ダウン症の女の子
昨日からスタートした【書籍には含まれなかった未発表原稿をノーカットでお届けする】新企画。
昨日は学生時代の忘れられないエピソードをご紹介しましたが、今日は新卒から勤めた介護事業所スタッフ時代のほっこりエピソードをご紹介しましょう!
(※時は今から6年ほど前、病から復帰してほどなくした頃のお話です)
ーーーーーーーーーーーーーーー
8歳の少女にとって電動車椅子に座った私は、格好の“おもちゃ”でした。
当時の身長はおそらく115cm余り。目線の高さはちょうど私と同じくらいでした。
彼女は学校帰りに決まって私たちの職場(事業所)に立ち寄り、パックの野菜ジュースを一気飲みして、またすぐに迎えに来る学童のバスに乗る、というのが毎週のルーティン。時間にして1時間、事業所での滞在時間は30分足らず、変わらない移動支援の光景です。
私が復帰して同所に異動してきてから、彼女のルーティンが1つ増えました。「長野をくすぐる」ことが楽しみになったのです。
電動車椅子が一際大きいこともあり、いつも他のスタッフとは少し離れた入り口付近に陣取って仕事をしていた私。毎週そんな姿を見かけるやいなや、一目散に駆け寄って胸元をくすぐり、「やめて~」と嫌がる私の前でゲラゲラ笑っていました。
そんな様子を見ていた同僚からある日、「(彼女に)手洗いを覚えてもらうにはどうしたらいい?」と尋ねられた私は、すぐに「簡単です!」と答えました。
日頃から支援に携わっているスタッフの間では、ダウン症の彼女に「外から帰ってきたらまず手を洗う」習慣を身に付けさせたいと思っており、日頃から気に入られている“おもちゃ”となっている私にも助言を求めてくれたのでした。
「手を洗って戻って来るまでは、くすぐられても私が反応しなければいいだけです!」
確証はありませんでしたが、日々の関わりの中で私には「絶対にうまくいく」という自信がありました。目標は1カ月、とはいえ週1ですから、チャンスは4回しかありません。
だから、普段介助を担当していたスタッフには「手洗いができた時には思い切り褒めてあげて下さい」とだけ、お願いしました。
結果は大成功!たった1カ月、回数にして4回、5分間のやりとりで見事に手洗いをマスターしたのです。私はくすぐられても反応せず、両手をこすり合わせて洗面所を指さし、「手洗いしておいで」とジェスチャーをしただけ。最初こそあまりに無反応な私に、「ウ~ッ!」と地団駄を踏んで怒ってはいたものの、反応してくれないと分かると「仕方ないわねぇ~」といった感じで洗面所に向かっていくようになり、最後にはそのやりとりさえも楽しむ(私の顔を覗き込み、自ら手洗いのジェスチャーをする)までになりました。
もちろん、洗面台からダッシュで駆け寄ってくる彼女を、今度は思い切り褒めたことは言うまでもありません。『となりのトトロ』のメイちゃんに匹敵するドヤ顔、今でも鮮明に覚えています。
これが日々の疲れを癒やす、私の密かな楽しみでした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
どうやら、今も昔も小学2年生とは浅からぬ縁があるようです。
*イメージ図