【最新】日本版デジタルノマドビザは、誰のもの?意見募集中。 #在留資格
デジタルノマドという存在が「地域創生において」「消費拡大」「ビジネスマッチング」につながる日本の未来にとって可能性を秘めた存在だとして注目を集め出し、政府が昨年「専門のビザ発給」の検討をすることで動いている、そこまでは僕の耳にも届いていました。
実は世界にはすでに50以上の政府が、デジタルノマドビザ(あるいはそれに相当するビザ、リンク参照)を作って「長期滞在」「高所得者」「高度IT人材」の獲得に走っています。日本も遅れまじと出来上がるビザなのですが、その内容は、世界の国々に負けないものなのかが、関係者内で、注目を集めていました。
日本版デジタルノマドビザ動向に注目して以来、台湾、韓国のそれぞれのビザの最新情報もチェックしてまして、とりわけ台湾のデジタルノマドビザ(通称:ゴールドカード)については「これこそ人口減少、少子高齢対策の本気だ」と言わんばかりの内容でして、隣国の魅力的なビザを前に、日本はどこまで頑張れるんだ〜!?と気になっていたんです。
国会議員のSNSから漏れた「日本版デジタルノマドビザ」概要(1月30日)
日本版デジタルノマドビザについては「今年度中の整備」と発表があったので、何らか今年度中に動きがあるのだろうと思っていたところ、先日、今枝宗一郎文科副大臣から、日本版デジタルノマドビザの概要について突如発信があったものですから、結構びっくりしたというか、慌てて確認に走りました。
概要部分のみ引用すると、こう書いてあります。
この発表について、すごいのか、すごくないのか。
ぱっと見じゃわからないと思うんです。
そこで、このnoteでは、隣国の韓国、台湾が、それぞれのデジタルノマドビザをどういう目的でおき、日本版の発表が、どう優劣あるのか、比較して見てみることにしました。JDNA(社団法人 日本デジタルノマド協会)を通じて、日台韓の3カ国のデジタルノマドビザの比較表を作成したものがこちらの表です。日本版についてはまだまだ未発表のものが多く、全ての比較ができているわけではないのと、条件の詳細が見えず今後も修正されていくことを前提とさせていただいていますのでそこはご容赦ください。
国内企業との「雇用(業務委託)契約を結べるのか」が焦点だった
まず、日本版デジタルノマドビザの整備において、関係者たちの焦点となっていたのが「デジタルノマドビザを通じて、日本の国内企業と雇用(業務委託)契約がむすべるものになるかどうか」というところでした。
台湾のデジタルノマドビザ(ゴールドカード)が「国内企業との雇用契約、業務委託、アルバイトを認める(逆に、働かなくてもOK)」という驚愕の大盤振る舞いで、高度人材の獲得と台湾経済への経済的インパクトを図るものだった一方で、韓国版ビザは雇用を認めず、あくまで観光消費を狙ったワーケーションの更なる長期滞在を測るもの(最大2年間滞在OK)でした。デジタルノマドの多くが高度IT人材であるとされる中で、日本はデジタルノマドの国内雇用(業務委託)を認めるのか。
結果はNO。雇用契約も、居住権も認めない、保守的な内容となる見込みのようです。海外労働者問題として日本の雇用を奪う存在だという懸念がここに見え隠れします。
日本は「外国人労働者が日本の雇用を奪う」という懸念が強くある国です。これまで国会でも外国人労働者受け入れ問題は長らく議論が続いています。日本の雇用市場を日本人の内需で賄おうとする意識が強く働いています。個人的な意見ですが、これはこれで、日本のスタンスとして非難されるだけの話ではないと理解しています。アメリカやカナダのような移民国家と日本は違うんです、と言うことで、それは誇ってしかるべき国の思いだと思っています。
ただ、デジタルノマドという存在は、どこの国籍か関係なく、自分のライフスタイルと「居心地の良さ」を求めて土地を選びます。結果として「国境」を超えることになるものです。僕はこれまで、どの国に生まれていようと、日本を「ホーム」だと感じる人がたくさんいるという人を見てきました。
自分の生まれた国よりも居心地の良さを感じてくれる、日本を愛する人がたくさんいます。日本人よりも日本を愛し、褒めてくれる人がいて、しかもその人が、日本経済においてとてもありがたいスキルを持っていたりして「日本の未来のために何か手伝いたい」と言ってくれている。
これは「(国内における)移住」周りの話に例えると少しわかりやすくなるのですが、東京から長崎に移住するにも、一度訪れて好きになったからといって、すぐ住民票を移すかというと移さないものです。何度も通っていく「移行期」みたいな時期が多くの人にとって必要です。このデジタルノマドビザは「観光」と「就労」の間を取り持つ「ちょっとずつ日本の未来に関わっていく」一歩目になるべき存在だと期待しています。
まずは観光客として日本を訪れてみる。日本の魅力を知り、もう少し長く、たくさんのことを知りたいと思う。次は半年、あるいは1年住んで見たい。長期滞在することで、意気投合した地域経営者に出会ったりする。そこで「手伝ってくれよ!」と頼まれることもあるでしょう。地域企業は、彼らの知恵を地域の未来に役に立て始める。このプロセスを経て「日本に住んでみたい」と思うようになっていく。
観光と、就労の間に、デジタルノマドビザが役割を果たしていく可能性に、本来は期待したいところです。
収入要件:年収1,000万円以上!は何を意味するか
さて、誰でもこのビザを簡単に取得できる必要はないと思っています。どういう要件を課すことで「日本にとってありがたい存在」を炙り出すか。なかなか難しい判断が求められますが、他国を参考にするとデジタルノマドビザの要件に「月収あるいは年収」を要件にしています。その金額については、各国のビザでもばらつきがあるのが事実です。
日本滞在中、日本企業と雇用契約を結べない条件にしているわけですから、仮に長期間日本に滞在したい「デジタルノマド」が現れたら、その間「あなた、仕事はどうするんだ」と素朴な疑問が浮かんでくることでしょう。「デジタルノマド」なので、海外のどこかではリモートで仕事をしているはずなわけで、無職で日本に長期間滞在できる人はそういないだろうし、仮にそうだとしても、お財布に余裕さえあれば「不法労働」みたいな話にはなりにくいだろう、と。そういう算段をするために、安定した年収を証明してもらうことで、安心材料になると考えるわけです。各国のビザの収入要件を見るとおおよそ月収30万円〜50万円くらいで設定されているところが多いです(例えばスペインでは2000ユーロの月収が要件として設定されています)。それこそ日本の平均月収(男性)が37万円という数字があるので、なんとなく、普通に仕事をしてれば申請できそうな金額感だと思います。
しかし、台湾(年収約800万円以上)、韓国(年収約900万円以上)、そして今回の日本(年収約1,000万円以上)と、3カ国それぞれん、なかなか高額な要件です。おそらく取得できる対象のデジタルノマドは限られてくると思われます。(なお、台湾では収入要件がありますがこれは要件の1つでしかなく、必ずしも求められる要件には設定されていません。)
東南アジアの国で、デジタルノマドにとっても世界でトップレベルの人気国・タイがあります。ここでは、LTRビザと言うビザが観光ビザと別に用意されています。これを取得する場合、過去2年間の年収で80,000ドル(約1,100万円)の条件を課しており、日本の設定よりも高い、世界最高基準。これを見ていると、日本だけがぶったまげた要件を付したとは言えないのかもしれません。
しかしタイの場合、このビザを取得できると、最長10年間の滞在が保障されています。ノマドビザというよりは、富裕層向けのビザという目的があり、収入要件のハードルを乗り越えると、10年間、税率も約半分になるというメリットもあるのです。
タイの場合、観光ビザの延長が比較的簡易にできます。年収要件を満たさなくてもには、観光ビザの延長で、十分デジタルノマド生活を長期にわたって可能となる仕組みが成立しているのです。観光ビザはとことんイージーに。富裕層デジタルノマドビザはとことんハードだけど、とってくれたらすんごい待遇用意させてもろてます。そういうタイの現実的な政策がとてもタイっぽくて、わかりやすいです。
ところで、日本人の平均年収は450~600万程度でしょうか。(男性567万円だそうです)これに対して、他国のデジタルノマドには自国の平均の倍以上の年収を求めるところが、僕には少し恥ずかしく見えます。よくメディアなどで「結婚相手の条件に年収1,000万円以上!」と掲げる女性がいるじゃないですか。本当にいるんだか、僕の周りにはそういうあからさまなことを言う知人はいないのですが、その思考と同じ匂いがするように映るんですよね。「いたら嬉しいけど、そんな人、私の前には現れるわけがないわよね」理想と現実のはざまを彷徨う日本人の思考の末路が、ここにあるように見えてきて。なんだか少し虚しさを覚えます。
滞在期間は6ヶ月。更新不可で、次回申請まで6ヶ月以上の空きが必要。
さて、年収1,000万円以上の高所得者向けに、日本が提供する滞在期間は6ヶ月とされています。しかも、更新(延長)不可で、さらに次回の申請まで6ヶ月あける必要があります。つまり年間で6ヶ月の滞在がマックスということになるわけです。
6ヶ月の滞在期間の設定に至った背景について、今枝議員のツイートを引用します。
「6ヶ月未満を希望したデジタルノマドが大半であったというアンケート結果」が何を出典にされているかはわかりませんが(一社)日本デジタルノマド協会の調査によると、6ヶ月未満が大半であることは間違いありませんが、6ヶ月以上と答えた方が23%以上いることも確かです。これはデータの読み方なので、ここで「6ヶ月」について論点にするつもりはなく、6ヶ月なら6ヶ月でも個人的にはいいと思っていて、それよりも問題視したいのが「更新不可」「再申請には6ヶ月おかなければいけない」こっち。
滞在の延長ができず、再申請には半年かかる。なぜ?
ここに議員のツイートがとても引っ掛かります。戻って読み直すと「住民票の作成対象外であることで、在留カードの交付も行いませんが、連絡先等は別途把握するオペレーションを設けて、不法滞在や犯罪のリスクを低減できるようにします」
外国人は「不法滞在や犯罪のリスク」を背負うと思われているのですが、でもね皆さん、思い出してください。このビザを受け取る人「年収1,000万円以上」もらってるんですよ。
何が言いたいかというと、そんじょそこらの無銭乗車迷惑系youtuberとはわけが違うんですよ。金なしヒッピーでも、バックパッカーでもない、日本人の倍以上の年収の人たちなのです。高所得者が犯罪しないとは言いませんが、少なくとも知性をあわせ持ち、世界を旅しているので多様性への理解に富み、平均年齢35歳前後で、少なくともおおよそ成熟した大人なのです。ビザや税制にも当然敏感で、賢いのです。
タイは「年収1100万円あるなら10年いていいよ(その代わりお金使ってね!)」のスタンスだった一方、日本は年収1,000万円の方に対して「悪いことしないように監視もするし、滞在は半年だけで出てってもらいます。もし来たければまた来年申請してください」というスタンスなの、なんか違和感あるんですよね。
なお、ノマドビザが発行されていない現状、90日以上、日本に滞在したい人たちはどうしているかというと、観光ビザ90日が切れると近隣の台湾や韓国に一時渡航して(ビザランと呼ばれています)また戻ってくることで、90日の観光ビザをリセットして戻ってきているのが実情です。あるいはアメリカでは、大使館に申請することで、観光ビザの延長も可能。
そもそも年収1,000万円超のデジタルノマドが、たった半年の滞在のために面倒な申請を踏むイメージが全く湧きません。だったら観光ビザで入って90日で日本満足したあとは、韓国や台湾でビザを取ったら1年以上いれるわけです。90日で日本をある程度満足したあと、年収1,000万円の人が韓国に1年いながら日本はちょくちょく遊びに来ればいいや。そんな感じになったとすれば、彼らのお金は、どこに一番落ちて行くと想像できますか?
申請対象可能となる国は以下の49カ国の壁
日本版デジタルノマドビザは「査証免除対象である国・地域・かつ租税条締約締結国・地域等の国籍等を有している者」に限られている、これも韓国、台湾とは条件が異なっています。
独自に調査してみたところ、租税条約の表記にサイトによって異なるために事実が未確認な点もいくつかあるところなのですが、確認取れているのは48か国となります。世界190カ国の25%のみが対象です。すでにビザ免除国なので、この方々はそもそも、パスポート1つで日本に入って来れて、おおよそ90日は滞在できる状態です。たった3ヶ月を追加滞在するためにわざわざ制限設けられるなら、もう観光ビザで良くない?となることでしょう。
そもそもビザ免除対象国は現在70カ国あるのですが、なぜかここに租税免除締結国の条件も追加されて、ビザを申請できる国がさらに約50カ国まで減って行きます。(ツッコミ入れると長くなるので割愛)
世界を旅しまくっているデジタルノマドに対して「どこで生まれたか」が大いに影響し、そもそも論、どんなに海外で収入を稼ごうが、この「どこで生まれたか」が一番のネックになってくるというわけです。
誰の、何のためのビザか?
このビザ、つまりデジタルノマドビザを作って、本当に、デジタルノマドを呼びたいのか、よくわからないものになっているのでs。むしろ、日本に興味をもつ世界中のデジタルノマドに「制限」を新設したようにさえ映る可能性があります。「日本は、デジタルノマド、呼んでません!」と言うためのビザと思われてもおかしくないものが、今、検討されているデジタルノマドビザの中身なのです。
観光ビザで今まで通り入国すれば、大使館にいくこともなく、ビザ申請免除で90日は入国できて、しかも滞在の延長したい場合は他にも手立てがある状態で、年収の要件も高額で、申請できる国も限定的となる。
これは「誰が申請するんだ?」という素朴な疑問が湧いてきます。政府は、このビザを年間何人に登録する目処を立てて作ったのか。このビザは、まだまだβ版で、今後、徐々に改善されていく、みたいな見立てがあるのか?
少子高齢、人口減少、地方消滅。
あらゆる社会課題を、日本は今後も、日本人の力だけで解決できるのか。
昨年10月、株式会社 遊行は、福岡市において海外デジタルノマドのプロモーション事業を受託し、約1ヶ月の間、24カ国から50人のデジタルノマドを受け入れ、福岡市での滞在を提供させていただきました。
期間中、福岡市のコワーキングスペースを中心としながら、時折市外へ出向き、うきは市の酒蔵を訪ねたり、熊本城の復興をのぞいたり、別府で温泉に入ったり、五島列島でサイクリングをしたりと、九州全土へ足を運ぶきっかけをつくり、お預かりした行政予算の3倍以上の経済効果を生み出しました。
我々の参加者調査によれば、1人の参加者が1ヶ月当たりに消費した平均額は50万円を超えた他、地域の空き家問題に取り組むプロジェクトが生まれたり、参加者同士で新しいビジネスマッチングが生まれて、その方は仕事を理由に台湾に向かいました。シアトルの投資家が参加しており、福岡のスタートアップに目をつけて、投資対象案件として持ち帰ると言っていました。2つのカップルが生まれました。
(福岡でのプログラムの結果は別途報告noteをつくる予定です)
50名のうち24カ国から参加したのは、特に注目いただきたいところです。モロッコ、ハンガリー、ギリシャ、ポーランド、ノルウェー、メキシコ、イスラエル、インドネシア、アルゼンチン、香港…決して、お馴染みの大国とは言えない国々の名前が並びますが、上記の国名のうち大半は、デジタルノマドビザ申請可能な対象国から排除されています。また、記載されている、インドネシアでは観光ビザでさえ、申請に1ヶ月以上かかることもあり、実際に1名、参加予定だったのにビザが間に合わずに参加を見送ることになりました。
モロッコ出身で、ハンガリーのデジタルノマドビザを受け取り、レジデンシーを持って暮らしている超優秀なプログラマーが「りょう、デジタルノマドビザはいつ出るんだい」と執拗に尋ねられています。「日本版デジタルノマドビザが出たら、僕は、第1号になるよ!」。しかし、このビザの対象国に、彼の国名は記載されていません。
国籍を見るのではなく個人を見てあげて
僕は、全世界、全ての人間が「最高にハッピーを感じられる場所」が必ず世界のどこかにあると信じています。多分、デジタルノマドはみんなそう信じていて。ただ、それが、残念ながら、生まれた場所(実家)になかったり、今働いているオフィスがある町じゃなかったりする人も、少なからずいるんです。実家、育ってきた場所、今、働いている場所。そこじゃないところに「最高にハッピーになれる場所」が世界のどこかにあるとして、そこに行ける権利があるとしたら、ぜひ行ってほしいと思っています。
そして、どこで生まれようが、どこで働いていようが、「最高にハッピー感じる場所」として日本を選んでくれる人たちがいるんだったら、それほど日本人として嬉しいし「選んでくれてありがとう」と思うことはないと思ってます。
いろんな現実があるけれど、それでもちょっとでも、日本という国でハッピーになれる人がいるんだとしたら、増えてほしい。そして「日本が大好きだ!」と言ってくれる人を見た地域の人たちが、もしかしたら目の前の課題に押しつぶされそうになっていたとして、何か新しい「光」を観るきっかけになるんだとしたら。
デジタルノマドが新しい「観光」を生み出していくんじゃないかな、と僕は信じているし、そこに国境という、政治都合は本来意味をなさないでいてほしいと願っています。
2月中旬からパブコメが実施予定なのだそうです。
皆さんも、デジタルノマドの受け入れに関する議論にぜひ参加してもらえると嬉しいと思います。
追記【海外の反応まとめ】「デジタルノマド」に6か月間の在留資格:新制度に対して
早速、報道された中で、実際に海外のデジタルノマドたちはどんな感想を持っているのか、まとめておりますので、こちらも併せてご覧ください。