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コンサルという仕事①

10年ほどこの仕事を続けてきて、この間だけでも随分と見える景色が変わってきたと感じる。何より、自分が所属しているファームでも10年で3倍近い規模に拡大したし、同業他社も同じような勢いで拡大している。業界として年率10%以上で拡大している計算だ。これを、成長産業と言って持て囃すメディアもあるし、新興のコンサル企業の上場などではこの成長を前提にした企業価値がついている。しかし、実態はどうなのかというのが本稿のテーマだ。

そもそもコンサルタントというものに明確な定義はないため⚪︎⚪︎コンサルタントというのは無数に存在するのだが、企業経営を支援する経営コンサルと言うものに限定して話を進める。コンサルタントが提供する価値には専門性、客観性、柔軟性などあるが、それらは学問的な知見と様々な企業を相手に支援を提供した経験にから得たものだ。つまり、価値を出すには一定の知識・経験が必要なのだ。年率10%はこの道理を超えている。

それにも関わらず拡大をしてきているのは、コンサルファームの限界への挑戦の賜物だ(誉めてない)。コンサルティングの価値が知識・経験に基づくものであることは上に述べたが、それをレバレッジするために通常はチームを組んでサービスを提供することになる。チームの体制は、責任者たるパートナーがいて、プロマネ、スタッフという構成だ。知見・経験は主にパートナー、プロマネが担っておりスタッフの役割は、それらの知見・経験を活かすための媒体(通常はパワポ)の作成だ。一人のパートナー・プロマネがより多くのスタッフを動かすことがレバレッジであり、このレバレッジを最大化するために限界に挑戦するのだ。

知識の限界への挑戦

知識によって価値を提供するには、知識の習得と、その一般的な知識をクライアント個別に適用する必要がある。別の案件で得た知識を活用するのは、個別事例の一般化というステップも入るだろう。脳味噌のスペックによって違いはあるだろうが、非常に骨の折れる作業が裏にはある。この作業を簡略化する手段として、個別化のステップを省くために「標準化」がある。要は横展(横に展開)だ。同業であれば類似のテーマに同じ解法を持っていく。何なら、最初から横展開を前提に初回のプロジェクトを受注したりもする。初回が赤字でも使い回しを加味すれば元が取れるということだ。実際、うっかりロゴを消し忘れたりして事故が起きていることを見聞きすることから、割と常態化しているんだろうと思う。もちろんファームのポリシーとしては横転などもっての外とはなっているし、トラブルが発生すれば是正を呼びかけてはいるが。加えて、役割の委譲も見られる手法だ。知見提供の部分を下位者に寄せることで、希少なリソースであるパートナーを拡大の制約にせずに済む。パートナーが知らないことでサービスが提供できない、という事態を解消するのだ。これには2段階あって、一般化された知識・経験は上位者にあって下位者が個別化する部分を担う場合と、全工程を下位者が担う場合だ。知識も経験も限定的な下位者がどこまでできるのか、という挑戦である。

スキルの限界への挑戦
下位者は上位者の知見を基にした解法を伝えるのが役割だが、それにも一定の能力は必要だ。個別化するには、クライアントの課題状況を正しく整理して理解する必要があるし、抽象的な解放を伝えるにもスキルが必要だ。この所謂コンサルスキルは書籍化もされているし、ネットでもいくらでも纏まったものを読むことができるのでだいぶコモディティ化されているのだが、とはいえ多少の修行は必要である。にも関わらず、コンサルの門を潜ったらもう一人前として送り出すことが一般的になってきている。かつては、新卒も中途採用でも、3ヶ月、半年程度は育成期間として顧客に課金することなくプロジェクトに配属していたのだが、最近は中途であれば入社後1週間もすればすぐ一人前として配属もする。課金もする。最近の入社者の即戦力としてのレベルが上がっていればまだマシだが実態は真逆である。それも当たり前で、採用数が増えれば質は下がるというだけの話だ。この半人前の分は他のチームメンバーが穴埋めすることになる。最近、コンサルフィーは値上がりの一途だが、その中にはこうした生産性の低下によるコストアップも含まれているのが実態だ。

我慢の限界への挑戦
さらっと生産性が下がった分をチャージしてます、と書いたが顧客の我慢の限界への挑戦が究極的には生じることになる。元来、提供しているサービスが抽象的であるため顧客の期待と実際のデリバリーをすり合わせるのは至難の技ではあるのだが、その不確実性を減らす方法がある。本来は、コンサルはその道の専門家として招聘されている以上、あるべきデリバリーを自ら定義して、それを顧客と握るのが一般的であった。しかし、最近は最小限のデリバリーを出しながら顧客がOKと言ったらそこでデリバリーを終わらせるという、まあ御用聞きに近いスタイルがトレンドだ。契約期間は限られているので時間がくれば終了である。契約期間中の作業量をなるべく減らすために小出しにしつつ、時間が来たら素早く撤収する。強い不満には渋々対応するが、この一連のプロセスで目立ったクレームを発生させずプロジェクトを終了まで持っていける技量を持つプロマネこそが優秀と呼ばれる今日この頃だ。

極端に思われるかもしれないが、本来あり得ない10%を超える拡大が起きている以上どこかに皺寄せが来ているというのが論理的な帰結である。その上で、供給サイドの皺取り手段として3つの限界への挑戦を紹介した。このような事態に陥っていることには、需要側(顧客)の要因もあるし、皺寄せを受けているコンサル内の人材もいる。また、そもそも上場もしていないコンサルファームが大半の中でなぜこのように規模拡大が目的化してしまうのかという論点もある。これらは後続パートで。


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