫力が伝わってくるというか。
ジャズを聴かない人にも、エネルギーは伝わってほしいなと思ったので、こういうテイクが録れたのは良かったです。
-1曲目に“Breakout”のようなパワフルなナンバーを配置されましたが曲順についてはいろいろ悩まれましたか
曲順についてはすごく考えましたね。
だからこそ“Breakout”は1曲目に持ってきたいと思いました。
アルバム収録曲と自身の作曲について
-今回収録された8曲中5曲が中島さんの作曲ですが、
作曲される際はどのようにされる事が多いですか
ピアノで作曲するんですが、絞りだして作ることが多いですね。考えて考えて作る事がほとんどです。
でも、収録曲の“After The Rain”は曲の最初から最後まで、朝起きた瞬間に降ってきた感じで曲が浮かんできたんですよ。
“Pisca-Pisca”は作曲の勉強を全然していない時に作った曲なんですが、今見返してみたら、その時すごくいいアイデアを持ってたんだなぁと思います(笑)
今はいろいろ作曲の知識もついてきたので、細かいところを手直ししていっているといった感じです。
だからアイデアは、意外と勉強していない時の方が、感覚だけでやっているからか、面白い事が浮かんでいることが多いかもしれません。
-その“Pisca-Pisca”ではフェンダーローズの使用が面白いですね
スタジオにあるから、ローズ使ってみる?と提案していただいて。
私自身、ローズの音が好きだし、菜緒子さんはローズの演奏もとてもうまいので、ライヴでこの曲をローズを使って演奏したことはなかったんですが、実際してみたら、めっちゃええやん!となりました(笑)
-ローズの使用がアルバムの中でのアクセントになっていると思います。個人的にはこの曲の伊藤さんのベース演奏がとても好きです
このアルバム制作において、聴いてくれる方を飽きさせない!という目標がありました。
曲を飛ばすとか、アルバムの途中で止められないように(笑)、アルバムを通してストーリー性を持たせたいし、緩急をつけたいという意図がありました。
実際、アルバムを聴いた方から通して聴いても全然飽きないと言っていただきました。
お世辞かもしれないけど(笑)
-いえいえ、お世辞ではないでしょう
緩急があって、曲調もバラエティ豊かだけど、
アルバムに統一感があると思います
中島さん作曲の他にメンバーの曲としては田中さんの“NYの思い出”が収録されていますね
普段のカルテットでのライヴでは、田中さんの曲はもちろん、伊藤さん、濱田さんの曲も演奏するんですが、その中でもこの“NYの思い出”は4人のサウンドがマッチするなぁとずっと思っていて。
菜緒子さんの曲は都会的で、メロディが綺麗な、ムードのある曲で、私も吹くのがすごく気持ち良くて楽しいので選曲しました。
菜緒子さんの作曲やアレンジの能力は本当に素晴らしいです。
ウェイン・ショーター大好き!
-オリジナル以外では“ Nearness of You”とウェイン・ショーター作曲の“Tell It Like It Is”が選曲されていますが、この2曲を選んだ理由を教えてください
まず自分のオリジナルを5曲用意して、足りない部分はなんだろうと考えた時に、まずバラードが足りないなと思って。
で、このアルバムをプロデュースしてくれたChoさんが“Nearness of You”をライヴで演奏すると、いつも感動して涙を流してくれるんです。
このアルバムを作れたのはChoさんのおかげなので、
この曲は正直、Choさんだけに向けて演奏しました。
デュオで演奏することになったのはレコーディング直前に決まったのですが、演奏が終わったあと、Choさんはもちろん泣いていたのですが、菜緒子さんも泣いていて…かなりエモい現場でした(笑)
そういった今回の経験から、誰か特定の方に向けて曲を演奏するというのは、なかなかいいものだなぁと思いました。
-壮絶な現場だなぁ(笑)
“Tell It Like It Is”についてですが、私は作曲家として1番尊敬しているのがウェイン・ショーターなんです。ちょっとブルージーな曲を収録したいなぁと思っていて。でもただのブルースをするのもなぁと思っていたところ、このショーターの曲は前半がマイナーブルース、後半がブルースで、しかも誰もあまり取り上げていないし、面白いなぁと思って。
あと濱田さんがバンドメンバーにいるというのも、この曲を選曲した理由です。この曲のアート・ブレイキーのフィーリングを出せる人はなかなかいませんからね。
ショーターは演奏ももちろん好きですし、作曲に関しても現在に至るまで全般的に好きですが、特に大好きなのはアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズにいた頃の曲です。
ジャズのドロッとした部分とショーターの理知的な部分のマッチングがとても好きです。私にとって、どストライクのサウンドなんです。
-印象的なジャケットイラストは妹さんが描かれたんですよね
そうなんです!修復師という仕事をしている妹に依頼しました。彼女もジャズを聴くのが好きで、好きなピアニストはハービー・ハンコックとハンク・ジョーンズだそうです。
-ハンク・ジョーンズ!渋いですね〜
好きな曲もジャコ・パストリアスの“Three Views of A Secret”と渋い選曲(笑)
姉妹なので、好きなものも物凄く似ているし、私が表現したい世界観を汲んでくれそうだと思ったし、さらに彼女の解釈を踏まえて、音源を聴いて描いてくれました。
-タイトルにちなんで木星が描かれていて、しかもアルバムに込められた、みなぎるパワーを感じるジャケットですよね。
ところで収録曲である、“Looking For Jupiter”をアルバムタイトルにしたのはなぜでしょうか
最初は“Breakout”にしようと思っていたんですが、
レコーディングした曲を聴いていった時に、“Looking For Jupiter”がその中でも特にいいテイクだと思ったんです。
で、この曲名だと、タイトルにもしっくりくるなぁと思って。
妹も木星をモチーフにできたので、ジャケットを書きやすかったのではないかと思います。
レーベル設立、そして今後の展望
-しかも今回のアルバムは中島さんが設立したレーベル、「Midland Records」からのリリースですね。
自主レーベルを立ち上げようと思ったのはどういうキッカケでしょうか
まだ立ち上げました!と言っただけなんですが(笑)、このレーベルから沢山自分の作品を出していきたいと思っています。
ウィズ・ストリングスをしてみたいし、スタンダード集も出したいし、とにかくやりたいことがいっぱいあります。
昔はCD作るのはすごく大変な事で、今ももちろん大変ではあるのですが、前に比べたら、皆さんの力をお借りしながらにはなりますが、なんとか出せることがわかったので、この戦法で今後もリリースしていきたいと考えています。
-それでは最後に今後の展望を教えてください
自分の曲をたくさん残して作品に残していきたいです。
今までは自分の作品なんて残したい、聴いてほしいとは思っていなかったんです。自分の演奏も好きではないし、自信も持てなかったし…
でも、やっぱりアーティストとして、いくら恥ずかしくても作品を残さなければいけないと思ったんです。
その1つの理由として、今回アルバムリリースするとお知らせした時に、「待っていたよ!」とたくさんの方から声をいただいて。
これだけ求めてくれる方々がいるのなら、そして誰かのためになるのなら、
自分は頑張ってやるしかないなと思ったんです。
アメリカや日本のレジェンドの方々と共演するというのも、もちろんとても素晴らしい経験になるとは思いますが、自分がしたかったのは自分の実力を証明したい、ということではなくて、バンド全員で音楽を作って、なおかつ自分で作曲して、それを聴いた方が少しでも救われるような、そういう事をしたかったんです。
だから今回、こういった形で作品を残せたのはとても嬉しいです。
-中島さんのファンの皆さんにとって、今後は嬉しいリリースが続きそうですね
今回のアルバムは、集大成、というわけではなくて、私たちの今を記録した作品です。
去年レコーディングしていた私と今の私はもちろん違いますから。
でも後から振り返って、こういう時もあったね、で、聴いてくれた方がそれを聴いて、何かを感じ取ってくれたらいいなと思います。
Photo:関真奈美
Interview&Text:小島良太
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