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【小説】ROCKIN'ON JAPANによろしく 第一話 「燃えるような赤」

BUMP OF CHICKEN
ASIAN KUNG-FU GENERATION
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
ナンバーガール
スーパーカー

いわゆる、ロキノン系。
ロック雑誌「ROCKIN'ON JAPAN」に載るバンドたち。彼らの多くは、日本最大級の野外フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」に出演している。
そんな「ロキノン系」に憧れ、いつかそのステージに立つことを夢見るバンドが、千葉県市川市本八幡にいた。

その名も——「ジオグラフ」
今日も彼らは、ROCK IN JAPAN FESTIVALを目指して深夜のスタジオに集まる予定だった。だが——。


「くっそ、マジで俺ひとりだけかよ!ふざけんな!」

スタジオの中で苛立ちを爆発させているのは、ジオグラフのベーシスト・吉田颯太。通称「颯太」。
バンドのリーダーで、運営やブッキング、メンバーのスケジュール管理までを一手に引き受ける頼れる存在……のはずだった。

「23時集合だぞ!もう0時半だ!普通遅れるなら連絡するだろ!ベースひとりじゃ練習できねぇっての!」

何度もLINEを送るが、既読すらつかない。スマホを握りしめたまま悪態をついていると、ようやくスタジオのドアが開いた。


「おー、颯太、テメェの顔見たらなんかムカついてきたわ」

遅れること1時間半、ギターの鈴木徹、通称「スク」がようやく現れた。

スク。その名前の由来は、凛として時雨のギタリスト「TK」に憧れた彼が、自分の名前「Toru Suzuki」から「TS」と名乗ろうとしたことにある。だが、周囲から「それ、チューブスクリーマー(エフェクター)じゃね?」と笑われ、「じゃあスクでいいじゃん」とあっさり決定されたのだ。

本人は渋々受け入れたが、今では「プロっぽいだろ?」と得意げに語る。誰がどう見てもプロには程遠いが。

「おい!スク!1時間半も遅刻して、なんだその態度は!」颯太が詰め寄る。

「いや、早めに出たんだよ。でも新曲のアイデアが浮かんじまってさ、乗り換えミスった」
「それで1時間半か?」
「いや、まだある。訳わかんねぇ駅でトイレ寄ったら、ギター忘れた」

颯太の顔が引きつる。「お前、あのギターだよな?」
「そう。で、本八幡戻って気づいて慌てて探したけど……なかった」

「お前ってやつは……!」颯太は頭を抱える。「そのギター、お前の宝物だろ!」
「だから今、怒りと悲しみでいっぱいなんだよ!お前の顔見たら、なんか腹立つし!」

颯太がため息をつきながら睨む中、スクは「……ギター、見つかるかな」とボソリとつぶやいた。


「いやいや、それどころじゃねぇだろ……」

部屋の隅から声がした。見ると、顔面ボコボコに腫れた男がドラムセットに座っている。

「お、お前……いつからそこにいたんだよ!?てか、その顔どうした!?」

彼の名前は伊藤大地、通称「大地」。ドラム担当で、バンドのムードメーカーだが、今夜は様子が違う。

「いやさ、機材車で向かってたら後ろから煽られてさ。ムカついて俺も煽り返しちまった」
「お前、そこでやめとけよ!」颯太が即ツッコむ。

「で、相手がヤクザで……事務所まで連れてかれてボコボコにされてさ。最後に『迷惑料50万』とか言われて借用書書かされた」

「……お前、マジでアホだろ!」颯太が叫ぶ。スクも「大地、お前ヤバいな」と呆れ顔。
大地は肩を落とし、ぼそっと呟いた。「はぁ……もう死のうかな……」


「おい、簡単に『死のう』なんて言うなよ」

スタジオのドアが開き、青白い顔でお腹に包帯を巻いた男が現れた。

彼の名前は佐々木ゆう、通称「ゆう」。バンドではボーカルギター、作詞とグッズデザインを担当しているが、問題児でもある。

「おい、ゆう。その怪我どうしたんだよ!」颯太が尋ねると、ゆうは薄い笑みを浮かべながら答えた。

「彼女に浮気がバレてさ、喧嘩がもつれて包丁で軽く刺された」
「軽く刺されたってなんだよ!?」颯太のツッコミが響く。

「でもさ、スクがギターなくして、大地が借金背負って、俺が刺されても……命があるだけマシだろ」
「お前が悟ったようなこと言うな!」颯太が全力でツッコむ。


「よし、全員揃ったな!」颯太が気を取り直すも、空気は重い。3人の顔は完全にメンタルが折れていた。

「でもな、俺たちはロキノンフェスを目指してんだ。スク、とりあえずスタジオのギター借りて練習しようぜ!」

3人が一斉に睨む。「お前、空気読めよ!」
「借金50万だぞ!」
「せめて慰めろよ!」

怒りの矛先が颯太に向かう中

颯太のスマホが鳴る。

電話に出ると

顔がみるみる青ざめる颯太。


「……大家さんからだった。俺のアパート、火事で全焼したらしい」


沈黙の後、スクが気まずそうに言う。「ま……まぁ、なんとかなるって!」
大地も、「俺たちも一緒に考えるからさ!」
ゆうも真顔で、「そうだよ。命があるだけ感謝しようぜ」と締めくくった。

その夜、颯太は本八幡の健康ランド「レインボー」で一夜を明かしたという。

「ジオグラフのROCK IN JAPAN FESTIVALへの道は、こうして始まった。負けるな、ジオグラフ!がんばれ、ジオグラフ!」


「燃えるような赤」(サカナクション)

ROCK IN JAPAN FESTIVAL(ロック・イン・ジャパン・フェスティバル)は、ロッキング・オン・ジャパンが主催・企画制作を手掛ける日本最大の野外ロック・フェスティバルである[2][3]。 概要 ロッキング・オン代表取締役社長である渋谷陽一の「参加者が主役のロックフェスを行いたい」という考えを実現する形で、2000年に初開催。茨城県の国営ひたち海浜公園を会場に、日本を代表するアーティストが集う真夏の野外イベントとして[4]、2019年までの20年間で累計約360万人を動員した[5]。


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