夢見たものは そこにあるものは
こんな日だからこそ、話したいことがあります。
こんな日、とはどんな日か。それは自分が発起人になった日本酒のイベントを明日に控えた日です。新潟のお酒を盛り上げたいと思ってやることにしました。こんな日だから言っておきます。
わたしは新潟の酒が好きではなかったのです。そんなイベントの言い出しっぺになっておきながら、新潟の酒業界に勤めておきながらなんだという声もあるでしょう。本当にそのとおりです。はじめから純粋に好きだったひとがそういうことをすべきだろうという意見は確実にある。
しかし、これは使い古された表現かもしれませんが、回り道をしたひとにしかわからないことというのもまた、確実にあるように思うのです。その回り道の話にすこしだけお付き合いください。今日はダラダラ書きません。2000文字で終わります。(長くねえか)
これまた「どういうこと?」と思われるかもしれませんが、わたしが日本酒にはまったのは新潟の朝日酒造が醸す「久保田 萬寿」という銘柄のお酒を飲んだからです。なんで新潟ではまったのに好きではないの?って感じです。
久保田で酒にはまり、わたしは近所のスーパーの日本酒コーナーに足繁く通うようになりました。その次に地酒やさん。そして日本酒居酒屋、日本酒バー。最後には酒関係の職にも就きました。しかも故郷の新潟で。
日々日本酒の情報を得て、飲み、はたらきました。そんな生活の中でじわりと湧いてきたのは次のような漠然とした雑感です。
「もしかして、新潟の酒って世間から置いていかれてるのでは…?」
SNSや雑誌、いい飲み屋の中のキラキラとした世界になかなか登場しない新潟の酒。
職にして様々な酒に触れるうちにどこか洗練されなくてインパクトがないと感じるようになる新潟の酒。
自分の中で日々新潟の酒の印象は悪くなっていきました。もしかしたら原初の体験が久保田で、それをとんでもなく美味しいと思ったからこそそうなってしまったのかもしれません。
その時の自分は感銘を受けていたけれど、もしかしたら「遅れていた」?
あの酒を好きになりこの道にたつ自分は「センスがない」?
おそらくそういう風に思っていました。
しかし、じわりと湧いたその雑感は更に日本酒について知り、体験するうちにだんだんと姿を変えていきました。それこそ酒が長い時をかけて無色に近い色から深く輝く熟成酒に変わるように。(とか言ったら格好つけ過ぎですよね、すみません。まだわたしなんて無色ですよほんとに。)
わたしは自分を平凡などこにでもいる酒飲みだと思っているのですが、ある時自分が普段やっている飲み方が多くのひとからすると「おいしくない」感じの飲み方であることを知ったのです。
何でこんな当然のことに気が付かなかったのだろう、と今になって思うのですが、好みというのは人によってまったく違うものです。「どういう意味で違うのかが説明困難なほどに違うもの」です。
地域によっても違う。ある場所で、ある人と、ある飲み方をしなければ良さがわからないものがある。旨さは相対的かつ個人的―そして重要ですが非常に刹那的―なのです。極論ですが、生きているうちのほんの数秒しか感じられない旨さがある。もしかしたらそんな刹那がたまたま持続しているだけなのかもしれない。
…。
わたしが感動したあの酒は、まずくもなければイケてなくもない。わたしがただひとりそれを味わって旨ければ旨いのです。美味かったなら、美味かったのです。
そう思うと、他のひとの嗜好にも自然と敬意が湧いてきました。
この新潟という土地で酒を愛するひと(たち)にしかわからないものがある。みな喜びと敬意を持ってそれに接している。高い酒でも安い酒でも関係ない。オーセンティックなバーで深夜にウィスキーを飲む紳士も、みりんの横にある料理酒をかっくらうおかあちゃんも静かにその喜びを抱きしめて生きている。
(のかもしれない!)
なにかにはまって視野狭窄になったときほどこの「かもしれない」は見えにくくなります。誰かをバカにしたくなります。「あんなものを飲むなんて!」
…わたしの場合はそれが自分だったのですね。あんなに美味しかった酒を自分(と自分が得た小手先の知識及び何となく感じる周りの雰囲気)で否定していたのです。
久保田の萬寿は本当に美味しかった。
だからこそ仙台の生協のスーパーに通った。錦本店に通った。酒のかわしまに通った。カネタケ青木酒店、チャリだと遠い。定禅寺通の日本酒バー旅籠に、何度救われたか。あれがあったから酒を知るために汗を流したんじゃねえか。
そうなのです。ここには何一つ恥ずべきことなどない。
楽しかった。夢中でした。
好きなもんを好きなように、飲め!!!!!!!!!!!!
わかんねえもんは笑って「わかんねえ!」って言え!!!!!!!
流されて、ひねくれんな!!!!!!!!
今回イベントをやるにあたって、生涯で一番集中して新潟のお酒を飲みました。おいしいものもありました、自分にはまだわからない酒もありました。それはいつかの楽しみにそっととっておけばいいのです。その酒が好きなひとはいます。その酒をつくってるひとたちもいます。その方々と接した時に何か見えなかったものが見えるかもしれない。そう思って笑っていればいいのです。
そんな風に、思いました。これはたぶん大切な気づきなのだろうな。
さあ、準備はいいですか?
おそらく史上初のオンライン日本酒一揆は目の前に迫っています。
思う存分この土地を味わってやろうじゃないか。
本当にたくさんの新潟酒愛好家はいる。それにも気がつけた。
こんな感じで回りに回って気がつくこともあるのです。
わたしは新潟の酒が好きです。
あなたはどうですか?
明日明後日は一緒に飲んでみませんか?
オンラインで、「#にいがた酒一揆」で。
お待ちしております。
乾杯。
酒と2人のこども達に関心があります。酒文化に貢献するため、もしくはよりよい子育てのために使わせて頂きます。