家庭用に多く使われている2つの化合物は、乳児や幼児の「自閉症や多発性硬化症」のリスクを高める危険性(nature neuroscience)
Household Chemicals Linked to Brain Health Risks という論文ニュースから。論文自体は nature neuroscience に掲載さています。
家庭に存在する1,800以上の化合物を調査
研究者らはヒトが暴露する可能性のある化合物を1,800以上調査しました。
実験ではまず、マウスやヒトの多能性幹細胞(mPSCs)から脳神経の特徴に極めて近い、神経3Dオルガノイドという小型組織を作成し、このオルガノイドを用いて毒性の検証をしました。
そして特定された2つの化合物について、マウスにおいても脳にどのような影響を与えるか検証しています。
第四級アンモニウム化合物と有機リン系難燃剤は自閉症や多発性硬化症リスクを高める可能性
その結果、第四級アンモニウム化合物(quaternary ammonium compounds)と有機リン系難燃剤(organophosphate flame retardants)の2つの物質が、脳内のグリア細胞の1つであるオリゴデンドロサイトの発達を阻害することが分かりました。
オリゴデンドロサイトの発達阻害は、自閉症や多発性硬化症のリスクを高める可能性があります。
オリゴデンドロサイトの発達阻害はなぜ問題なのか?
ヒトの脳には約860億個の神経細胞が存在すると言われていますが、グリア細胞はなんとその10倍以上もあります。
神経細胞には軸索と呼ばれる長い突起状の部分があり、これが情報を伝達しています。情報の伝達効率を上げるために、ミエリン(髄鞘)と呼ばれる絶縁体で覆われていますが、このミエリンを形成しているのがグリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイト(Oligodendrocytes)です。
オリゴデンドロサイトの発達が阻害されると、ミエリンの形成に支障をきたしてしまい、神経細胞で構成された情報伝達ネットワークも機能不全に陥ります。
このようなミエリンの異常は多発性硬化症や自閉症において観察されているため、オリゴデンドロサイトの発達の阻害はこれらの疾患のリスクを高める可能性があるということになります。
第四級アンモニウム化合物と有機リン系難燃剤が含まれている家庭にある製品とは?
第四級アンモニウム化合物
第四級アンモニウム化合物には「アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩」などがあります(他にもあります)。
以下、私がざっと調べた限りですが、第四級アンモニウム化合物が物質が含まれている商品の例です。
トイレマジックリン消臭・洗浄スプレー(アルキルトリメチルアンモニウム塩)
トイレ用洗剤 サンポール(アルキルトリメチルアンモニウム塩)
柔軟剤 ソフラン エアリス(アルキルトリメチルアンモニウム塩)
洗濯洗剤 ドライアップ(ジアルキルジメチルアンモニウム塩)
セフターENERGY抗菌防臭(ジアルキルジメチルアンモニウム塩)
キエール コケ・カビ(アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩)
有機リン系難燃剤
有機リン系難燃剤はプラスチックが燃えづらくするための難燃剤の一種です。有機リン系難燃剤には、TCEP、TDCPP、TCPP、TPHP、TCPなどがあります。
例えば、ベビーカー、チャイルドシート、マットレス、子供用お昼寝マット、ハイチェア、ベビーサークルのサイドパッド、一般家具、自転車、自動車など様々なモノに含まれています。
有機リン系難燃剤については明記されてないことが多く、第四級アンモニウム化合物のように成分表記から簡単に調べることはできませんでした。
アメリカでの難燃剤に対する規制
アメリカのメリーランド州の場合は、重量の0.1%を超えるTCEPやTDCPPを含む育児製品について、輸入や販売が禁止されています。
ただし、最近の改正案によって、対象となるベビー関連用品から「授乳用枕、ベビーベッド用マットレス、ベビーカー」が規制対象から削除されています。
カリフォルニア州も難燃剤に対する厳しい規制がありますが、2027年からガラス繊維織物を「児童製品、マットレス、張りぐるみ家具」に使えなくなる点が、メリーランド州とは異なります。
ちなみに製造における難燃剤の使用義務に関しては、「授乳用枕、ベビーベッド用マットレス、ベビーカー」が除外されています。
【龍成メモ】
今回の実験は人間自体で検証したわけではありませんが、ヒトオルガノイドを用いている点や、オリゴデンドロサイトへの毒性というマウスという異なる種でも検証可能な根源的なメカニズムについての研究なので、信頼性が高いと思います。
もちろんこれらの物質が家庭内にあるからと言って、100%の確率で子供の自閉症リスクや多発性硬化症のリスクが高まるとは言えません。
しかし、第四級アンモニウム化合物を含む製品を子供に触れさせないのはもちろんのこと、薬剤を使用したお掃除の時は換気をしっかり行うことも大事だと思います。
万能な化学物質が存在する確率の方が低いので、(今回紹介していない)未解明の物質についても、なんらかの生体毒性があると思って接した方が賢明だと思います。