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キジ重とアサツキ

東京の実家に年始のご挨拶がてら、お昼御飯をいただきにお邪魔した。

「明けましておめでとうございます」

と、すこし恥ずかしかったけれど、口数のすくないおとうさんに伝えてみる。

「あぁ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
と返してくれる。よかった。

住んでいる場所に、新年のご挨拶ができるお家があるのがうれしい。もちろん大分出身なので、東京に実家なんてないのだけど、ここは実家だと思っている。心のこもった手料理を食べたいときはいつもここにくる。

久しぶりにきじ重が恋しくなったので、いつも食べているぶりの照焼定食はグッと我慢して注文する。天ぷらも絶品だからいつも悩むんだよな・・・。

ぼーっと待っていると、玄関のすぐうえに設置されたテレビから、NHKの連続テレビ小説が流れてきた。もうこんな時間かあ。このゆったりと時間が流れているなかで、誰が聞いているわけでもない、NHKの音がゆらいでいる空間が実家らしい。

目の前で、お重にご飯を盛って、海苔をのせてタレを塗る、想像よりも多く盛られたキジの焼き目が映える、タレに反射する光、そっと乗せられたししとうのまばゆい緑!あまりにも完成された見た目が、食べずともおいしい。


小皿に出てきた野菜が見覚えがなかったのでおかあさんに聞く。

「これは何ていう野菜なんでしょう」

「いや〜…なんだったっけ。お客さんにいただいたのでね。」


と、お客さんとの会話の中で名前が出てきたのか、スマホをチェックする。

「アサツキ、と言うそうです。酢味噌にあえたりね、天ぷらにしても美味しいそうですよ」

「聞いたことない名前ですね。浅葱って書くんだ。さっぱりしていて美味しいです。」

手土産にもってくるお客さんも素敵だし、それをさっと料理してお客さんにふるまうおかあさんも素敵だ。




「ごちそうさまでした」

「すみません、ひとりで、ご挨拶しにきてくれてありがとうございます。」

と、おとうさんが言ってくれる。

「いいえ、今年もよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

今年もがんばれそうだ、東京!

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