引っ越しを控えた人間が財布を無くしたことでデッドロックに陥った話

初めに

この記事は題名の通り、引っ越しを予定している筆者が財布を紛失してしまったことによって遭遇した何とも大変な1日を記事という形に残すことによって、この気持ちを昇華させたいという想いに突き動かされて書くものになります。
この記事を読むことによって、同じような状況に遭遇したときに最適な行動を取れる方が増えることを願います。
デッドロックという言葉がキャッチーだなと思ったので使用していますが、これは「ジレンマ」と言い換えても良いでしょう。

財布紛失時の状況


まず初めに、財布を落とす前の段階で私が置かれた状況について。
・翌週に引っ越しを控えていた。
・荷物が多いため、引っ越し業者による荷物運びの事前に荷物の一部を週末を
 利用して自分の運転で運ぶ予定だった。新居への移動は車で1.5時間ほど。
 荷物運びは結構大変なので友人の助けを借りる予定であった。
・電気やガス、水道といったインフラ関連の処理はほとんど済ませており、
 荷物を粛々と梱包して準備をしていた。
そして、ことの始まりは引っ越し予定の前の週の月曜日の夕方から始まる。

プロローグ

1. 紛失

その日、私は昼からジムに行った後に新居における家具の配置やネット環境の構築について思索を巡らせていた。新居のインターネットケーブルのジャックが少々おかしな位置にあるために、有線LANケーブルを接続することが難しいことが分かっていたのでうまく壁を這わせて配線ができるような手段探しや、新しい環境に向けたPCスタンドの値段感を確認するために、近くの複合施設に車で向かった。この施設にはホームセンター、家電量販店、スーパーマーケットなどが併設されており、この日の用事を全て済ませるには最適な場所だった。
諸々の確認事項を済ませたのちに、購入は引越し完了後にすることにして最後にスーパーマーケットに向かって食材の買い物をすることにした。最初に話した通り、この日は昼にジムで筋トレをしていたのでタンパク質を求めている。引っ越し準備のために冷蔵庫の中は日持ちするものや調味料程度しか入っておらず、すっからかんだったのだ。鶏胸肉などをカゴに入れて「腹減ったな〜」と思いながらセルフレジに並んだ。
セルフレジで無事に支払いを済ませて、車まで戻り、運転して帰宅して夕食を済ませてから再び引っ越しの荷物を詰めるために机の上を整理していた。
その時、書類の中から整体院の診察券が出てきた。ちょうどそれはレシートの束を財布から取り出したときに一緒に出てきてしまったので一度机の上によけておいたものだった。財布に戻さないと、と思い周囲を見るも財布が見当たらない。「また車の中に忘れてきてるな」と思った私は雨が降っていたこともあり翌日の朝に回収すればよいと考えてその日は就寝した。
翌日、家の中を探しても車の中を探しても、複合施設に電話をして確認をしても、落とし物センターを確認するも財布が見つかることはなかった。
そう、私は財布を紛失してしまったのだ。
※無免許運転ではないか?と後からヒヤッとしたがどうやら故意と知って運転した場合に適用されるらしい。ネットでちょっと調べただけなので厳密には違うのかもしれないが、現実問題としてこの時はどうしようもなかったのでご容赦いただきたい。

2. デッドロックの発生

財布を無くした、と見聞きして読者はどこまでの被害を見込むだろうか?
人によって、財布に入れているものの種類や量は大きく異なっているだろう。
私の場合は記事のタイトルにもなっている通り、「デッドロック」を起こしてしまうレベルで財布の中には様々なものが入っていた。ここで「デッドロック」という言葉についてあまり馴染みのない方のために説明をしておく。
デッドロックとはコンピュータ科学の中で使われる用語である。私は情報科学で大学を卒業していることもあり、下手な説明をするよりは「デッドロックしてる」といってしまった方がスッと頭に入ってくるのだが、この分野に馴染みのない方に説明をすることはそうそう簡単ではない。
そういった前置きをおいた上で、デッドロックについて簡単に説明をすると以下のような状況が発生しているときに「デッドロックが発生した」と言える。


デッドロックの発生

・別々の作業をしている二人の作業員が同じテーブル上で仕事をしている。
・テーブルの上には作業を進めるために必要なツールがいくつか置かれている。
・作業員は、それぞれの作業工程で必要なツールを手元に持ってきて作業をする。
作業員とツールには名前をつけておく。作業員はAとB、ツールはX、Y、Zとする。
AとBはそれぞれ違う作業を実施していた。AはXを使って作業をしている。BはYを使って作業をしている。お互いに、必要なツールが異なっていたため二人の作業員はそれぞれ自分の作業を進めることができていた。
ところで、この二人の作業員はある特性を持っていた。二人とも、工程を進めるときには次の工程で使うツールが机の上に置かれているかどうかを確認してから工程を進めるという特性である。そして、次の工程に使うツールが机の上に置かれていない場合には二人とも机の上にツールが置かれるまで待つ。
Aは最初の作業を終えて次の工程に移ろうとした。Bはまだ作業を終えていない。Aは次の工程にはZが必要であることを確認し、机の上を見た。すると、Zは机の上に置かれていた。AはXを机に戻してからZを手元に持ってきて次の工程に移った。その頃、Bも作業を終えて次の工程に必要なツールを確認した。Bの次の工程ではXが必要だった。Bが机の上を見るとXが置かれていたため、BはYを机に戻してからXを手に取り、次の工程に移って行った。
こうして、AとBは作業を進めていったがあるタイミングで以下の状況になった。
・Aは現在、Yを使って作業をしている。
・Bは現在、Xを使って作業をしている。
・Aが次の工程で必要なツールはXである。
・Bが次の工程で必要なツールはYである。
このような状況になったらどうなるだろうか?AもBも次の工程で必要なツールが机の上に置かれていない場合には今使っているツールを手元においたまま、待つという特性を持っている。つまり、AはBが使っているXを待ち続けることになり、BはAが使っているYを待ち続けることになってしまうのだ。これがデッドロックである。


「そんなバカなことあるか」と思われた方の感覚は正しいと思う。実際の人間の作業においてはお互いにコミュニケーションを取ることだってできる上、次の工程で必要なツールを確保してから現在使用しているツールを机に戻す、といったことはしなくても作業が終わった時点で一旦ツールを机に戻すことだってできる。
ただし、これは人間の作業員だからできることでありコンピュータにはこのような融通は効かない。デッドロックについて詳しく知りたい方はGoogle検索をしてより正確な情報に当たってほしい。

話を私の財布紛失に戻そう。
私の財布の中には以下のものが入っていた。
・現金
・クレジットカードx2(現在使用しているすべてのクレカ)
・キャッシュカードx2(持っている口座全て)
・運転免許証
・マイナンバーカード
・印鑑登録証
・健康保険証
・ポイントカード類
・その他診察券
いかがだろうか?当然のことながら現金やポイントカードについてもそこそこ痛い。ただし、それ以上に問題があるのが「身分を証明するもの」のほとんどが一気に失われてしまったことである。
実際のところ、無くした時点は自分がデッドロックを起こしているという自覚はなかった。財布を紛失したことを自覚し、警察への届出を行なっている段階では私は「あーあ、やっちゃったな。しょうがないから粛々と手続きを一個一個するしかないな」ぐらいにしか思ってなかった。

・警察の落とし物申請システムで申請をする。
・銀行に電話をしてキャッシュカード1の再発行手続きを進める。
 ふむ、10~14日かかると。まあ仕方がない。
・クレカの会社に電話をする。
 再発行である。番号が変わる。めんどくさいなあ。
・保険証とキャッシュカード2については勤め先発行のものであるため次回の出社時に手続きをする
・マイナンバーカードと印鑑登録証は引っ越し先で再発行する。
そして最も大きな問題に直面することとなった。運転免許証である。運転免許の再発行は私の住む県では免許センターに赴く必要があった。
この時は水曜日の朝であった。

3. 限られた資源

この記事はすべてのことが終わってから書いているため今から思い返せば、ということになるのだがこの時点で私は様々な「資源」において非常に限られた状況にあった。ここで「資源」という言葉を使うのは無論「デッドロック」という表現に対応させたものである。

時間的資源
無くしたものの再発行について一通り作業を済ませたのちに自分の置かれている状況の重大さに改めて気づいた。そう、週末から引っ越しをしないといけないのである。「紛失時の状況」に書いた通り、自分の車で荷物の一部を事前に運ぶことにしていた。さらに友人にも手伝ってもらうことにしていた。
この手伝いを依頼した友人というのは2名いるのだが、実はこの二人には以前にも引っ越しを手伝ってもらったことがあった。大学を卒業して就職をきっかけに実家から一人暮らしを始めることになったのだが、配属先が決まるまで引っ越しができなかったこともあり、ゴールデンウィークのタイミングで急遽引っ越しをすることになったため、この二人に手伝ってもらったのだ。
今回の引っ越しは、就職のために来た街から地元の街に戻るということもあり再びこの二人に手伝ってもらうことになったのだ。要するにある種のイベントとなっていたのである。
運転免許証を無くしていた私は、この予定を遂行するために、可及的速やかな免許証再発行の必要に迫られた。仕事の都合から金曜日は休むことができないため、急遽、翌日の木曜日に有給休暇をとり再発行手続きを行うこととした。

現金という資源
財布を落としたことにより、すべてのキャッシュカードを喪失していた私は無一文状態になっていた。幸いなことにau payを利用している私は食事の買い物程度であればこれを活用してなんとかやり過ごすことができていた。しかし、残念なことに交通系ICカードにはほとんどお金が入っている状況ではなかった。
普段から、あまり電車を使って移動することもなく最寄駅から職場の駅までも非常に近かったこともありオートチャージ機能などは利用しておらず、普段からほとんどICカードにはチャージをしていなかったのだ。
県内の免許センターには電車で行くこともできるが、ICカードにチャージがされていないとなるとそれもままならない。
「詰んだ・・・」と思った刹那、私は一つのことを思い出した。そういえば、封筒に入った現金があるじゃないか。それは会社の活動の一環で部費の一部を預かっているものであった。机の脇に置いてあった封筒を確認するとそこには5000円札一枚と1000円札2枚が入っていた。その時の私にとってはこれだけが現金で持てる全財産であった。現金7000円で問題を解決しなければならなかった。
時間的な余裕があれば、知人から借りるといったこともできていたであろう。しかし、翌日に免許センターに行かなければならないという思いに囚われていた私はそういった選択肢を考えることなく、7000円という現金を手にしたときに大きく安堵したのである。「ああ、よかった。これで免許センターに行ける・・・」
そして、もう一つ大きな問題があった。翌週の引っ越しにおいて、大きな家具類は引っ越し業者に依頼して運ぶ予定となっておりすでにその手配は済ましていた。そしてその支払いは作業実施日に前払いで現金であったのだ。
作業実施は翌週の火曜日夕方である。それまでに私は引っ越し用の現金数万円を用意しなければならなかった。

移動手段
引っ越しの前後ともに、首都圏内ではあるのだが引っ越し前の地域にはお金を貸し借りできるような知人や親戚はいなかった。車があれば仕事を終えた後に親の元に向かって状況を説明して借りることは可能であったが、運転免許証がないのである。こんなときに限ってガソリンは満タンである。

身分の証明手段
前述した通り、財布の中にはほとんどの身分証明書が含まれていた。
私の手元に唯一残されてた身分証明書は発行したばかりのパスポートであった。
パスポートというものは便利なようで実は重要な情報が不足しているのだ。


4. 何とも大変な1日の始まり

ここまでが大変な1日を迎えることになった私の顛末である。
ここから先は、実際に私が直面した「失敗」やどのように問題を解決したか、そして、とり得たベストな行動はなんだったのかについて書いていきたい。
今の世の中は非常に便利になったものである。買い物のほとんどはクレジットカードで済ませられるし、ちょっとした買い物であればバーコード決済を使えばいくらでも対応できる。しかし、今回私に起こったことにこういった便利さは全く歯が立たなかった。
そもそも、全部を財布に入れておくなんてことがリスクヘッジの観点からして間違っているのだが一まとまりになっていることは非常に便利なのである。

以下、有料となります。財布を失ったことによる心の傷と実害を埋めたいという私の下心をお許しください。なお、有料部分では完全に特定はできない範囲で具体的な県名や移動経路などについてもご紹介いたします。

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