10月22日(日)『第5回単独ライブJAM・上』
〜オーディション編〜
10月20日(金)に第5回単独ライブが開催されることになった。
発表されたのはいつだったろうか。おそらく7月中旬のM-1対策ライブのエンディングだった気がする。
ぼくはその発表に静かに心躍っていた。
第1回、第2回、第3回とやってきて、教育実習のために欠席した第4回単独ライブ。
それから5か月の月日が経ち、やってきた第5回。
甲子園みたいにいうと約9か月ぶり4回目。
やはり単独ライブとなると眼の色が変わる。
その間の寄席、新歓ライブ、M-1対策ライブ、地下ライブといろいろなライブで手を抜いているわけではない。全部本気で取りかかった。
ただ単独ライブというのはサークル全体最大規模でやるものでありそれに伴い気合いやる気が限界を突破する。それが単独ライブ。
第4回単独を欠席してからその後のM-1対策ライブもM-1グランプリ1回戦も結果が振るわずとても悔しい思いをした。
だからこそこの単独でやってやらなければならなかった。ここで結果を残して自分を肯定させてあげたかった。
そんな確固たる心意気で準備を始めた。
そして今回からコントをメインでやっていくことに。
まつうら寄席でやったコントが評判が良かったのと、M-1対策ライブとその本番で一旦区切りをつけようかなと思った。将来漫才もコントも二刀流でやっていきたく、昨年から漫才ばかりやってきたからコントもやっておかないといけない。
そのため「すぱろう」「あらい」「七対子」「なべぶた」「ちわたみ」と計5コンビのコントを作った。
この単独も開催が決まってからそれに向けてネタを作って合わせていくのだが、9月は上旬にM-1、中旬に合宿があり、下旬から始めるという、とりかかりが遅くなってしまった。
すぐできるものもあれば、ネタの締め切りまで1週間切ったくらいでできたネタもあり、ネタ合わせもタイミングが合わなかったりと、全てがギリギリで焦る毎日。
今までこの短期間で5本もネタを作ることなんてやったことなかったし、もともと1コンビは相方が漫才を作ってくれるということだったが、急にコントをやりたいを言われコントを作ることになるなど頭が終わってしまうんじゃないかという日々。
もちろん研究室はちょこちょこサボり、全てのエネルギーをお笑いにあて、必要以上のストレスがかからないように努めた。
そのためなんとか間に合わせることができた。自分でもよくやったと思う。
ただ今回の単独はいつもと大きく異なる点があった。
今までは演者の数が少なかったためどのライブにも必ず出ることができた。なんなら1人につき3ステージくらいが当たり前。ネタさえあれば出れるような状態。
しかし2年目を迎えて演者の数も増加するに比例してコンビ数も爆増。ぼく自身も1コンビ増。
ライブはだいたい1時間〜1時間半を予定しているため全コンビが出れる訳なく、おおよそ8コンビに絞らないといけない。
そしてオーディションが行われた。
こういうバトルライブは以前のトラウマもありとても怖かった。可能なら戦わずしていい方法があってほしかった。
オーディションに勝てるように頑張ってネタを作りネタ合わせをやってきたが、それでもやっぱり恐怖心は拭えない。
みんながネタ合わせしているのを見たりしても、やっぱり面白いネタばかり。そりゃみんなも勝つためにネタを作ってるわけで、新入部員も面白いし、一期もしっかりパワーアップしている。
自分なりに上がりそうな8組を想定しても、気がつくと自分の枠があっても一つ。
頭を抱えどうやってその枠に入り込むか、それを考えるばかり。自分がみんなと充分に戦えると納得できるまで修正を続けた。
自信がないわけではない。
ただオーディションが近づくに連れて積み重なった怖さや不安は一切消えることなく当日を迎えた。
ネタ順は2番手だった。
そしてそのネタは1番不安があるネタ。
1番手のコンビが1番手とは思えないくらいウケけてさらに不安が募る。それでも自分のやってきたことと相方を信じてやるしかなかった。
出囃子が終わり、明転して、ぼくのセリフからネタが始まる。
1番最初のここで反応があってほしい箇所に差しかかる。
頼む頼む。まじできてくれ。ここでこないとこのネタ怪しくなる。頼む頼む。
ウケた。
ちゃんとウケた。
そういうネタなのねという気付かせるネタをやったため、気付かれないと見てる人を置いてけぼりにしてしまう。
しかし、その不安が消し飛ぶくらい良い受け方をした。
後半の1番強いところも想像以上にハネた。
おそらく松浦史上トップを争うくらいの反応だったと思う。
その後の3ネタもちゃんとウケて、徐々に安堵していく。
最後のネタは、個人的に好きなネタで強いネタだったが、オーディションの終盤ということもあってか、想定よりも下回る結果となってしまった。
ネタ合わせの時にはすごいウケていたのに、その落差でネタの最中も調子が狂ってしまうという最悪の展開。
それでもウケはしてやり切ることはできたが、情けないことにネタを信じていたぶん出順を恨んでしまっていた。
約3時間にも及ぶオーディションも終わり、次は集計が始まる。
オーディションが終わって解散となっていたが、集計結果が気になりすぎて発表の時まで部室に残っていた。
発表の時。
3つのブロックにわけてオーディションをしていたため、ブロックごとの結果とトータルでの結果を聞くことに。
ぼくはもう祈るしかできなかった。
ネタには自信があったし、それ相応にウケていた。
2本、いや1本でもいいから単独ライブでネタをやりたい。中部講堂に立ちたい。
手を組み願い祈る。
結果、3ネタが上位8位にランクインした。
そのうち1ネタはオーディションで1位だった。
あの2番手でやったネタだ。
結果発表の時に、1番最初に自分のコンビ名が呼ばれて叫んでいた。喜びを抑えることができなかった。剣道で学んだ相手のことを思いやる精神も揺らいでしまうくらいその感情が爆発してしまった。
やった。やっとだ。嬉しすぎる。こんなに嬉しいものなのか。頑張ってよかった。やったやった。嬉しい。
初めて感じる高揚感と嬉しさに涙が溢れそうになってしまっていた。
やっと自分に価値を見出すことができたし、肯定させてあげられた。ぼくは無力ではなかった。
漫才では掴めなかったものをコントでは掴むことができ、こっちが自分の主戦場なんだと改めて理解した。漫才と距離をおいてしまうのは悲しかったけど捨てるわけじゃない。あとから必ず迎えに行く。
この喜びを誰かと共有したい。でも自慢に聞こえて敵わない。味わったことのないこの感情を自分の中だけで終わらせてしまうのは少し寂しかった。
行き場のないその喜びを噛み締めながら帰路についた。
「第5回単独ライブJAM・上」完。
「第5回単独ライブJAM・中」へ続く。