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PERFECT DAYS

映画にあまり関心のない私にも、めずらしく賛否両論聞こえてきたので、久しぶりに映画館まで行って観た。主人公平山の務める清掃員という、世界の現状維持の為の仕事や、彼の毎日やることの変わらない日課的な生活——これは隠居という在り方を描いた映画だと観て思った。つまり、世界を変えることも、世界に変えられることも拒絶するひとの。だから、この映画に対して多く見られる現実的じゃないという批判は当たらない。そもそもが平山という、現実(=数ある世界の暗部)を見ないことを選んだ人間を描いているから。ここには現状の肯定、存在の肯定しかない。

その意味で、平山のようにはなりたくないとは思いながらも、自分が変える/変えられる地点に居続けては身がもたないから、そうではない安住の地を頑なに守ろうとする気持もわかる。人はときに、自分が居てもいなくてもいい場所に居たいもので、平山は誰しもの内に根ざしている人間性の一つではないだろうか。

だから、タイトル『PERFECT DAYS』、並びに「こんなふうに生きていけたなら」というコピーに対して、さすがにそうとは思えなかった。あくまで平山とは人間性のひとつの極に過ぎず、手放しに完璧だと言えるものではない。

ただ、一見完璧なようでいて、いや完璧ではないと思わせた先で、自分にとっての完璧とはなにか、果たして完璧などあるのだろうか、とみずからの日常をあらためて見つめなおす鏡として、これはいい映画だと思った。

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