「わかったような顔がしてみたい」
想イヲツヅル #51
冷たいマスクはどうも慣れない
この溶けるような暑さの中
鼻の下に汗をかき
びしょびしょになったマスク
これを付けたり外したりした時の濡れたそれの感触が
今の異常とも言える日々を
身体に直に訴えかけてくる
そんな不快感を感じざるをえない僕の横で
彼女は冷製パスタをフォークで転がした
彼女は彼女で夏バテらしく
パスタを口に運ばず、″くるくる巻く″だけを反復している
食べきれない分は僕が食べるルールも最近できたので
最後はきっとそうなるんだろう
彼女とは付き合ってまだ3ヶ月も経っていない
彼女の凛とした雰囲気
綺麗な鼻筋
黒髪の似合う白い肌
洗練された女性
というのが最初の印象だった
彼女はもともと
同じ職場の1つ上の先輩だったのだが
今年に入って彼女は転職をし
その後
僕から告白をした
今
目の前でパスタを転がしている彼女は
とても綺麗だけれど
気持ちを表に出すことが苦手だったり
寝相が悪かったり
そんな部分も最近は垣間見えて
そこも愛らしいと思うようになった
ただ
お互いが素直になりきれない″何か″があるのも感じている
「そんなすぐには通じ合えないよな」
と自分に言い聞かせ
彼女のパスタをパパッと食べて
僕らは店を出た
そして思うのだ
冷たいマスクはどうも慣れない