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【第4回】かつての非日常が、いつの間にか今の当たり前になる

1.起床

「やば」
朝集合時間の12分前に飛び起きる
1分で支度する
支度と言っても着替えてリュックにiPadとPCを詰めるだけ
ホントは30秒とかかも
リュックを背負って家を出る

2.登校

「あぁ、なんでいつもギリギリなんだ」
朝急ぐの嫌なのに、5年経ってもこらなの相変わらず
こんな日に限って信号は赤
電車のタイミングと重なってか信号待ちには多くの人がいる

信号が青になってから人を次々に抜かすの楽しい
歩行者と車に気をつけながら、少し荒い運転をして敷地内に入る

自転車を駐輪場に置き、時計を見るとあと6分くらい
「ギリ間に合うか」
小走りで研究棟の中に入る
エレベーターは1階にない
もう1箇所に行くも、そっちは上昇中、、、
走るか
病棟への連絡口がある4階まで駆け上がる
ロッカー室に入る
ガチャガチャで出た推しの子のアイちゃんが付いた鍵でロッカーを開ける

リュック置いて、服と靴を脱いで、
ケーシーをそのまま着る
WAKA×YAMAのトートバッグにiPadを入れて鍵を閉める
マスクしてから、集合場所へ向かう

3.病棟実習

今日は外来見学から
既に自分以外の班員3人は揃っている
オンタイム集合、つまりギリアウト
「ごめんなさい」

2人ずつに分かれて外来部屋に入る
様々な患者さんが次々に来る
医師は傾聴・診察・説明・今後の予定を素早く行う

医師や診療科によって外来の雰囲気は大きく異なる
慌ただしく医療者側に余裕のない診察もあれば
1人に30分くらい時間をかける科もある
何年も見ていて慢性の患者さんが多い科もあれば
深刻な病態の患者さんもいる
「患者さんの話を落ち着いて聞いて、余裕のある外来が好きだなぁ」

4.医療者を目指す者としての自覚

病棟実習が始まったのを自覚させられたのは、血液内科の患者さん
あの頃は実習が始まったばかりで、真面目なのもあったが、担当患者さんには毎日会いに行っていた
入院している患者さんは不安や様々な感情を抱えているが、医師や看護師は多忙でゆっくり話をするのを控えていそう
そんな時学生は暇だからいい話し相手だ

医師のような専門的な知識を持っている訳では無い
患者さんに診察や助言などできるはずがない
だからこそ話を聞くしかできない

その患者さんは不安な感情や今の気分、家族のことや病気になるまでのことを話してくれた。
1回30分くらいだったが、1週間も経つと会うと笑顔になってくれるようになった
ある日会いに行くと、話に聞いていた旦那さんと娘さんがいた
「そうか、今日は家族説明の日か」

少し挨拶をしてから、その日は帰った
次の日の朝、カルテを見てみると、家族説明の際の家族と本人の様子が書かれていた
自分が毎日会いに行っている人は、今、人生の岐路に立っているんだ
医療者が背負う責任の1片を感じた瞬間だった

この前、別の患者さんは、凄く不安が強い方だった
術前説明で医師に
「先生、お願いします、助けてください、、、」
と泣き崩れるように訴えた

来るものがあった
無理やりこの感情を言語化するなら
”この言葉が出る程のこれまでの苦痛の想像と
自分に縋りつかれる責任の重さで
空気が急にシリアスになり、現実が現実だと感じられなくなるような気持ち"

この人は今の俺に想像もできない苦痛を経て今ここにいて
それから何とか解放されたがっているように感じた
共感と同時に無力さを痛感した
何も出来ない俺は
「何とかこの人が良くなって欲しい」
と願うことしか出来なかった

担当の医師の言葉は、淡々と
「頑張りましょう」
だった

「適切」な言葉だと思った
あまりに「適切過ぎた」
今の俺には「冷たい」と感じるほどだった

5.実習で経験すること

・セミナー(たまに手技)
・手術見学(たまに手技)
・外来見学
・担当患者さん訪問
・カルテでの情報収集
・担当症例の考察
・レポートやパワポの作成
・薬説(弁当)
まだ全部のポリクリが終わった訳では無いけれど、実習で経験することは大体これら

ポリクリが始まってもう9ヶ月とか
ちゃんと


6.慣れた

今やもうこれが当たり前

ただ、これは1年前は当たり前ではなかった

入院患者さんと話すのも
カルテの使い方に慣れたのも
外来での処置を平気な顔で見てるのも
手術場で麻酔で寝てる患者のそばで見学してるのも
全部この数ヶ月で慣れた

何なら大学に入るまでは、医療を学ぶことすらなかった


慣れた
慣れざるを得なかった


慣れることは人間の素晴らしい機能だ
一度慣れたものには、新鮮な感情を抱くことは無い

良い香りにも次第に初めての感動をしなくなるように
環境音や視界の眩しさが気にならなくなるように
かけがえのない人間関係の有り難さを忘れてしまうように
追い求めていた幸せが手に入ると同時に輝きを失って見える人がいるように


だからこそ慣れる前の感情を
それが当たり前になる前の感性で
いわゆる初心(初めの心情)を書き記しておこう


今の俺の当たり前を、書き記した。

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