科学は貧しい子供たちの収入を増やすことができるのか? | The Economist
Can science help poor kids earn more? | The Economist
Neuroscienceとテクノロジーを駆使して、貧しい子供と豊かな子供の学習格差を埋めようとする競争が始まっています。
最近の研究では、子どもたちの人生は、知識や言葉を浴びせかけられることよりも、大人と交流する機会によって左右されるかもしれない、ということが分かってきています。
ある特定の種類のコミュニケーションこそが、子どもの長期的な利益につながるのです。
しかし、それだけ十分なのか?格差の壁をぶち破るためには、賛否両論ある遺伝学に注目する必要があるのかもしれません。
シャダーラと息子のケヴィンは遊び場に行く準備をしているように見えるかもしれませんが、これは日常的な光景ではありません。
二人の会話はすべて「おしゃべり万歩計」と呼ばれる小さな装置に記録されています。歩数を記録する代わりに、言葉はカウントします。息子がどのくらい(=何語)大人が話す言葉を聞いてるか、何回親に話しかけているか…どのくらい電子的なノイズがあるか…など。
このデータ収集は、子どもたちの言語学習方法を変革する計画の一部を担っています。
3,000万語のギャップ。ある影響力のある研究によると、3歳が終わるまでに裕福な家庭の子どもは、貧しい家庭の子どもよりも3,000万語多く言葉を耳にします。
この言葉のギャップがその後数年に渡り子どもたちを苦しめることになります。
シャダーラは毎週、デバイスを装着している間、息子にどれだけ話しかけたか、その内訳を報告してもらっています。
この地区では何人かの教師にこのプログラムを利用してもらいましたが、1回目や2回目の報告書を受け取った後に話を聞くと、ほとんどの教師が「この報告書が示すよりもずっと多く子供と話をしているつもりだった」という感想を述べています。
ある研究では、このテクノロジーとデータ分析の活用により、子どもが1時間あたりに聞く言葉の数が32%増加したことがわかりました。
でも、子どもたちが耳にする言葉の数を増やすだけではありません。
この計画の主催者は、いわゆる会話の切り返しの回数にも着目しています。
『私たちが最も奨励し、成長を促そうとしているのは、大人と子どもの往復の会話です。このような特定のタイプのコミュニケーションは、子どもの長期的な利益につながることを示す研究がたくさんあります。』
脳科学的にも、会話の切り返しの効果は証明されています。
貧しい環境で育つことのデメリットを回避することができるようです。
社会経済的地位の低さ、その他の不利な状況や逆境は、脳の発達に影響を与えます。
しかし、子どもたちが多くの会話を交わすようになると、子供達の背景がもたらす脳の発達の違いは問題にならなくなるようです。
しかし、神経科学や新しい技術から得られたこれらの洞察にもかかわらず、貧富の差は何十年も変わっていない。
10歳になるまでに、小学校4年生になると、低所得層の生徒の読解力は、富裕層の生徒より約28ポイントも低くなるのです。
そして、この格差は過去20年間変わっていないのです。
キャサリン・ペイジ・ハーデン教授(K. Paige Harden)は、心理学者であり遺伝学者であり、新しいアプローチが必要だと主張しています。
彼女は、子どもの遺伝子を理解することが鍵になると考えています。遺伝子の観点から見ると、特定の遺伝子変異を受け継いだ人は、大学を卒業する確率が高いことがわかります。
ハーデン教授は、学校で「うまくやっていける可能性が極めて低い子供」を特定するために遺伝学を利用することができると主張している。
彼女は、遺伝を考慮しない既存の介入策を改善することができると言っています。
しかし、遺伝子情報を社会政策の形成に利用するという考えは、強い拒否反応を引き起こします。
20世紀には、遺伝的形質が人種的優越性の概念を促進するために使われ、時には不穏なプロパガンダを行ったという非常に暗い、不快な過去があるからです。
『遺伝情報が社会的階層を当たり前のもの(=遺伝レベルで存在するので)とするために利用されるのではないかという懸念は、実際に存在します。
同時に、性的指向や体重との関連、例えば遺伝子型が体重を維持することの難しさにどのように影響するかなど、(様々な点において)生物学的な考え方を受け入れる傾向が強まっています。
このような傾向は、学業成績や教育達成度に関連することに関しても続いて欲しいと思っています。』
遺伝子情報をこのように利用するのはまだ先のことで、提唱者は安全かつ倫理的な方法で実現できることを示す必要があります。
そして、既存の不平等を拡大するのではなく、社会的流動性を向上させるということを。
『親も子供達もDNA革命が今まさに到来していることを実感していて、それが自分たちにどのように影響するかを知りたがっています。
私自身は、この領域が科学的に興味深く、生産的な研究分野になることを期待しています。』
【龍成の感想】
Social Economic Statusの違い(=社会的格差)によって、子供が聞く単語の数が違うという話は、脳神経科学の世界、特に聴覚に関わる脳神経科学の世界ではとても有名な話です。
さすがに3,000万語は過大では?と後に疑問を持った研究者が再度調査を行いましたがそれでも400万語のギャップがあるという結果になり、やはり聴覚においても格差の問題が存在するようです。
遺伝子が個性や人の能力に与える影響については、デイヴィッド・J・リンデンが新著 あなたがあなたであることの科学 の中で丁寧に論じているので、興味のある人は読んでみるといいかもしれません。
今回登場するK. Paige Hardenという研究者は知らなかったので、何か論文を読んでみようと思います。