ヒロインとして、 Carly Rae Jepsenが魅せるラブストーリー〜「Dedicated」で見せた彼女の進化
恋愛って、どうしてあんなに難しいんでしょうか。長い人類の歴史の中で星の数程統計はでているはずなのに、未だに完全に攻略出来る人は少ない。むず過ぎん?だけど難しいからこそ、やっぱり素敵なヒロインのラブコメを観てしまうんだよね。
カーリーレイジェップセンは、これでもかと真っ直ぐに、恋の物語を三作目のアルバム「Dedicated」でも紡いで見せている。1人の女性として、恋愛というフィルターを通して自分の気持ちをクリアに投影していく。そんなフレッシュで儚い感情が真空パックされたのが、今回のアルバムだ。
サウンド面ではドナサマーなど70年代の、「ドリーミーでセクシーなディスコ」に影響されて作ったとインタビューで本人が語っている他、100曲以上のデモを前作「E・MO・TION」でコラボしたプロデューサー達や、Charli XCXとのコラボで有名なA.G. Cook率いるPC Musicともコラボして作り上げた模様。彼女が今まで培ってきた人脈をフル活用して、いつも通り(!)気合100%で作り上げたのがうかがえる。
彼女のアルバムはいつだってドラマチックだけど、今作は特に統一感があり一枚を通して物語として成立させてしまっている。そんなところに彼女の進化が見えてくる。
一曲目「Julien」では過去のジュリアンとの恋愛の末に今ではすっかりシングルになった主人公が歌われる。ベタだけど、そういう恋愛あるよねって思う。未練があるとは違うけど、なんかねって時。まぁ要は寂しんですよ。そういう時って。
そんな時に出逢っちゃうんですよね、やっぱり!サウンドも歌詞もセクシーで、まさに70年代ディスコへのオマージュでなシンコペーションがとろける2曲目「No Drug Like Me」で一気に刺激的に。これを2曲目に持ってくるあたり、グッと引き込まれます。
シングルカットされた次の曲、「Now That I Found You」でこの突然の出逢いは運命だと確信するんです。疾走感に溢れてて、Netflixの人気番組「クィア・アイ」の主題歌にもなってたから知っている人も多いかも。
「Want You In My Room」はうねる様なイントロからがっつり掴まれました。タイトル通り茶目っ気たっぷりに誘惑しつつも歌うヴォーカルは、聴いてて笑顔になる。掛け合いの様に様々な声色を使ってサビにかけて盛り上げていくのはカーリーの真骨頂。80年代初頭のポップを彷彿とさせる程よいディスコ感もまた流石。
そこから、「彼の必要なものは全て与えてあげたい」という母性たっぷりの「Everything He Needs」と、「私達は大丈夫、何もやらかしてない。はず」といった恋人への不安をのぞかせる「Happy Not Knowing」は、ここまでの流れに比べて少し落ち着いた印象。曲としての動きは少ない様に感じるけど、歌詞を聴くとやっぱり共感を生むこれらは、アルバムの縁の下の力持ち的な役割を果たしている。
「I'll Be Your Girl」ではエナジーをしっかり込めたヴォーカルで、それでもやっぱり彼を強く求める気持ちを真っ直ぐ伝えている。ここまでの3曲はどれも気持ちが大きく移ろいでいるのが分かって、感情移入してしまう。それから歌い方を見事に変えて表現する彼女のスキルにも脱帽。
ここからB面、第二章です。
「Too Much」はものごとの距離感に悩む彼女に、個人的に共感しまくり。なんでも0か100なんだよね、分かるよ。キャッチーにリフレインされるフレーズがなんとも気持ちくて、考えもぐるぐる周っていく。
ドリーミーに響くコーラスが印象的な「The Sound」と、ハスキーヴォイスが艶に光る「Automatically In Love」は、「Too Much」に対比する様に本能的な愛について歌われてるのも、ストーリーテラーとしてのカーリーの才能が現れてる。やっぱり頭ではわからないけど、そうなってしまうものってあるもんね。
「Feels Right」はLA出身の二人組バンドElectric Guestを招いた一曲。やっぱり離れられない彼といるのは、やっぱり心地いいと実感したカーリー。グラデーションの様に重なり合うコーラスと、爆発力を増していくヴォーカルは聴いていて波に飲まれそうになる感覚。
「Right Words Wrong Time」で、衝撃的な別れを決断するんです!上手くいってたと思ってた時に、別れってくるんですよね。遠距離からのすれ違いに、「何で今そんな事を言うの…?」と歌うカーリー。サウンドがとにかくドラマチックで、振動する様に衝撃と悲しみが伝わってきます。そんな曲をここに持ってくる構成にはもうあっぱれです。
「Real Love」で、彼女は本当の愛を探すことを決意します。今では何を信じるべきかもわからないけど、恐れも無視して、愛を探しに飛び込むのです。たった今走り出したかの様な勢いあるコーラスに、彼女の勇気も乗っかって涙腺刺激されまくり。カーリー、あんた輝いてるよ。希望がキラキラしたままこのアルバムは幕を閉じるのです。
これはもう、立派な映画ですね。技術ももちろん抜群の構成力でストーリーテラーとしても進化を続けるカーリー。彼女は永遠に、皆のヒロインなのです。