「ととのい」の本質はどこにある?サウナシュラン2022結果について一考
僕は「サウナーです」と自称することはしないし、しようとも思ってはいないけど、事実上、自称サウナーよりよっぽどサウナに入ってきているらしい。何せ移動距離が違う。そして移動するたびに、地域に名のあるサウナに通うことになる。なんなら新しい地域にサウナができたらそのためにお呼びいただいたりすることも少なくない。
たまに帰る東京の自宅は、これがまた改良される前から改良湯のお膝元。まさか、あの(お湯は熱いほどいい!みたいな昔ながらの銭湯だった)改良湯が、今や芋洗い状態で、ふと風呂場を見渡せば、アラフォーの僕が最年長なんじゃないかという状況になるなんて。
この5年ほどでサ道が、こうして「道」としてZ世代にまで広がっていったのは、間違いなく"親方”や"師匠”と呼ばれる方々が所属するTTNEの皆さんの日々の活動に他ならない。TTNEの皆さんのご活躍のおかげで、ただのアラフォーサウナーだった僕は、流行りに乗っている人みたいな目で見てもらえるようになり、いろんなサウナが綺麗で、おしゃれになっていくもんだから、行きたいサウナがどんどん増えて、サ道は、どんどん楽しくなってきている。心から感謝していて、心から尊敬していて、そしてTTNEがブランディングやサウナの監修に入っているサウナはことごとく「さすが」と唸らせるととのいサウナしかなくて、もう畏怖の念さえいただいている。親方は、僕にとっては親方を超え、サ神ともいって良い。
そんなTTNEが主宰する、日本のサウナのトップ11を選ぶ(11/11は「ととのえの日」サウナシュラン「SAUNASHELIN 2022」がついに今日発表された。5年目の今回の結果は「どうなるんだ!?」と注目していた。
僕は親方も、師匠にもお会いしたことがない。偶像崇拝の念すらある。だからこそ自分自身が「サウナー」と名乗るには烏滸がましいとさえ感じている。サウナーですよね?と言われれば断固否定し「いえ、ただの野良のサウナ好きです」と控えめに説明させていただいていた。
サ神らが主宰する年の1度の「今年行くべきTOPサウナはここだ!」という、おふれのようなサウナシュランを、僕は毎年とても楽しみにしていた。今年、どこで、どんなサウナが生まれ、これを評価するのか。新旧入り混じるサ界において、どこまで温故知新が込められるのか。
結果は、このように発表された。
SAUNACHELIN 2022 受賞施設一覧
スパメッツァおおたか竜泉寺の湯(千葉県/流山市)⭐️🧖♀️
Thermal Climb Studio Fuji(静岡県/裾野市)🧖♀️
The Sauna(長野県/上水内郡)🧖♀️
北こぶし知床 ホテル&リゾート (北海道/斜里郡)⭐️🧖♀️
8HOTEL SHONA FUJISAWA(神奈川県/藤沢市)🧖♀️
神戸サウナ&スパ(兵庫県/神戸市)
SANAMANE[SAZAE](香川県/香川郡)⭐️
SAUNALAND ASAKUSA -サウナランド浅草-(東京都/台東区)
sankara hotel&spa 屋久島(鹿児島県/熊毛郡)⭐️
The Hive(富山県/中新川郡)🧖♀️
お風呂とサウナ PARADISE(東京都/港区)🧖♀️
※1,4,7,9はTTNEプロデュース(監修)サウナ⭐️
※5,9,11はリノベーションサウナ
※6はリニューアルサウナ
🧖♀️僕が訪問済みのところ。
11個のうち7つお邪魔していて、こういうところに、自分のサ活の甘さを感じられて、サウナシュランは毎回見応えがある。おぉ、神戸に行ったら行ってみよう!となる。屋久島にも知人がいるので、行ったら間違いなく行ってみよう!となってくる。これだからサウナシュランは面白い。
自分自身が大ファンのサウナが選ばれるのも素直に嬉しい。お風呂ソムリエ松永 武さんが、10年の構想を経て作ったサウナ専用施設「Thermal Climb Studio Fuji(静岡県/裾野市)」は常軌を逸したサウナ専用施設だ。富山の薬品会社が「薬を使わずに人を健康にする」というパラドックスを追い求めて広大な敷地に独自のサウナ施設「The Hive(富山県/中新川郡)」も冒頭のインスタグラムにて紹介した通り、お世辞抜きに気持ちがいい。
結局「ととのい」とは水と空気。富士山や、立山連峰の清水で「飲める水風呂」で整う体験は、どこにも変え難い。清らかな水と空気を思い切り皮膚と肺に取り込めることが、人間のウェルビーイングの極みを味わえる。富士山の麓や、立山連峰の麓にある、この2つのサウナには「ととのいの本質」がある。ぜひたくさんの人を、心から、お連れしたいと思っている。
北こぶし知床 ホテル&リゾート (北海道/斜里郡)は、選ばれる前からホテルそのものの大ファンだ。旅のサブスク HafH にもご登録いただいていて、HafHの会員の皆様にも大人気の宿泊施設だ。故に、選ばれる前と後のこの1年、明らかにサウナシュランに選ばれた後の客層の変化も見てきた。それまで、バス団体ツアーでお越しになったお年寄りの方がゆっくり入っていたサウナに、まるで改良湯と変わらないお客さんたちが、北こぶしのサウナのために知床半島の根元まで足を伸ばしてくれている。
SAUNACHELINのマーケティング効果とは、ここまでか、と客の一人としても、驚きの気持ちを隠しようがない。それくらいに変わったと思う。ホテルの役員の方々は、まだまだこの勢いを活かさんと改装を続けているところ。ちなみに北こぶし「もう行った」という人も、今年夏以降、屋上外気浴もオープンしている。この冬、ぜひガンガンに体を温めて、キンキンの外気浴を楽しんでみてほしい。真っ裸で流氷を見ながら整う体験は、ここでしか味わえないと思う。
サウナシュランのいいところは、ファンシーで今風のサウナだけではなく、昔ながらの渋いサウナもしっかり評価されていたところだったりした。今回は全て新規サウナかリノベートされたサウナのみ選ばれた。これは明らかにこれまでとは違う振り切りを感じた。腹を括ったんだという表現が正しいかもしれない。そして、その新しいサウナ施設でランクインした中で4つがTTNEプロデュース案件である、と。
「もうここは、誰が何と言おうと殿堂入りだよね」というところはどんどん殿堂入りしていっていたサウナシュランで、この動きも歓迎していた。さもなくば、新しい魅力あるサウナの紹介が難しくなる。静岡の「サウナしきじ」や熊本の「湯らっくす」、佐賀の「らかんの湯」あたりは、早々に
殿堂入りした。長野の「THE SAUNA」もそういう場所だった。しかし今回3位に返り咲いた。理由はリノベーション(拡大増設)だ。
何が言いたいかというと、サウナシュランが「偏り始めている」し「致し方ない」と察するし「そういうものだ」と思いながら見るランキングであって「サウナのととのいの本質」体験とは違う評価だ、ということ。
1.スパメッツァおおたか竜泉寺の湯(千葉県/流山市)の5つのストーブ(上写真)から出るオートロウリュはマジでヤバい。さすが親方…と唸りながら耐える。サウナストーブとダクトがまるでオーケストラを奏でるかのように熱波を出してくる。わかる。1位になっておかしくない、サウナそのもののレベチ感は十分感じている。けれどそこを1位にし始めれば、もはやただの広告じゃないか。10,000あるサウナから、11選んだうち、4つをご自身らがプロデュースしたところで、1位もそこ。我田引水の行く末になってしまってしまいやしないだろうか。
何よりサウナ好きとして訴えたいのは、こうして人気になった(スパメッツァは既に人気施設)サウナは、人で溢れ、時に、裸で10分近く並び、外気浴スペースを探すために路頭に迷うことになる。見知らぬ誰かの痴話話が、ととのいの最中に耳に入ってくる。目を少しひらけば、100人の全裸の男たちが好き好きにふろを楽しんでいる光景が広がっている。果たして、このサウナ環境は、全国10,000のサウナのどこよりも素晴らしい第1位の「ととのい体験」が得られる場所といえるのか。
3.The Sauna(長野県/上水内郡)も、すんごい場所であることは間違いないんだけれど、増築拡大の結果、殿堂入りからランキング返り咲くというのは、何かこう、プロモーティブな匂いがしてしまう。
11.お風呂とサウナ PARADISE(東京都/港区)に至っては、絶対に11位になんか入っちゃいけない、と僕は今回の結果を見て声を上げた。あのサウナは、いろいろと、整う上で間違っている。ととのい時間を従量課金されるシステムでととのいに時間をかけるほど2,000円、3,000円と費用が増していく仕掛けは、革新的であったとしても、ととのいの本質からかけ離れていると思う。サウナのプロフェッショナルが、10,000のサウナから、あのサウナを11番目に選ぶなんて。サウナの本質を見失っていはいないかと疑問を呈さざるを得ない。
サウナの本質と、サウナシュランのパラドックス
サウナの「ととのい」の本質は「地球に、人間として、生まれてよかった」と細胞中の細胞が感じている状態にあると僕は思う。
セロトニン、ドーパミン、オキシトシン、そしてアドレナリンも含めて、あらゆる全ての幸福ホルモンが分泌しまくっている状態を指す。それを、人気が出て、人混みの中で入るサウナに、感じることは至難の業だ。人気が出れば出るほど、その場所自体からととのいは遠ざかっていく。Thermal Climb Studio Fuji(静岡県/裾野市)やThe Hive(富山県/中新川郡) は人数制限、あるいは貸切で、富士と立山の自然の力を存分に吸収できる。そういう意味で、ランキングトップに選ばれてしかるべき評価だと思う。
かといって、こんな景色のサウナに誰しも行けるわけでもないから、都心型のサウナでととのうならせめて、静かに、自分のペースで、入れる場所であるべきだ。
サウナにはオーナーの一癖も二癖もある場所がいっぱいある。そんな「癖」を楽しむのもまた一興で、都心型のサウナにはそうした癖も楽しんでほしい。決して「マス」にはならない「ニッチ」であればあるほど、サウナは楽しいと思っているからこそ、今回の結果にあるような、Z世代にも愛されるサウナであればあるほど、何かサウナの本質ではないところに"ととのい"が向かっているように感じてしまった。
あくまで、サウナシュランは、まだまだサウナ初心者むけの「ここにいっときゃ自慢できるし間違いなく整う」サウナ特集であって、サの道を極めるものにとっては、そこはそこでしかなくなっているんだということを感じさせられた。「革新的なサウナ施設を“今行くべき全国のサウナ”」とサウナシュランのプレスリリースにある。あくまで「革新性」=新しさが求められる評価なのだ。
来年以降、もしかしたら、いろんな「ジャンル」に分かれたサウナシュランが生まれてもいいのかもしれない。「都市型昔ながらの一癖ある系サウナ」「都市型今風のサウナ」「地方の自然貸切型」「地方のホテル・旅館系」といった風に分かれて来れば、もっとサウナの幅は広がっていくと思うが…そうなってくると、さらにサウナは複雑で、何かまた違う方向に向かっていってしまうことを危惧しているのかもしれない。なんなら「海外のサウナ」なんてのも情報として欲しくなる。
きっと今回の審査は混迷を極めただろう。混迷を極めた時には一定の基準が生まれたに違いない。そしてその基準がどういうものか、よくわかる結果だったし、この基準が、サウナの本質の全てではないということもわかる評価だった。そんな今年のSAUNACHELIN2022。
この結果を見ながら、僕にとってのマイサウナシュランを考える。
そんな2022年11月11日、ととのいの日。
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