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日本は浮体式洋上風力に振り切るしかない

まずは、先日原案が公開されたエネルギー基本計画からの抜粋から。

エネルギー基本計画冒頭の文言

20世紀中盤頃には国内石炭、水力により高い自給率を保てていたが、資源の枯渇と需要の増加により海外への依存は高まる一方である。結果として、現在ではエネルギー自給率が11%台にまで落ち込んでおり、原油輸入の9割も中東である現状からすると、英知を結集してと言われてもピンとこない話だ。だが、この冒頭文言が意味するところは、山間の地形なので、太陽光、陸上風力は難しい、深い海だから着床式洋上風力も限界あり、だから、それ以外の選択肢を探さなければならない、ということを暗に示している。

そこで、エネ基では最有力な選択肢として原子力が挙げられているわけだが、国土・地理的な制約の観点からは原子力にも疑問符がつくだろう。我が国では、発電所の立地における危険性は言わずもがなだが、核廃棄物の最終処分を行う適地を確保には相当な困難を伴うだろう。地下に埋める地層処分が前提だが、長期に渡って地震による影響を受けない地層と地点を確保、更には受け入れを許容する地域の探索など不可能に近い。何せ太陽光すら地元住民の反対により満足に建てられないのが実情だ。

もう一つの選択肢は、浮体式の洋上風力が挙げられる。個人的には、冒頭の文言に「深い海に囲まれ」とみた瞬間、浮体式洋上風力の推進が強く謳われるのかと期待したが、そうではなかった。とはいえ、この国のエネルギーにはどう考えても浮体式しかないはずだ。

浮体式洋上風力発電とは、着床式と言われる洋上風力発電が陸上風力同様に地面に杭を打ちつけるのに対して、浮体の基礎の上に風車を据えつける発電方式であり、これであれば深海でも設置が可能になる。

出所:Jogmec


浮体式は技術的な実効性はほぼ検証され、現在は商用化に向けた検討が各国で進んでいる。欧州が先行しており、特に遠浅の海岸が少ない、フランス、スコットランド、ポルトガル、ノルウェーといった国が先行している。商用化に向けてはいくつか課題はあるが、製造~組立~設置という一連のオペレーションをどれだけJust In Timeでできるかという点は難題の一つと思われる。すなわち、各プロセス間のすり合わせが重要なわけだが、日本のお家芸を発揮する機会となるはずだ。何より、造船、鉄鋼、セメント、という日本では斜陽に差し掛かった産業の余剰キャパシティと蓄積されたノウハウを活用し、新たな産業を育成できるチャンスなのだ。ぜひ国を挙げて徹底して推進すべきだ。

着床式洋上風力発電は開発から30年以上経過し世界中で建設が進んでいるが、黎明期における立役者はOrsted社で、元々はDong  Energyというデンマーク国営の石油会社であった。Orsted社は脱炭素化という社会的な使命感から、石油会社から事業転換を図り再エネ事業会社への転身を図る中で、着床式という未知の技術に取り組んだ。黎明期の技術を一大産業まで育て上げた手法は企業の戦略としても非常に学ぶべきものが多い(最近の同社の不調はマクロ経済影響によるもので本質的なものではないと考えている)。浮体式ではノルウェーの石油会社、Equinor社が同様の取り組みを見せている。

浮体式の商用化に向けた課題を他にも挙げるとすると、遥か沖合からいかに電力を効率的に運ぶかだ。これについては、着床式プロジェクトと連携した取り組みが必要だ。着床式は沖合数キロに送電網を構築するが、それらを浮体式の立地場所まで延伸することで送電インフラ構築を効率的に進められるだろう。海底に送電網を構築するが如くだ。お隣の韓国でも浮体式は積極的に推進されているため日韓でのインターコネクションを構築してしまうのもありだろう。加えて、洋上にて水素を作って沖合にパイプラインで運ぶという方法も考えられる。この場合は需給調整の役割も持たせることができ一石二鳥の施策となる。現在の日本の着床式の入札では個別のプロジェクト単体で完結するのが前提となっているが、英国のような送電は別途切り出して、複数プロジェクトを前提とした最適な敷設計画を進めるのが良いのではないか。

エネルギーの安定供給だけではなく、産業振興の観点で非常に有望な浮体式なのだが、残念ながら今回のエネ期では泡沫候補の位置付けだ。2040年に目標とされる発電原価も約15円と、現時点でも達成できそうな低いレベルでしかなく期待の低さを物語る。これは原発への望みを捨てることができない以上はやむ得ないところだ。電源として、風力と原発の両立は無理だ。原発を諦めることには強い抵抗があるようだが、冒頭の文言にあるように自然環境の制約を認め、そろそろ現実的な選択肢としての浮体式に全振りすべきだろう。またまた手遅れになる前に。

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