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雨水の頃

春の第二節『雨水』は、2月19日頃(2025年は2月18日)からの15日間。
その文字が表す通り、空から降る雪が雨に、地上の氷が融けて水に変わる頃合いです。

ひなまつりの茶碗蒸し

雨水の期間が終わる少し前にやってくるのが、桃の節句・ひなまつり(3月3日)。
言わずと知れた、女の子の成長を願う伝統行事で、この日のお料理に好んで使われる食材が『蛤(はまぐり)』です。
シンプルなすまし汁などに仕立ててもおいしい蛤ですが、今回はちょっとひと手間かけて、見た目もかわいらしい茶碗蒸しに。
春先でまだ寒い日が続く時期——— 体と心を芯からあたためてくれる献立で、ひなまつりの食卓を楽しんでみましょう🎎

茶碗蒸しのレシピ

蛤からしみ出たおいしい出汁を卵液に混ぜることで、やさしい味わいに仕上げます。
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材料 2個分

卵液【A】……卵1個・和だしと貝汁を合わせて180ml・塩小さじ1/4・薄口しょう油小さじ1/4・みりん小さじ1/4強
蛤2個
酒大さじ2
菜の花1本
あん【B】……和だし汁50ml・砂糖小さじ1/4・酒小さじ1/2・みりん小さじ1/2・薄口しょう油小さじ1/2・片栗粉小さじ1/2(同量の水で溶く)
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作り方
1.蛤をフライパンに入れ酒を振って蓋をして蒸す。殻が空いたら取り出して煮汁と取り分ける。蛤は殻から外す。
2.菜の花は塩茹でして2cm幅に切る。
3.ボウルに【A】を入れてよく溶く。
4.器に3の汁を8分目まで注ぐ。蒸し器に入れて弱火で11分蒸す。蛤と菜の花を乗せてさらに1分蒸す。
5.小鍋に【B】を沸かし水溶き片栗粉を入れてとろみを出して、茶碗蒸しにかける。

蛤と日本人

蛤は、淡水が海に注ぎ込む浅瀬に住む二枚貝。
旬はおおむね早春から初夏までで、ぷりっとした身の弾力と濃い滋味が特徴です。
対になった殻同士でないとぴったり嚙み合わないことから、『夫婦円満』や『夫婦和合』の象徴とされ、ひなまつりの日に女の子の良縁を願って食される習慣ができました。
さらに、殻の方は平安貴族の雅な遊び『貝合わせ』の材料として、また白い碁石の材料としても使われます。
浅瀬で比較的簡単に獲れる蛤は、身も殻も含めて、日本人にとって古くから身近な存在だったと言えるでしょう。

藍には朱を

今回は、器をそのまま蒸して調理に使うため、高温高湿にも耐えうる磁器の小鉢を使用。
こちらの器のように、呉須絵具(ごすえのぐ)を使った青い絵付けの磁器のことを、中国では『青花(せいか)』、日本では『染付(そめつけ)』と呼びます。
青花は16世紀末に大陸から九州に伝わり、17世紀前半には佐賀県有田町などで本格的な生産がスタート。その後、染付と名を変えて日本国内に広がり、400年経った今も愛され続けています。
そういった歴史を持つクラシックなたたずまいの小鉢には、同じように古色を纏う漆塗の椿皿をあわせて。
藍と朱のコンビネーションが醸し出す盤石のフォーマル感は、お節句の食卓にそこはかとない華やぎを演出してくれることでしょう。

犬筥のこと

京都ではひなまつりのとき、お人形とともに『犬筥(いぬばこ)』という蓋物を飾る習慣があったと言います。
犬筥とはその名の通り、雌雄のイヌを象った張り子の箱で、中には化粧道具やお守りを入れておいたのだとか。
多産であるイヌは安産の象徴で、古くから子どもの守り神とされ、江戸時代になるとそれが転じて、女の子の健やかな成長を願ってひな壇に並べるようになったようです。
私たちの目と心をなごませてくれるユニークな造形には、ついつい頬が緩んでしまいますね。
今はさまざまなジャンルの作り手が犬筥を復刻させているので、この時期ならではの縁起物として楽しんでみては?


text & photo はるやまひろたか
food coordinate タカハシユキ


染付しのぎ小鉢 工房禅 横田翔太郎
犬筥張り子 前田ビバリー



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