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101回目のゾンビパニック!

 激しく鳴り響いた音とともに目覚めると、死んだ女が俺の部屋で呻き声をあげていた。
 ……あぁやっぱり今回も駄目だったか。机の上に置いてあったスマホを手に取ろうとすると、女が飛び掛かってきた。噛みつかれる前に、制圧する。何度も繰り返しているので、慣れたものだ。
 女の身動きが取れないようにして、俺は電話を掛ける。
「教授、やっぱり無理でした」
『次の手を考えんといけんな。……考えがまとまらん』
 何かを飲む音が聞こえる。どうせウィスキーだろう。このアル中が。怒鳴りたい気持ちを抑える。たとえどれだけ人間的に欠陥があろうと、彼以上に信頼の置ける人間は、この世界にはいないのだから。
 電話を切る。
 いつも通り、玄関のドアは壊されている。朝帰り中だった彼女がマンションの部屋の前で感染し、真っ先に俺のところに来たのも、いつもと何も変わらない。ドアの失われた玄関の向こうから聞こえてくる、地獄絵図を想像させるような姿の見えない叫びにも慣れてしまった。
 改めて女を見る。かつて恋人で、彼女は俺の部屋で同棲していた。
 彼女が恋人だったのは、遠い昔になってしまった昨日のことだ。今となっては知り合い、という感覚さえもない。
 組み伏せた彼女を開放し、距離を取りつつ、台所に向かう。包丁を手に取り、俺は彼女の脳天に思いっきり包丁を突き刺す。躊躇はない。そんなものがあったのは三回目までだ。倒れる姿も見ずに、その場から逃げ出す。マンション中もパニックだ。何も知らない彼らは新鮮にパニックを起こしている。時折、その姿が羨ましく感じる時がある。襲ってくる死体たちを避けながら、俺は駐車場にある自分の車に乗り込む。アクセルを思いっ切り踏み込む。
 目指すは、教授の家。俺の知る限り、現時点でこの状況をしっかり把握できているのは、俺と教授だけだ。
 俺と教授はこのパニックのはじまりの一日を、100回繰り返している。
 今回が、101回目だ。

【続く】