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花火 #ファーストデートの思い出

 スマホどころか携帯が無かった時代は、固定電話のある自宅から一歩出れば、ある意味全員行方不明になれた。

 中学二年生の終わりに、初めての彼女ができた。席が隣どおしで、付き合う前は、吹奏楽部の彼女のもとに、楽器のカタログを持ち込み、なんとか気を惹こうと躍起になったことを覚えている。お互い初めての男女交際だった。

三年生に進級し、私達は再び同じ教室で授業を受けていた。しかし交際が周知の事実になったあとは、私が周りの目を気にして、彼女との会話が激減した。

お互い部活動が忙しく、放課後、学校から彼女の家まで、一緒に帰る10分間がふたりが喋る唯一の時間だった。

何ら進展のないまま夏休みに突入した。夏祭りの季節だ。

私は緊張しながら、彼女の自宅に電話した。
「もしもし、◯◯です。」

彼女の兄で、少しヤンキーな雰囲気漂う、コワいとウワサの一歳上の先輩が電話にでた。

ひと昔前は、電話して誰が出るかも分かりやしなかった。

「あ、もしもし、△△ですが、〜〜さんはいますか?」

少しの沈黙と雑音の後に、彼女が電話口へ出た。

私は夏祭りにて一緒に花火を見る約束を取り付けた。
彼女は吹奏楽部の寄付金をつのるため、部員総出で祭りの出し物に出演する予定であり、私とは現地で落ち合うこととなった。

祭り当日の昼頃に私は気づいた。

待ち合わせ場所を決めていなかったことに。

彼女の家に電話しても誰も出ない。

祭り当日、もう会場に入って準備しているはずの彼女に、待ち合わせ場所についての連絡など、つくはずもない。

15年前のことである。固定電話のある家から出てしまえば、みんな音信不通だ。

私は自分なりに対策を考えた。中学生の時分、両親に相談するという選択肢はなかった。なんだか恥ずかしかったし、3人の兄はもう外出していた。夜は三者三様のやり方で祭りに参加予定だったろう。

私も夕方には両親と共に外出せねばならなかった。

「もしかしたら彼女から電話が来るかもしれない。」

と、私は非常に薄い可能性を見出した。

私はワイヤレスの子機を手に取り、そっと自分の後ろポケットに忍ばせて、両親と車に乗り込んだ。

15年前の中学生である。携帯電話が存在していることは承知だったが、携帯っぽいナリをした子機が、どういう仕組みで機能しているかは知らなかった。

目的地に向かって出発する車の中で、私は後部座先に座った。後ろポケットに入っている子機が邪魔で座りにくい。

車が発進した。両親は前を向いている。私はそっと子機をポケットから出した。現在時刻とコキNo.1ということを常に表示しているはずの見慣れた液晶画面は、真っ白なスクリーンへと変わっていた。

そこで私は理解した。

電話といえども、親機あっての子機であり、目の届く、もとい親機の電波の届く範囲でしか、子機は活動できないのだ。なんだか未成年と保護者のメタファーのようでもある。

さて、この子機を携帯し、事態を切り抜けようとした私は、一変して不安で胸一杯となった。急に無口になって、両親とも喋ろうとしなかった。

最後の手段、というか、もうそれしかできることはないのだが、祭りの会場で彼女を探しだす、と決めた。

決断してみると、自分でも何だかうまくいきそうな気がしてきた。

あちらも私を探しているだろう。グルグル会場を回っているうちに会えるはずだ。

なにせ私たちは付き合っているのだ。

途中クラスメイト達にも必ず遭遇する。「アッチで見た、コッチに居た」という彼女の位置情報収集もできるだろう。

日が沈んだあと、両親に車で祭りの会場まで送ってもらった。
ミッションスタート。

自分の考えが甘かったのは、到着して30分ほどで気付いた。

たいそうな人混みではない。歩き回るのに難はない。しかし彼女には会えない。

友人達とも何度か出くわす。
「今さっき見た。」
「見かけたら教えとく」

何を教えておくというのか、

私が彼女を探しているということか。

わかりやすい定位置から動かず、そこを通りかかる友人達に、声をかけて、彼女を見かけたら私はココにいる、と伝えてくれるようお願いすれば、労力なくそのうちに会えたことだろう。

しかし、愚かしいことに、私は頑張って歩き回れば、彼女と遭遇できると思っていた。

なんたって私達は付き合っているのだから。

最初の花火が打ち上がった。爆発の重低音は、鼓動がはやまる私の心臓に遠慮なくシンクロしてくる。

彼女を引き続き探すために、前を見るべきか、
花火があがる上空を見るべきか、迷った。

「同じ月を見ている」という素敵なセリフがある。

恋仲にある人達が、ある夜、もっと段階を経たステージで、つぶやくのだろう。

彼女も、私と同じ花火を、どこかで見ているんだろう。

距離的にはかなり近くで。しかしお互い行方不明で。

私は前を見るのをやめ、近くの屋台でコーラを買って、残りの花火を見上げながら、ソレを一気に飲み干した。

10分ほどして花火は終わった。

そのあとに、私は「どうすれば彼女と会えたのか?」と、もんもんと考えながら一時間かけて徒歩で帰宅した。

一週間後にフラれた。

15年前の夏のことである。


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坊主
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