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工夫したこと

「伝える順序」と「自己責任」同様、私が学生生活で大切にしたのは「感謝」を伝えるということです。
 当たり前のことだと突っ込まれてしまうかもしれませんが、私はさらにひと工夫していました。それは感謝に加えて、何が助かったのかを具体的に伝えるということでした。

『今回はありがとうございました。おかげさまで筆記のスピードが上がって、講義の時間内にノートを取り終えることができるようになりました。
さらに、自分でも気付かなかったことなのですが、荷物入れをすべて外していただいたことで、電動車椅子でしっかりと奥まで入ることができるようになって姿勢が良くなり、身体も以前ほど痛くなくなりました』

 これは、机の改良を依頼し、実際に使ってみた感想を伝えに行った時のものです。

 机の改良を依頼した最大の目的は、ノートテイクのスピードを上げることでした。そのために、学内にあった可動式机の改修を依頼した際、電動車椅子の横幅と、膝が当たらないことを考慮して、真下に付いている荷物入れの1つを外してほしいと要望を出しました。
(本当はすべてを外してほしいと思っていましたが)3つすべてを外してしまうと他の学生が使いづらいかもしれないと思い、とっさに発言を変えたことを覚えています。さらに、健常者の学生も使いやすい「ユニバーサルデザイン」にしておくことで、友人と隣同士で講義を受けることもできると思い立ったのです。
 もちろん、こうした思いは口には出しませんでしたが、誰かを思いやる気持ちは伝染するのでしょう。事務方が作業をして下さる方に私の要望を伝えたところ、先方の方から『3つすべて外したほうが使いやすいんじゃない?机はたくさんあるから1つくらい君試用にしても構わないよ』と言って下さったのです。これにより、電動車椅子をわざわざ旋回させなくてもスムーズに入れる机が完成しました。さらに、現状ではまだ少し膝が当たるということで、机の脚に木の板を取り付け、高さ調整まで施された、まさに「オーダーメイド机」となりました。
 本当に有難い話ですが、心掛けていたのは「自分の要望を皆の要望に普遍化する」ということでした。つまり、私だけでなく他の方もきっと同じように思っているということを伝えたり、交渉をする相手の立場に立って物事を考えたりすることを意識していたのです。

 私は同様のアプローチで、男子トイレには自分の身体に合った形状の便器と手すりを付けてもらうことができましたし、スクールバスの混雑に対しては、「運転手の方にも申し訳ないので・・・」と言って、確実にノンステップバスに乗車できるようにし、曜日ごとに変わる始業時間に応じて、時間を固定して対応する工夫を提案しました。
 さらに2007年当時、エレベーターのなかった、大学の最寄りである「高坂駅」(埼玉県東松山市/東武東上線)に対して設置を働きかける際には、世間話をするほど親しくなっていた理解のある当時の駅長に、『1回5分、(地上~ホーム/ホーム~改札)1日20分では駅員さんが大変ですよね』『この駅は大学や短大が併せて3つもあって、動物園もありますよね。(お子さんを乗せたベビーカーや園児、部活帰りの荷物を持った学生さんも多い中で)エレベーターがなくて困る人はいても、エレベーターがあって困る人はいるんですかね~?」と口説いたところ、市に要望書を提出してくれることになりました。その後、紆余曲折はあったものの、およそ3年後、無事にエレベーターが設置されました。

トイレ

エレベーター①

エレベーター②

私の働きかけが功を奏したかは分かりませんが、間違いなく1つの思いが結実した瞬間でした。
 学生生活を通して、物理的なバリアを解消するのは結局、人への働きかけだと気付き、相手の気持ちに寄り添った働きかけを心掛けたことで、私は身体の不自由さを心で補いながら過ごすことができたわけです。

バス①

バス②


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長野 僚
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