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神サマの憂鬱
お神酒が掲げられた。御簾のむこうでなにやら唸っている白装束がわずらわしい。いつも乍ら滑稽な情景だ。
さてこれをのまなきゃならん。つーんと米酢のような独特の刺激臭が遠い昔に黄泉の国へ入ったことを思い出させる。あのときの匂いはまだ堪えられたが、このアルコールだけは何千年たっても駄目なものは駄目なんだ。
すする真似をする。だって回りには白髭の神神が・・・客どもには見えないけれども・・・屹立して睨んでいるんだから。
げえっ
私の吐き気が巫女に渡り、激しく鳴咽を繰り返す。巫女は共鳴しているだけでこっちもおんなじ苦しみを味わっている、ああ、臭い!
げろげろげろげろ
大皿に巫女の下物が滴り落ちるとこちらも何とか持ち直す。そこだけはシンクロしているというわけだ。
「ぶつぶつぶつぶつ・・・」
マツリが終わって一段落。境内は砂利を掃く音をのこし静まり返った。足元に戯れる子鬼に、あの「吐いたもん」は何に使われるのか、見て来るように命じて遣る。何百年も繰り返されてきたのに未だに理由が判然としない。
「なんだってあんなもんを。ひょっとして何か薬に使うのかな。おれの気が少しは入っているだろうから、人間なんて脆いもんだから、そんな気だけでも治っちまう病があるんだろう」
「わかりましたかみさま」
「おう、速かったな」
いつも消えてそれきりなのに今日は何故か戻ってきた。しかも30分とたってない。
「洗ってました」
「?」
「新聞紙に包んで捨ててました。皿は洗ってました」
・・・勝手な想像だった。
まったく人間てやつは、神の気持ちも知らないで・・・
2000/11/18(sat)