傀儡の家
こんな夢を見た。
死人を操る老女がいた。
一人の少年が寡黙な母親と旧びたマンションで静かな生活を送っている。
母親は洋服箪笥に隠れた老女が操っているむくろだ。
老女は少年が学校に行くたびに母親に防腐剤を打つ。
そして食事の支度をして、洋服箪笥に戻る。
ある日とおくで離れて生活したいと少年が言い出す。飛行機整備の仕事につくという。
老女は箪笥の中で怒り悲しむ。
老女の気持ちとシンクロした母親のむくろはテーブルを返し少年のほほを打つ。
少年は反発し出て行こうとする。
母親のむくろは遮って罵倒を始める。
お前はあたしを捨てるのか
これまで育ててやったあたしを捨てるのか
老女の激しい気持ちが母親の乾燥した口を衝いて出る。
「うるさい」
少年は鞄で母親の肩を打つ。もうぐずぐずに崩れ始めている母親のむくろは不自然に曲がりながらも少年に罵倒を繰り返す。
お前はあたしがいなければ、子供の身でのたれ死んでた
あたしがお前を育てたのに
お前のために食事を作り
お前のためだけにこの狭い箱の中に篭っていたのに
嗚呼!!
「うるさい」
屍体がもはや生を演じることに耐え切れず、体中から腐肉が落ちてゆく。
老女は力を使いすぎていた。
もう年でもある。
人の形をとどめなくなってそれでも何やら嘆きの言葉を口にし続ける母を前に、子はおろおろとしはじめる。
己を悔い泣きはじめる。
老女は箪笥の中で息絶えている。
すると何故か腐臭漂う母の肢体から生白い二の腕だけが伸び、子を抱きしめる。
「・・・これが最後だよ」
母は指先からさらさらと灰になる。
腐肉はすべて灰となる。
両手いっぱいに白い灰を持って立ち尽くす子。
私はそれを醒めた目で上から見ている。
この子はやがて宇宙船の設計士になる。
これは過去の映像なのだ。
そう思ったところで目が覚めた。
1999記