今後、人的資源を確保できるかが企業の勝ち組と負け組を分けることになる②

前回の記事の続きになります。前回の記事は下記のリンク先からどうぞ。
https://note.com/ryosuke344/n/n42ea63cc65ec

さて、前回の記事では、人的資源の学問的特徴について説明しました。
今回の記事では、人的資源の確保がなぜ必要なのかについて、書いていきたいと思います。

【日本は人的資源を意図的に潤沢にしてきた】

古今東西、安価な人的資源は、経営者側にとっては非常に魅力的な存在でした。当然ながら、安い労働力を確保できれば、その分、安く物を作り、安く物を売ることができて、競争力を上げることができるからです。

そのため、欧米はアフリカ大陸から奴隷を集め、アメリカ南部では奴隷を使って安価な綿などを海外に販売していました。

しかし、だんだんと状況は変わります。経済学が研究され、先進国が資本主義国として成熟すると、「労働者の賃金上昇=経済力の上昇」ということが理解されるようになりました。
これは簡単に説明すると、「労働者の賃金が上がることで、より高価な品物やサービスが売れ、企業の売り上げと利益が増え、また税金も増えていくからです」
(所得税が10%であれば、年収100万×10人 < 年収1000万×10人 のほうが税金は多くなります)

なので、先進国は自国民の雇用を維持し、給与が持続的に上がるようにしていきました。
その事実がわかることとして、戦前のアメリカで起きた、日本人移民排斥運動があります。これは日本人移民がアメリカの特に西海岸にどんどんと移住するようになったときに、「日本人移民はアメリカ人より安い給与で、より長く、文句を言わずに働く」、ことにアメリカ国民が危機感を覚えたことから始まりました。
アメリカでは政府も国民も、持続的に賃金を上げることの必要性を理解していたともいえます。

話を日本に戻しましょう。
日本でも物価と賃金の持続的上昇が必要なことは、政府、日銀は理解してきました。

本来、賃金を持続的に上げるためには、多少の人手不足は必要になります。
人が不足することで、企業は賃金や待遇を良くしたり、もしくは人が少なくても成り立つように設備投資をします(自動化や機械化)。
そうすることで、労働者の給与は上がり、設備投資によって購入先の企業の売り上げもあがり、設備投資した会社も利益が上がります。
そして、それらの結果、税金は増え、国も潤うことになります。

しかし、日本では、中小零細企業の経営者を守ることにも苦心してきました。結果、人手不足になりそうになると、新しい労働力層を市場に投入し、人手不足を回避してきました。
それが女性活躍であり、シニア労働力者です。1990年代中盤、男性労働者が減少を始めると、女性の正社員を増やし、再雇用制度を整えました。

少し人手不足になりそうになったところに、1千万人以上の労働力を増やしてしまい、一気に人余りになってしまいました。
しかも、人手不足にならないように、先回りで再雇用制度を拡充し、常に人余りになり続けるように、結果的にはしてきたわけです。

【日本は人手余りを前提にアップデートしてきた】

日本では1990年代中盤、つまりバブル崩壊から2019年まで人が余っている状態でした。
そして、社会や企業は、この人手余りを前提にアップデートしてきてしまいました。

例をいくつかあげましょう。
市町村の役所では、非正規の事務員や専門職ありきで仕事を回すようになりました。それらの非正規の募集では、雇用期間に限りがあり、3年から5年働いたら、自動的にクビになります。
教員も同様です。教員採用試験に合格できなかった若者を、非正規教員として雇用し、一年間の有期雇用で、正規教員と同じような仕事をさせてきました。さらに言えば、彼ら非正規は、正規と同じ給与額ですが、夏休みなどの長期休暇は給与は支払われません。

企業も同様です。飲食店や宿泊業などは、非正規のパートやアルバイトでまわすようになりました。あまつさえ、アルバイトにも「経営者目線を持て」などと言い、安い労働力を最大限に使うことに注力しました。

本来は、こういった悪い労働環境からは、労働者は離れ、より良い環境に流れていきますが、あまりにも多くの労働者が余る状況が続いたことから、人材の流動化、労働環境の向上、経済の成長が起きませんでした。

【人手余りが終わってしまった日本】

2019年から、少子高齢化、団塊世代の70歳越え、などから労働者は減少を開始しました。
これから人手が余ることはありません。

なぜ断言できるかというと、
・単純にこれから労働者は年間30万人~50万人ずつ減少し続ける

・外国人労働者の日本の受け入れは、年間10万人程度が限界。さらに言えば、単身の若い移住労働者は歓迎だが、家族による移民を大勢受け入れることはできないから、世界各国で若い人材を奪い合っている以上、今後爆発的に増えることは考えられない。
(移民の場合、小さい子供や年老いた親も一緒に来る。その場合、介護や医療が必要だったり、日本語がまったくわからない子供を学校は受け入れる必要があり、結果的に彼らのサポート、ケアのための仕事、人手がより必要になる。また治安悪化も起こり、警察もより必要になる。そのため移民受け入れは人手不足を悪化させるため、日本政府は常に消極的)

・機械化、自動化は進むが、しかし機械化・自動化できない職種、業界で人手不足が深刻化しており、人が余っている業界、職種がないから穴埋めできない
(例として、仮に学校の授業をオンラインでやる場合、見守る大人は必要。当然、子供たちにいたずらをしたり、暴力を振るわず、オンライン授業の内容が分からない子供の質問に対応できる、ある程度の学力を持つ大人が必要。それは結局、先生なわけで、教師不足をオンライン授業で解決は事実上無理)

【人手確保のための動きは、大きく差が開いてきている】

結果、いま人手不足が起きているわけで、人手余りを前提にしてきた組織、企業は大きく困っているわけです。

そして、これらのことに関して、大きく問題なのは人手不足の状況ではなく、人手確保のノウハウを持ってない組織、企業が非常に多いということです。
現時点で、教員不足が深刻化していますが、文科省、教育委員会が打ち出している対策は何も解決につながりません。

飲食店や宿泊業も、困ってるとは言っていますが、何か有効な対策はほとんどの組織が打ち出せていません。はっきり言って、給与をいち早く引き上げて人の確保をするだけで、打開の一歩になるのですが(もちろんそのあとに利益体質の改善や付加価値向上などは必要ですが)、それすらできていません。

そもそも企業やお店は、常に販売価格を上げることを考える必要があるのが資本主義です。それを忘れて、ずっと同じ価格で売り続け、付加価値の向上、売価の上昇を考えることなく、安い労働力に甘え続けてきたツケがここにきて襲ってきています。

反面、常に成長してきた企業は既に大きく動き始めています。
待遇を上げる企業、採用や人的資源の確保のノウハウを持った人事経験者を雇う、自動化のため設備投資に踏み切る。
正解は一つではありませんが、少なくとも何か動く必要があります。

正直、業界、規模を問わず、「人が採用できない、辞めていく、困った」と言いはするものの、何も対策を打たない会社がかなり多くあります。
人手不足はボディブローのように効いてきますので、いま対策を打ってない会社の多くは5年後に非常に厳しい状況に追い込まれていると思われます。

リクルート研究所が指摘していますが、「”いま”が一番、採用しやすい」という指摘はもっともであり、さらに言えば、「今が一番、有能な人材の人件費が安い」とも言えます。

人材の雇用は投資です。
まさしく、今が一番、買いやすく、安値なわけです。
ここで投資できるか、できないか。いま企業や組織は、ターニングポイントを迎えています。

まとめ

新卒採用で採用しきれない企業が第二新卒の採用、中途採用に注力し始めました。
しかし、既に中途採用も激化しており、第二新卒も早晩、採用したい企業が急増することで激化するでしょう。

先を見ている企業は、人事経験の豊富な人材の確保、採用ハードルを下げるなど、企業風土や制度に関わることにも手を付け始めています。
実際、これまでは採用していなかったような既卒者、個性的な経歴の方も採用し始めています。

これからは、机上の空論だけの人事コンサルは戦力にはならないでしょう。彼らの言うような、制度や評価方法の変更、採用戦略の再検討をしたところで、実際に人と接して、実践するのは現場です。
今後は、そういった現場の戦力が企業の人的資源の確保、定着を大きく左右するでしょう。

現場の下積み経験のある人事コンサルを必要でしたら、ぜひお力になりたいと思います。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また次の記事もよろしくお願いします

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