ベンチャーとベンチャーが経営統合をした話 ~第二章 とにかくがむしゃらに~
3章シリーズにわたってお届けする、ベンチャーとベンチャーが経営統合をした話第二弾です。ちなみに第一部はこちらから。
1. 焦りを覚えたキックオフミーティング
晴れて正式に2016年8月に経営統合をしたFinatextとナウキャスト。意気揚々と最初のオフィシャルなキックオフミーティングに出たのだが、その出鼻を挫くショッキングなできごとがあった。社内ミーティングの資料をカラープリントしていたのだ (余談だが、それは今の代表である辻中氏が用意していた)。2つの理由で問題意識をもった。1つ目は、社内ミーティングの資料にカラープリントを使うというのはコスト意識の甘さを表しているからだ。当時Finatextではそもそもプリンターすらなかった。2つ目は、社内ミーティングの資料そのものだ。すごく体裁は整っていたのだが肝心の意思決定に必要な内容が全然欠けていた。その資料の体裁を整えるのにどれだけの時間をつかったのか?お客さんに出す資料ならわかるが。。変革の必要性を痛感した、そんなDay 1だった。
ナウキャストが当時苦しんでいた理由は以下の3つがあった。
1つ目は、大学発ということもあり「研究開発機関」の意識が強かったこと
2つ目は、ターゲット顧客がまちがっていたこと
3つ目は、プロダクトマーケットフィット(PMF)ができていなかったこと
結論から言うと、僕が代表をつとめた2年くらいで最初の2つをなんとか変えることができたが、3つ目は道半ばになってしまった。
2. 研究開発機関から闘う技術ベンチャー企業へ
2016年ナウキャストは赤字が1000万近くに膨らむ月もあった。当たり前の話だが業績を伸ばすにはトップラインを伸ばしてコストを抑える必要がある。まず、トップラインが伸び悩んでいた。ナウキャストは日経CPINowという会員サービスを提供している一本足打法でやっていたが立ち上げ時にガッと有料会員数が増えていたが、ターゲットの選定が悪く(後述)、売上が伸び悩んでいたのだ。またコスト面でも大学の先生が創業し、公務員出身者が主導していた会社ということもあり十分な意識を持てていなかった。
しかし、ナウキャストは当時からPOSデータ、ポイントデータ、クレカデータなどのデータホルダーと良好な関係性を構築していた。また、東大日次物価指数という革新的なサービスを作った技術力は世間から評価されていた。であれば、まだ多くの顧客を満足させられるようなプロダクトは開発できていないが、たくさんのチャレンジをしていけば、もしかしたら光明が見えるかもしれない!そう思うと同時に、それをするためには研究開発志向のチームを「顧客志向」にしていかなければいけないと考えた。
なかなか突破口が見えなかったが、とにかくがむしゃらに働いた。僕の人生の中でもっとも働いたかもしれない。朝から晩まで協業先や顧客候補のところを駆けずり回り、夕方以降くらいからプロダクト開発の打ち合わせ、そして深夜から戦略会議を開き、次の日早朝5時から米国の潜在顧客と電話会議という生活を繰り返した。
江ノ島の古民家での一コマ
{写真:戦略会議の様子}
海外出張もたくさんした。ビジネスクラスでの移動、高級ホテルでの宿泊が当たり前だった前職のドイツ証券時代とは違い、LCCで移動して宿泊は格安ホテルに時には三人一部屋に泊まったりしていた (いきなりエアコンから水が漏れてベットがびちょびちょになった逸話もある)。僕の哲学なのだが、組織に変わってほしいとおもうときはトップ自らが実践して行動で示すのが一番早い。少人数のスタートアップならなおさらだ。今思えば楽しい思い出だ。ちなみに今でも基本LCCに乗っているのだが、深夜便でも一撃で寝れるという技を身に付けた。
先陣切ってがむしゃらにチャレンジし続けていたら徐々にメンバーの意識が変わっていった。一方で一部のメンバーがなかなか馴染めずに去っていった。今までは一つのプロダクトを技術の観点からじっくりやっていればよかったとこから、顧客のニーズなどを意識しながらスケジュールを意識した様々な提案や、開発を行わなければならなくなったからだ。この時期についてきてくれたメンバーには本当に感謝しかない。一緒にがむしゃらにチャレンジして、時にはうまい飯を食べまくって気付いたら体重が僕も100kgを突破していたのもこの時期だ。
このあとオフィス戻ってバグ潰しをした。笑
{写真:お疲れ焼肉食べ放題会}
ナウキャストに23才の若さで入社してきた闘うデータエンジニア
{写真:仮眠中の関西人Ryohei }
こうしてナウキャストは徐々に研究開発組織から、闘う技術ベンチャーになっていった。
3. 創業時の想定顧客ターゲットからの大転換
変革の必要性があったのは、カルチャーだけではなかった。メインの顧客ターゲットが狭すぎたのだ。統合当時のナウキャストのメインターゲットは国内のシンクタンクや、マクロのエコノミストだった。彼らマクロのリサーチャーには圧倒的な支持を受ける日経CPINowであったが、それだけではあまりにもマーケットが小さすぎ、スケールする道筋が見えなかった(この点は世界の市場を動かす米国のマクロ統計とは事情が異なるのかもしれない)。
頭を悩ましながらあらためて顧客リストを見直してみると、一部の海外(アメリカ、ヨーロッパ、香港、シンガポール)の機関投資家が顧客になっていることに気づいた。日本の出来立てほやほやのスタートアップであるナウキャストが世界に名だたる機関投資家を顧客にしていたのだ。もしやと思い、その顧客たちへのヒアリングを行い、自分の投資銀行の経験も振り返ってみると、海外の機関投資家がこういった新しいタイプのデータを活用する流れがあるのではないかと思った。実際に、当時欧州を起点とする規制変化もあり、ターゲット顧客の対象を海外の機関投資家にシフトすることに決めた。プロダクトもマクロの指標ではなく、より企業分析にまで対象を広げることに決めた。
結果、これが功を奏する。もがきにもがいた結果、一筋の光明を見つける。企業分析のプロダクトを爆速で開発し、投資家向けメディア大手Bloombergに大々的にとりあげられ、多くの海外投資家から問合せをもらうことになった。
Fintech Venture Targets Hedge Funds With Big-Data Research
https://www.bloomberg.com/news/articles/2016-09-13/fintech-startup-dives-into-big-data-for-japanese-stock-research
この記事がきっかけで複数の海外大手の機関投資家のお客さんから、それなりの金額で契約をいただけた。規制の変化やトレンドの変化もあり、継続して世界中の投資家から連絡いただけるようになった。結果、ナウキャストは経営統合をしてから最初の年次決算で黒字化することに成功する。メインターゲットを変えたのは正解だったのだ。
しかし、それだけでは問屋がおろさない。我々が作った企業分析のプロダクトが本当の意味でPMFしていなかったのだ。
4. データビジネスの深さ
PMFできなかったということはつまり、我々のサービスが顧客を満足させられるようなクオリティに至らなかったのだ。結果最初のプロダクトを契約いただいたお客様の多くは長期契約にいたらなかった。あらためて、最初に期待して契約してくれたお客さんには本当に申し訳なく思っている。
そして、チーム内でも軋みが発生していく。既存のプロダクトを運用しながら、新しいプロダクトを開発しなければならなかったので結果一人一人のタスク量や管理範囲が急激に増えた。ここに関しては僕がデータビジネスの将来への解像度が低かったこともあり、無駄な作業や開発を依頼してしまっていた。うちのデータ開発チームにかなりストレッチした非効率な依頼をしていた。今ほどデータビジネスへの知見が多少あれば、防げたかとおもうとやめてしまったメンバーに申し訳ない気持ちで一杯である。そして今でも一緒にやり続けてくれているメンバーには感謝しかない。
投資家向けのデータビジネスはその当時僕が思っていたより全然深かった。まずはデータによる顧客に提供できる便益が何か?という点で、顧客が喉から手がでるほど解決して欲しい問題を解決できないとそれなりのお金を継続して払ってもらえない。例えば、投資家で言えばこのデータを使ったらより儲けられるような意思決定につながるなど。そして、質に対する信頼度だ。ちゃんと正確なデータを過不足なく継続的に提供できるか?ということである。なぜならそのデータを元に顧客が時には数百億の取引をするからだ。
データビジネスとはデータを顧客に渡して終わりというわけでなく、会社の総力戦であるということが2年近く経営してやっとわかった。ここで三代目代表であった僕の役割は、大きな宿題を残して四代目の辻中にバトンを渡すことになる。
1つ目は、大学発ということもあり「研究開発機関」の意識が強かったこと
2つ目は、ターゲット顧客がまちがっていたこと
3つ目は、プロダクトマーケットフィットができていなかったこと
僕は1つ目と2つ目はなんとか解決した。ナウキャストは闘う技術ベンチャーになって黒字化も果たし、ターゲット顧客も海外の機関投資家にすることで、提供サービスのラインアップをピボットできた。しかし本当の意味でプロダクトマーケットフィットはできなかった。これを四代目の辻中が就任してから、データホルダーとのリレーションやチームワークを結集し、今までどのように解決しているのか、今後どういう世界を見ているのかを書いてもらおう。
ちなみに辻中氏の経歴はこちら (日経記事)
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*ちなみにどうでもいい話なのだが、辻中氏は上記の日経の取材を受けてとった写真をおばあちゃんが見て「あなたネクタイくらいしなさい」と言われ、ネクタイが送られてきたらしい。
次回最終回の第三章にご期待あれ。
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