復讐の先にあるものは--M-1グランプリ2020感想

いいか?お笑いは、今まで何も良いことがなかった奴の復讐劇なんだよ。

ウエストランド井口のこの言葉が物語る。2020年m-1グランプリのテーマは「復讐」である。

2019年の決勝でベストが出せなかったインディアンス。

準決勝で負け続けた東京ホテイソン。

松本の一言を忘れられなかったニューヨーク。

二年連続でm-1に出場するも苦汁を飲んだ見取り図。

退路を断たれた1+1、おいでやすこが。

地獄を見た男たち、マヂカルラブリー。

m-1史上最高の化物の後に出たオズワルド。

去年は出場せず漫才に向き合った2016決勝進出者アキナ。

最年長、最歯少、苦節の年月を越えた錦鯉。

時代への復讐、ウエストランド。

決勝進出者が発表された当時から唱えられていたこの「2020m-1=復讐劇論」だが、実際その通りだった。

有言実行を果たしたもの、順番に恵まれず課題を残したもの。それぞれの組からは、一漫才師を超えた人間のドラマが見えた。

全ての組が全力でぶつかっていた。全ての瞬間で胸が震えた。審査員の目も滾っていた。

特にファイナリスト見取り図、マヂカルラブリー、おいでやすこがの三組は1stラウンドで立派に復讐を果たした。マヂカルラブリーがえみちゃんに94点を貰ってガッツポーズしたあの瞬間は、m-1史に残る名場面になるだろう。せりあがりの土下座とともに。


しかし、1stラウンドが終わったcm中、私はずっと考えていた。

「復讐の先には何があるのだろう」と。

もしそれが果たされれば、復讐を原動力にしてきた者たちは役目を終える。1stラウンド、かの三組は全組なんらかの復讐をすでに果たしていた。

文字通り、復讐とは亡霊のようなものだと私は思う。追いかけているときは見えている。それが実は虚空であるとも知らずに。

だからこそ、ファイナルラウンドで、どんな漫才を見せてくれるのかが気になって仕方なかった。勿論楽しみだったし、その先が見たいという好奇心もあった。同時に一抹の不安もあった。


しかし、心配は杞憂に終わった。

復讐の先にあるもの、それは自分自身だった。

憑き物が落ち、どうしようもなく残った彼ら自身がただ存在していた。

時流に合わない、などと言われながらも自分のスタイルとパワーで笑いを取った見取り図。もはや漫才と呼べるのかわからない唯一無二のネタでうねりを巻き起こしたマヂカルラブリー。漫才の技術は敵わないかもしれない、と零しながらも、自らの1+1を無限に変えてみせたおいでやすこが。

ただ己を貫き通す。自分は自分であると証明する。その逞しさに、涙が出るほど笑いながら自分の心配を恥じた。死に物狂いで、漫才に命を懸け、全てを失っても虚空を追い求め続け、そして「自分のスタイル」を手にした彼らに、私は心を動かされまくった。

復讐、それは幻影であり、憑き物であり、亡霊だ。それを越えても、残るのはどうしようもなく自分だけだ。拠り所がなくなった自分という存在は、限りなく、限りなく軽い。

でもそいつとやっていくしかない。もしかしたら自分自身が一番の魔物かもしれない。ファイナリスト三組は、その魔物をコントロールもせず、それに呑みこまれもせず、ただありのままさらけ出していた。それが骨の髄から湧き上がる興奮と笑いを生んだ。審査結果が割れたことも、とても納得がいった。全組優勝だと毎年思うが、今年は特にそうだった。

こんな最高の大会を用意してくださったスタッフの方々、出場者の方々、審査員の7人、司会のおふたり、全てのm1関係者に感謝したい。ありがとうございました。



終わりーーーーー!!!!!!!(ななめに丸太を置きながら)


追記

マヂカルラブリーさん、2本目のネタ、今年で一番笑いました。本当に漫才王になったこと、マジでおめでとうございます。おしっここぼしながら暴れまわる野田さんはまさに板の上の魔物でした。


自分なりの、2020年m-1感想でした。読んでくださりありがとうございました。









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