自民党と講談社『ViVi』コラボ企画の問題の本質
自民党が講談社の女性ファッション誌『ViVi』とコラボレーションしたキャンペーンを実施し物議を醸している。概要はこうだ。『ViVi』のサイト内に、自民党の企画広告のページを作成(下記、なお6月19日に6月21日付で企画が終了する旨が付記されている)。
わたしたちの時代がやってくる!権利平等、動物保護、文化共生。みんなはどんな世の中にしたい?【PR】 | ViVi
https://www.vivi.tv/post33579/
そこで9人の「ViVi girl」「こんな世の中にしていきたい!」という趣旨で、下記のような回答を寄せている。
• Be Happy ハッピーに生きていける社会にしたい!
• Open Heart お年寄りや外国人に親切な国でありますように
• Be Real 社交辞令なんか辞めて、建前がない社会にしたい!
• Diversity いろんな文化が共生できる社会に
• Express Yourself 自分らしくいられる世界にしたい
• Face Your Fear 大きな問題にぶち当たっても逃げるな!
• Look at the Bigger picture 広い視野を持って
• Happy & Smile みんなが幸せで笑顔あふれる素敵な国に♡
• Don’t Judge a book by its cover 人を見た目で判断しないでほしい
さらに、「どんな世の中にしたいか、自分の気持ち」をTwitterとinstagramに「#自民党2019」「#メッセージTシャツプレゼント」の2つのハッシュタグをつけて投稿すると、13人に上記のメッセージをプリントしたTシャツをプレゼントするという。
しかしこの広告を巡って、「もやもやする」「実際の自民党の主張や実績と異なる」「政策を競うべきだ」という批判が数多く寄せられている。
ただし批判の大半は法的課題の有無、倫理的課題の有無が混然一体となったものになっている。政治に対する批判的視線は重要だが、法的課題と倫理的課題を混同すると効果的な批判にもなりえないので整理したい。
まず本件が公選法に抵触するかどうか。ポイントはいくつかあるが、Tシャツに自民党のロゴマークがプリントされていること等から、公選法の「寄付の禁止」に該当するのではないかという指摘を散見する。たしかに公選法第百九十九条の三において「公職の候補者等の関係会社等の寄附の禁止」という規定は存在するが、禁止されているのは「公職の候補者等の氏名又は氏名が類推されるような方法の寄付」であって、政党名や政党のロゴマークは規制されていない。
ここでいう「氏名が類推される」とは、「政党名から立候補者が推測できる」、というようなものではなく、判例等では「候補者の氏名又は名等(要するに姓か名)が直接に含まれている方法」とされているので、今回のTシャツのプレゼントは公選法第百九十九条の三には違反していないともいえそうだ。
もう1つは、参院選を控えていることから事前運動にあたるのではないかという指摘である。公選法は選挙運動の期間を厳密に定めているため、それ以外の期間には選挙運動をすることができない。選挙運動とは「①特定の選挙について、②特定の候補者の当選を目的として、③投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」(強調、番号付与筆者)とされている。つまるところ、本件が①②③の条件を充たすようであれば選挙運動以前に行われているから事前運動に該当する可能性がある。
しかしながら、このTシャツやサイトには、特定の選挙(直近でいえば、参議院選挙)についての言及はなく、特定候補者に関する言及もなされていない。また公選法は氏名、顔写真、似顔絵等の氏名類推を制限するが、Tシャツやサイトのデザインはいずれもこれらに該当しないといえ、これらを選挙運動、とくに事前運動だというのは難しいのではないか。
そのように考えると、今回のキャンペーンは選挙運動ではなく、政党による政治活動と考えられる。政治活動は「政治上の目的をもって行われるすべての行為の中から、選挙運動にわたる行為を除いた一切の行為をいう。」とされている。政治活動については、憲法で保障された思想・信条・表現の自由の観点から、非常に広範な裁量が認められていて、さしあたり現行規制のもとでは、明らかに公選法に抵触する行為は見当たらないように思われる。法的課題という点でいえば、自民党の政治活動の自由の範囲内で行われたキャンペーンといえそうだ。
ただし、このような理解は、当然のことながら「本キャンペーンに倫理的課題が存在しない」という主張と同義ではない。確かに政治広告なら「政策論議を行うべき」だ。筆者も政策論争の必要性をかねてから著書などで主張してきたとおりである。
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