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美空のおとうと3



〇 いらっしゃいませー

カランカランとなるベルでお客さんの来店を知る
こういう昔ながらの喫茶店の雰囲気は昔から好きだ

入って来たのは常連のおじいさん

マスターと世間話をしながら珈琲を飲んでいる
注文なんか聞かない
なんせ同じのを飲むからだ

流れているBGMも昔の歌謡曲
かなり古めだからか曲名なんて分からない

家ではもっぱら姉貴のグループしか聴かない
これは調教の賜物だろうか?

他の5期生ももれなく勧めてくるし
必然的に身体にしみこむのだ

厨房を行ったり来たりしては料理の練習をする
ナポリタンにピラフ 
メロンフロートにチョコレートパフェと
一部のメニューを覚えては少なからず心が踊る

特にここのナポリタンは昔ながらの
ケチャップ多めで甘酸っぱく具もシンプルで
とにかく安いし美味しい
マスターには大分負けるけど将来は作れたら
いいなと思っている

〇 …それにしても暇だ

ピカピカに磨いたガラステーブルには
メニュー表がお客さんを待つように開いて
立っているが今日は使われる気配がまだない

あらかた終わった仕込みも掃除ももっとゆっくりしてサボっていたらと良かったと思うほど
手が空いてしまっていた

まあまだ時間があるし練習を再開しようとした時ドアのベルがなった

〇 いらっしゃいませー

入って来たのは帽子をかぶりマスクをした女の人

〇 …

奥の目立たない席にまっすぐ進んで座る

〇 ……

その子はすぐ
バックからスマホをだそうとしては
何故かカバンに手を引っ掛け落として
アワアワしている

まあ見ていて心配になる
年上なのに鈍臭い姉貴と同期

〇 そんなに慌てなさんな アルノよ

ア ひぃ〜ん〇〇く〜ん!
  またスマホ落として傷ついたよ〜

〇 なんで毎回そんな事になるの?

本当この人注意力あるの?ないの?
無いんだよなぁ

この中西アルノは思った以上に鈍臭い
何か一つしたら二つ落とすのは日常茶飯事だ
初期から見かねて助けていたらすっかり懐かれてしまった

ア ごめ〜ん えーん!

〇 もうほら

そういって散らばったアルノの荷物を拾う
こいつが来たら忙しくないのが一転して
一気に忙しくなる
構ってないと何しでかすか分からないからだ

それにここの常連なのだ

前アルノにここの事を話した事があった
何故話したかなんて覚えていないけど
もれなく知ったアルノは何かと来るようになった
よくここで本読んだり
勉強したり俺がいないときはマスターと
昔の歌謡曲の事を話しているらしい

俺が思うアルノは歌う事に特化した女の子

もれなくその他の能力が欠落してしまったけど
それにあまりある歌唱力の持ち主だと思う

俺はアルノの歌声がとにかく凄く好きだ

ナデナデ

ア へへへっ♪ 気持ちいい〜♪

目を細めて微笑む年上の妹っぽい子
ここにも守らなきゃいけない子がいるんだよなぁ

〇 あっまた頭撫でてしまった

そう思って手を離そうとする

ア だ、だめだよ!
  まだ〇〇くんは私の事撫でないと!

そういってさっきより近くに頭を持ってくる

〇 はいはい

周りに誰もいないからできる事だ
こういう事はこの喫茶店のサービスにも
含まれていない
アルノだけのサービスなのだ







ア じゃあ行くね♪

〇 おうまたのご来店待ってるよ

ア えへへっ♪

〇 そういえば他のメンバーにはここの事は
  言ってないんだよな?

ア あったりまえじゃん 
  言ったら押しかけてくるよ?
  それに美空にもすぐにバレるだろうし

〇 最悪家はバレてもいいけど
  ここだけは絶対バレたくないしな 
  すまんけど協力してくれよなアルノ

ア もっちろん! 
  だって私だってこの空間気に入ってるし 
  なんたって〇〇くん独り占めできるし ボソッ

〇 ? そうかありがとな

ア うん///

 そういうとアルノは帰っていった

ドアを出ていった瞬間何もない所で転んだのは
驚いた
ほんと鈍臭い

〇 ったく あいつは彩よりも心配だ

別の意味でとても心配だ
そうだアイツの事気にかけといてくれる様
連絡しとこう

昨日偶然雑誌で見かけたからな

〇 マスターちょっと休憩いってきます

マ おう

断りをいれてバックヤードに入る
どうせまだおじいさんしかいない

〇 ……… あっ もしもし

?? あっ〇〇♪ どしたの〜?

〇 いやただの暇つぶし 
  そっちは変わりないか和よ?

和 うんそうだね〜
  〇〇が全然会いに来てくれないってのが
  変わらないかな〜!

〇 行くわけないだろ

和 ぶー! 仕方ないか美空いるしね

〇 姉貴の事はいいって
  アイツのブラコンをどうにか辞めさせたい
  んだからさ

和 まぁ私は無理って思ってるけどね〜♪

〇 そんな事いうなよ
  いつまでも姉貴に付き纏われてみ?
  参るだろ

和 うん見てたら分かるw

〇 1人暮らしの家の場所も内緒だし
  働いている所なんかこられたらたまったもん
  じゃないのさ

和 へー〇〇って働いてたんだ?

〇 そりゃ1人暮らしだし
  何かと入り用でしょ?

和 どういうお店なの?

〇 いう訳ないでしょ
  和からバレる可能性もあるんだし

和 むー教えてくれたっていいじゃん!

〇 いつかな 

和 はいはい それで何かあった?

〇 まぁ別にそれほど重要じゃないんだけどさ
  アルノの事見とってやって

和 アルノ?なんで?

〇 さっき何もない所で転びやがった
  心配でたまらん

和 ………ねぇ

〇 うん?

和 心配なのは分かったけどさ
  アルノはどこで何してたの?
  今バイト中でしょ?

〇 ………あっ

和 なんでアルノは働いてる所知ってんのよ!

失敗した

口を滑らせてしまう
こうなるとやっぱり和にも教えないと
いけなくなる

〇 バイト先の常連さんだからな

和 ズルいじゃん!

〇 まあ待てアルノに秘密にしてっていったのは
  俺だからさアルノを責めるなよ

和 それはなんとなく分かってる
  やっぱり美空でしょ?

〇 うんバイト先だけは何としても死守したいの
  あそこは俺の憩いの場所でもあるんだから

和 そっかじゃあ私にも教えてよ 

〇 いや今の流れは聞かないんじゃない?

和 ちゃんと黙っとくからさ
  お願い!

見えないけど何故か手を合わせて
上目遣いでお願いする姿が目に浮かぶ

〇 分かった けど本当頼むぞ?
  バレたら嫌いになるからな?

和 分かってるって♪

〇 はぁ










和 アルノー

ア 何〜?

和 あっほんとだ膝擦りむいてるし
  もう気をつけなよ?〇〇が心配してたぞ

ア へっ!? 何で和が知ってんの?

和 だって〇〇がアルノの事心配して電話して
  きたんだもん 
  いいよね〜〇〇から心配してもらってさ

ア あ、あっそう/// 〇〇くんからか///

和 なに惚けてるのさ

ア べ、別にいいでしょ///

和 〇〇が働いている所の常連なんだって?

ア えっもしかして?

和 教えてもらった

ア …もう〇〇くんったら!

和 1人だけ〇〇独占とかさせないよ〜♪

ア 別にいいもん

あの空間で〇〇くんが向けてくれる優しさを
知っているのは私だけだし
今日の事思い出して笑みがでる

ア でへへへっ///♪

和 ちょっとアルノ
  いきなり変な笑い方しないでよ

ア うん でへへっ♪

和 …〇〇ったらアルノに何しんのさ!

ここにいない人に怒っても意味はないけど
もれなくアイツ〇〇はアルノが嬉しい事を
しているのだろう

和 ………アルノに負ける?
  いやいや負けないし!

そう言った私はアルノを軽く叩く
悟られないように〇〇への気持ちが
溢れないように

ア いったーい 和がぶった!

和 ふん!現実に戻してあげたの!

ア えーん〇〇くーん!


つづく 



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櫻屋
ありがとうございます♪作品に役立てます