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自分を知って、他者を知る

 本書(※本シリーズ)では、私のこれまでの経験を包み隠さずリアルにお伝えしてきました。お読みいただいたとおり、まさに紆余曲折という言葉がぴったりなほど、本当に様々なことがありました。もちろん、その道中は良いことばかりではありませんでしたが、今ではその時は良いと思えなかったことも含めて、すべてが私の糧になっていると感じることができます。   

 最後に、そんな今の私が大切にしている3つの“教訓”をお伝えしたいと思います。

(人には誰でも)「障害を忘れられる瞬間」がある!

 まず、何といっても「(人には誰でも)障害を忘れられる瞬間があり、それを保障されるべき」だという気付きです。
 これは言うまでもなく、私が大学時代の友人から教わったことです。彼らと一緒にいる時は本当に障害を忘れている自分がいました。まさしく、何の心配もしていない自分に気付いたんですね。
 それまでの私は「トイレに行きたくなったらどうしよう」とか、「食べこぼしてしまったらどうしよう」と言った具合に、常に何かを心配することで健常者に合わせようと(社会に適応しながら)生きてきました。しかし彼らは、そんな障害故の心配に左右される私に対し、「困っていれば助けるのが当たり前だろ」と、驚くほど自然なスタンスで接してくれました。おかげで、私はいつも自身の気持ちに正直でいることができました。
 ですから私は今でもこの感覚を大切にしていて、人前でお話しさせていただいている時や、こうして本(やコラム)を書いている時が「障害を忘れられる瞬間」なのです。当然、私の内側(心)から何が湧き出てくるのかは誰にも分かりません。
 もちろん、障害の程度によって“忘れられる時間”の長さに違いはあるにせよ、喜怒哀楽といった(特に嬉しい、楽しいといったポジティブな)感情が「障害(バリア)を超える」ひとときがあるはずで、(ないとすれば)それを保障されるべきだと思っています。私はこの感覚を多くの方に味わっていただきたいと心から願い、日々活動しています。

「気持ちのハードルをどう下げるか」

 次に大切にしているのは(他者の)「気持ちのハードルをどう下げるか」という視点です。この視点は、私と大学時代に出会った友人たちとの“関わりの結晶”であり、それを教えてくれたのは彼らでした。
 他者(相手)の気持ちのハードルを下げる上で重要になってくるのが、【伝える順序】と【自己責任】だと私は思っています。それは「自分は今、相手からどう見えているのか」を意識する作業ともいえます。

 障害の有無に関わらず、どんな方でも初対面の方とお会いする時は緊張しますよね。そんな時、身体が自由であればまだ、先に書いたような心配事にご自身で対処することができます。しかし、障害があったり、私のように肢体不自由だったりすると、トイレに行くことも、食事をすることも、水分を摂ることさえも1人ではできません。それでも、困ったことに人間は緊張をすればするほど喉はカラカラになるし、大して水分も摂っていないのにトイレに行きたくなるようにできているのです。
 つまり、私は初対面の人と会った時、「どうすればこの人と仲良くなれるだろうか」という気持ちよりも先に「この人は自分のサポートをしてくれるだろうか」という気持ちが先に立ってしまうことが多い(多かった)ということです。特に相手が男性の場合はなおさらですね。
 さて、話を本題に戻しましょう。サポーターが必要になった時、私は“できないこと”を伝えた後、“できること”を伝える=【伝える順序】を意識することに活路を見出しました(※「ターニングポイント」を参照)。最初にできないことを伝えることで、私に対するクラスメイトの期待値を下げ、後から活発な面をさらけ出すことで「驚き」を与えるという、一種の「ギャップ」を狙ったわけです。
 もしかすると、クラスメイトの中には障害者と関わることが初めてだった者もいたかもしれません。おそらく、そんな彼らの大半は「何もできない障害者と一緒か。オレたちが面倒を見るのか」と、戸惑いや落胆を感じた者もいたことでしょう。そんな仲間たちの気持ちを想像し、強調したのが【自己責任】でした。
 言い換えれば、これは「決して皆を責めたりはしない」という、私からの意思表示と決意表明を込めたメッセージでした。私を含めて、近年は人から怒られたり傷つけられたりすることを極端に恐れる人が多いとも言われます(恋愛において“草食系男子”が増えていると言われているのもそのせいでしょうか)。サポーターの立場からすれば、せっかく手助けをしたのに、その相手から怒られてはたまったものではないでしょう。そこで私は自分で話すことができると伝え、「言ったとおりでいいから手伝ってほしい」と背中を押しました。
 こうして、私に対する“気持ちのハードル”は一気に下がったのです。

「”SOS”は辛くなる前に!」

 最後は、これまでの社会人経験における最大の教訓をお伝えしたいと思います。それは、「“SOS”は辛くなる前に出す」ということです。
 想像して下さい。友人同士が久しぶりに再会して食事をし、別れ際に「辛くなったら連絡ちょうだい」というようなやりとりを、皆さんも1度はしたことがあるのではないでしょうか。
(このやりとりを否定するわけではありませんが)私は自身の経験から「辛くなってからでは遅い!」と断言します。

 うつ病になって分かったことですが、人が本当に辛い時って人に会うことも助けを求める気持ちも沸いてこないのです。「情けない、こんなはずじゃなかった」というマイナスな気持ちが心を支配してしまうからです。だからこそ、本当に「辛くなりそうだな」と感じたら、早めにSOSを出すことをオススメします。誰かに頼ることは恥ずかしいことではありませんし、他者を信頼して協同することで、予想もしない大きな達成感を味わうことができたりするのです。私はそんな経験をたくさんしてきました。
 事実、私自身は身の回りのことさえも介助が必要ですが、こうして今、多くの方の協力を得て、自分が信じる道を進むことができています。あの日、あの時、誰かに助けを求めることができたから今があります。

「自分を知って、他者を知る」

 これこそ、人生を豊かにする近道だと私は信じています。

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長野 僚
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