日本版DBSの、効果と問題点や課題について

今回の記事は、日本版DBSについてです。
まずDBSとは何かについてですが、「子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないことを確認する制度」(Disclosure and Barring Service)です。
欧米各国では、広く普及している制度で、日本も「▽禁錮刑以上の場合は刑の終了後20年、▽罰金刑以下は執行後10年」を制限対象とする方向性であることが先日報道されました。

これが導入されるとどうなるのか、簡単に下記にまとめました。
① 学校(幼稚園含む)、保育園は制度施行後に新規雇用する人と、既に在籍している既存職員に対して、DBS制度を使い、過去に犯罪歴が無いかを確認する(確認義務あり)
② 禁固刑の刑終了から20年未満、罰金刑以下(盗撮や未成年との同意の上の性交などの迷惑防止条例違反も含む)の刑終了から10年未満の人がいた場合は、雇用しない。既存職員の場合は、子供と接しない仕事への異動、もしくは配置転換が難しい場合は解雇となる。
③ 学習塾やスポーツクラブなどは、確認は任意だが、認定制度を用意。確認をしている事業所は認定事業所となる。

要は、性犯罪を過去に犯した方は、長期間、子供と接する(可能性のある)仕事には就けなくなるということです。

DBS制度のメリット

当たり前ですが、子供が性犯罪に遭う可能性が下がります。子供の性犯罪被害は、多くが学校内や学習塾内などの、密室内で起きています。この密室から性犯罪者が除外されることには一定の効果があることは確実です。
また、日本だけのメリットですが、なかなか解雇ができない法体系である以上、こうした解雇を可能とする要件が増える、性犯罪歴のある方を正当に解雇できる方法が増えることもまたメリットと言えます。

DBS制度の課題、懸念点

制度には必ず、一長一短があります。このDBS制度もいくつかの課題、懸念を有しています。以下、列挙します。

① 人手不足をどうするのか?

配置転換をする、解雇すると言うのは簡単ですが、その分の穴をどう埋めるかはまったく検討されていません。配置転換といっても、学校や保育園で、子供と接しない仕事なんてほとんどありません。少なくとも現時点で事務仕事専従の教員や保育士はいないはずです。
もちろん人手不足が、性犯罪のリスクを放置する理由にはなりません。ただ、現実として、解雇もしくは配置転換になる人が一定数出ることは確実視されております(DBS制度導入の方向性が決まった段階で退職した人たちが一定数出たという報道もあります)。
現状の人手不足に対してすら、有効な解決手段を提案できていない時点で、子供たちの教育の質低下の不安が残ります。

② ボランティアなどにも適用するのか?

こちらも現実問題として、学童などは大勢のボランティアの方々に支えられています。こういった報酬のない方々にも適用するのか、は気になります。

③ 犯罪歴という、センシティブな情報の秘密、漏洩防止はできるのか?

まず犯罪歴は、かなりセンシティブな情報と位置付けられております。例えばですが、警察でさえ、一回目の逮捕などは職場にも知られないように配慮したりもします。今回のDBSでは、その配慮された1回目も、知られることとなります。
また今回、法学者を中心に議論されているのは照会期間です。現状の法制度では、刑の終了後10年で犯罪歴は消えることとなっています(現状の法制度では、犯罪者の更生、社会復帰を前提にしており、これは欧米各国も同様の理念を持っている)
つまり、刑終了後から10年を超えた方の犯罪歴は、本来知られるはずのない情報であり、仮にそれを知った人が「うっかり他の人に喋った、SNSに書いてしまった」ということがあれば、重大な名誉棄損になります。

④ 子供たちへの配慮はできるのか?

子供たちにとって優しかった先生が、過去に性犯罪を犯した先生ということもあります。急に先生がいなくなる、他の先生から「〇〇先生は犯罪者だった」など聞かされる、ということは、また別のトラウマや人間不信を子供たちに植え付けることになります。導入当初の対応は一層の注意が必要になります。

まとめ

個人的な見解は以下の通りです。
① 子供たちを性犯罪から守ることはとても大事
② DBS制度は、教育職に就くハードルを上げることであり、この人手不足時代に導入するには課題が多い
③ そもそも教育職(教師、保育士)になりたい人も減っている中で、さらに希望者は減り、人手は減っていく
④ 教育職の給与を欧米各国並みに引き上げる(欧米諸国では教師は大学院卒が普通の高度専門職)必要があるが、日本の財政では困難
⑤ 少なくとも親への対応や、教育以外の仕事(地域との懇親、部活、事務仕事)などは、教師にはさせないようにするしかない

もちろんこれだけでも解決にはなりません。実際に導入した際に、現場や子供たちが混乱したり、教育の質が落ちるようなことが無いようにしてもらいたいです。
今回の記事は以上です。

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