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君と会うまでの○時間

2019/01/19 2時00分

「ほんと突然(陣痛が)整い始めた」
嫁のラインが突如引き締まる。
これは前駆陣痛ではないらしい。
本を読むのをやめて身支度をする。

2時10分

準備完了。車で佐渡汽船の近くの滞在場所へ。
(嫁実家が佐渡なのでフェリーしか移動手段がない。)
焦るな。小雪がちらつく。焦るな。

2:18

赤信号。サカナクションが聴こえる。

2時31分

空を飛ぶ車が欲しくて。はよ作れよ偉い人。

3時01分
ファミマでコーヒーを買う。
船での酔を回避するために(つまり船で爆睡するために)今は寝ない。
深夜のコンビニ店員さんは目が死んでることが多いのだけれど、笑顔が素敵だったからいつもより2割増し大きな声で「ありがとうございまーす」という。会計後に。

3時22分

嫁さんからの連絡がなくなる。
病院へ移ってるのかな。
やっぱり離れていると不安で仕方がない。そばにいたいと思う。

3時56分

ラジオから不妊についての話が流れてくる。こんな時だから聞き入ってしまった。

4時13分

フェリーの出港時間が遠い。大丈夫か嫁&嫁姉(ダブル陣痛なう)

5時59分

銭湯を経て船の中。嫁が痛がっとる。
食堂がやっていないので売店でCUPNOODLE。
久しぶりの醤油味。

家族でラーメンを食べに行きたい。
家の近くのラーメン屋に。

9時22分

病院につく。急ぐ。
ナースステーションの情報が錯綜。
嫁に電話して場所が陣痛室だとわかる。
つく。
嫁の不安げな表情を見る。
なでる。

9時33分

なでる。
「…んぎゃ、ああああああ!」との声が。
隣の分娩室で嫁姉無事出産。
義兄笑顔。めでたい。
さっきまで「怖い」と言っていた嫁も少し笑顔。
しかし油断がならない。
嫁が陣痛室に入ってまだ7時間。
第一子は30時間超かかったからだ。
と、暗くなる嫁の腹を内側からける不届き者が。
はよでてこい。はよおいで。
なでる。

9時51分

もうすぐお兄ちゃんになる第一子さんはお気楽野郎。
嫁、なんとか早く済まそうと立ってスクワットや左右ステップを始める。

9時53分

「はやくーでてこいや。」こぼす嫁。
左右ステップをつづける。
「おれも一緒に揺れるわ!」
左右ステップを肩を組んでする夫婦。
「…うんちょっと…じゃまかな。」こぼす嫁。
夫婦微笑。旦那役立たず。

が、だからここそばにいるくらいはしたほうがいいのだろうか。そんなふうにも思う。酸素みたいな存在でありたい。

10時18分

夫ボケる。空気をなごませたい。
ボケまくる。笑わせたい。
ボケまくり、ハッとする。
「…うざい?」と夫。
3秒おいて。
「大丈夫だよ。」と妻一言。
もう一言。
「大丈夫だよ、聞いてないだけ〜。」
夫、黙る。

10時30分

妻「いいなー早く私もうみたーい(泣)」
夫「早く人間になりたーいみたいに言われても」
妻「うみたーい」
夫「早く人間を出したーい」
妻「だしたーい」

10時33分

今妻の陣痛間隔は6分。この時間が縮まらないことに経産婦だからこその焦りが生まれている。そんな焦りは生まなくていいから、できるだけ早く君がうまれてほしい。そんなふうに思う。

経験してるからこその焦りというのは、切ない。

10時36分

腰を押す用のテニスボール。
痛みがなければうまれないけれど、けれど痛みを緩和したい。見ている側も焦る。当人はもっと焦っている。

落ち着こう。

10時44分

妻「天使が見える…。」
バカには見えない天使ですね。僕には見えません。
隣りにいても見えんとは。
如何ともし難い性差を感じて、それがちょっとずつ敬意にかわってゆくときかもしれない。

10時51分

妻が診察室へ。静かな陣痛室に太った男が一人、ぽつんと座っている。客観的に見ると不思議な光景。自然と頭の中で祈り始めている。どうか早くすめ。どうか何事もなくすめ。
何事かあったら、無事に済ます。断じて済ます。

祈る 祈る

11時02分

「カルピスがいい」と妻。
売店へゆく私。特に期待もせずに。
というか土曜日やってんのかな。

とか思ってたけど、なめてた。

病院ってここまで気を遣うのか。
普通のコンビニの三分の二くらいのスペースの売店だけど、種類がすごい。確かに老若男女で様々な事情を抱えた人たちがいる場所だものね。

なんか頭が下がる。来たときナースステーションの連絡行き違いでちょっとイラッとしてごめんなさい。売店の方も医師の方も看護師さんも、おつかれさまです。マジすみません。

11時28分
なでる。なでられる。なでる。息子は何をしてるだろうかと話す。アンパンマンブロックをバラまいて楽しんでいるだろう、という結論に。気楽な奴め。ふふふ、貴様もあと少しで兄者だぞ…。

11時52分

飯を食う。その間も陣痛が来る。まだ縮まらない。
だんだん弱気になってきた。特に妻が。焦りもあるのだろう。

そんな彼女を元気づける飯。
前回は陣痛室に自分が駆けつけたときもうほとんど食欲がなかったから、それがある文少し安心する。

しかし、つらそうなのは変わらない。

祈る 祈る

12時47分

間隔は縮まらず。しかし陣痛持続時間は長い。きつそうだ。腰がいたいので浜辺で寝転ぶおねーさんのようなポーズで我慢する妻。寄りかかるクッションでもあれば…。と思うが、そんなクッション当然ないので靴を脱いでワタシがベッドの上へいき体を前かがみで丸めていなり寿司型の人クッションに。

楽になるのかならないのからわからない。だからやる。やる。

祈る

13時10分

「家族四人での初旅行はどこに行こうか?」という他愛もない会話で笑顔が少し見える。かま、その顔が段々と青ざめていっている気がする。

内診のため、夫は一時退室。少しでも進んでいてくれ。どうかどうか。

13時28分
「本とか読んでてもいいからね。」と妻が一言。
こういう時にしびれる個性を感じる。もちろんなでながら感じる。

ちょっとキスをする。

この人にはかなわないし、僕はそういう人にはなれん。
そういう意味で、僕にはこの人が必要なのだと思う。
平時も常にそう思ってますが、この場面で上記のようなことを言われたら参ります。降参です。

(勝つ気もないし、勝つってなんだ、って感じだけどネ!)

14時01分

旦那が自宅を出て12時間。陣痛自体も12時間。今回も長期戦なのか。

「3人目いつうむ?(笑)」などという余裕の冗談をとばしあうような余力も底をつきたか。いやっていうかホント今の世の中でね、3人目うんで育ててる人はすごいよ。周りも。1人でも十分すごい。

でも。
でも。


だからこそ「家族も子ども持たずにただ生きるのもすごい」という価値観を強固にしなければならない。

↑こんな感じのことを千葉雅也さんという哲学者の方が少し前にツイートしてたのですが、今こそ噛み締めなければならない。唐突だけど。

自分がよくもわるくも偏った価値観に没入しているとき、どっかで対極を眺めていたいのです。そっと頭の中だけでいいから、「で、ない人もいる」とつぶやいて一回相対化したい。

その後、また自分が向き合ってるものに集中したいかな。そんなふうに思います。

はい。反対側も眺めたので、黙って妻をなでます。

14時18分

今の陣痛間隔は6分。

妻「ご、ゴールはなんぷんですか?」

看護師「1分ですネ!」

妻&夫「おぉ…おお…。」

何かをおられた夫婦の音がする。

14時30分

いたい

いたい

いたい

交わす言葉の中で「痛い」の比率が高まる。

決して自分にその痛みはわからないので、せめてそれをあなたへの敬意に変換して持って帰りたい。

14時34分

【急募】「陣痛3時間くらい待った薬」

16時39分

少し眠ってしまった。
その間に陣痛間隔が8分に遠ざかった。

「経産婦なのに…」と妻がつぶやく。

陣痛室をいったん出なければならないかもしれないらしい。慌てて用意をして荷物を持ち部屋を出たり入ったり出たり入ったり。

その間少しばかり気になることもあったけれど、そんなことを気にしてる場合じゃなく。

よろけて歩く妻のそばにいる。

16時49分

状況が変わらない。
怖いくらいに。

16時57分

半日前に出産を終えた嫁姉が来て嫁と話しております。偶然だけど、こういうのは心強い。

17時43分

「早くうみたいから」と、ヘロヘロな心身を引きずりながら廊下のウォーキングを始める妻。

母強し。

18時05分

ウォーキングで間隔が4分弱に縮まる。
「歩いただけでけっこうかわるものだね」と、ほっと一安心して夕飯を食べに戻ると看護師さんがやって来る。

「食事のところあれだけど、診察しよう」だそうな。
夫、再び一時退出。

18時35分

妻、ウエハースを食べて厳し目の表情。
夫、妻の夕飯の食べ残しをたいらげる。

「頑張れば今日中」だそうだ。

18時44分
(陣痛直後の会話)

夫「オレに似てアゴが出るかな?!」
妻「うぅーん」
夫「妻似で頬骨印象的かな?!」
妻「んー」
夫「どんなふうになるかな?!」
妻「んー髪型ァ大事だね。」
夫「?!」

(陣痛が進んでいるからこその会話だと思います。)

19時08分

間隔より陣痛が長くなってきた?

ここからさきどうなるか分からんので、これにて一旦終了です。

無事にこい!はよこい!

無事でなくてもなんだろうと僕らは君を大切にするがな!

はよこいやーーーー!!!!

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りょーさけ
酒と2人のこども達に関心があります。酒文化に貢献するため、もしくはよりよい子育てのために使わせて頂きます。