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成人式を迎えた君へ

成人式。 その日、僕は久しぶりに地元の駅に降り立った。成人祝いに親から買ってもらったスーツが体に馴染まず、なんだか少し歩きにくい。でも、駅前のコンビニの看板や、幼少期の頃に遊んでいた公園は、あの頃のままだった。

成人式の会場に向かう同級生たちは、ほんの少し背が伸びたように見えた。いや、実際はそんなに変わっていないのかもしれない。ただ、彼らを纏っている空気が少しだけ大人びている。そんな感じだった。それがスーツや振袖のせいなのか、それとも久しく会っていないせいか、僕にはわからなかった。

皆が同じ場所に向かう中、足を止めてふと空を見上げた。冬の晴天。そういえば僕たちのお祝いの日はいつも雨だった。今回は初めて晴れているという事実だけで微笑ましくなる。どこまでも続く青空、冬特有の日照りが僕らを差す。その景色は、高校時代、部活の帰り道に見た空とよく似ていた。僕たちはみんな、これからどんな未来が待っているのかもわからず、ただ目の前の毎日に必死だった。それだけでよかったはずなのに、いつの間にか目標を持てだとか、就活だとか、そういった荷物を持たされるようになった。

成人式の会場で、「よお!」と声をかけられるたびに、それまで共に過ごしてきた記憶が次々と解凍される。部活の合宿で馬鹿騒ぎした夜、文化祭の準備で夜まで集まった教室、初恋の人に想いを伝えられなかった切なさ。失恋した友達を励ますために失恋カラオケと称してフリータイムで失恋ソングを歌ったこと。それらはつい最近の出来事のはずなのに、遥か遠い昔の話のように思える。

どこかの偉い人の一声を合図に式典が始まった。市長の祝辞や恩師の挨拶を聞いている間、僕は自分が本当に“大人”になれたのかを考えていた。成人式を迎えたけど、僕たちはまだ20歳だ。お酒もタバコも解禁されたとはいえ、それらとうまく付き合うことができている人はいない。ほとんどの20歳は親の庇護のもと暮らしていて、法的には大人になったと言われるけど、心の中ではまだ子どものままだ。夢や目標があっても、それをどう実現すればいいのかわからない。大人という肩書きが、まるでサイズの合わないスーツのように感じられた。

式が終わり、友達と写真を撮り合ったり、懐かしい話に花を咲かせたりした後、僕はひとりで会場を抜け出す。外の空気は冷たく、頬を刺すようだった。何も変わらない景色を見ながらふとこんなことを思った。

成人式を迎えたからといって大人になったわけではない。成人して何か大きな答えをもらえる日ではなくて、自分がどこから来て、どこへ向かおうとしているのかを考えるための節目なんだ。そして、その答えはこれから考えればいい。

ふと、スマホを取り出して地元の友達のグループチャットを開いた。 「二次会、どこ行く?」 とメッセージを送りながら、僕は小さく笑った。大人になるとは、迷いながら一歩ずつ進んでいくことなのかもしれない。成人を迎えれば、迷いから逃れられると思っていたが、どうもそうではないらしい。むしろ迷いこそが人生と突きつけられている。それをいかにして楽しめるかが人生における重要な鍵になると改めて理解した。

その夜、僕たちは久しぶりに全力で笑い合い、昔話に涙し、そしてそれぞれの“今”を存分に語り合った。結婚をした友達、部活に全力の友達、アルバイトを楽しむ友達、大学の研究に明け暮れる友達など彼らは皆それぞれの道を歩んでいた。自分の周りにはこうして笑い合える仲間がいる成人式は過去を振り返る日であると同時に、未来を想像する日でもあった。そして、僕たちの未来は、あの星のように煌めいているのだと思った。

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