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言葉は必要なときに向こうからやってくる 小笠原ひとり旅9日目 #17
今日はなーんにも入れない。なんにもしないと決めていた。
コペペ海岸でただ横になりたい。
いろんなお店でかき集めた、小笠原の文化を伝えるローカル雑誌「ORB」をじっくり読むのだ。
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家の近くを散歩するみたいに父島を散歩する。
父島らしいものはたくさん見てきたから、特別でないものを見たい。
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今日はゆっくりコペペ海岸までいこうと思っていたら、地図にない道があったので予想以上に歩きまわってしまった。
スイッチが入ってしまって、まだ島のカフェに行ってないなあと思い立ち、遠回りをしてグレース島のお茶やさんに立ち寄る。
ここからは下記「Listen in browser」を選択し、イヤホンで聴きながらご覧ください。
Sound - グレース 島のお茶やさん
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のどがカラカラでオアシスに見えた
「いらっしゃいませ〜店内利用の場合は、こちらでお履き物を脱いで、アイランドスタイルではだしのままで結構です〜。」
とまったりとした話し方のオーナーさんに出迎えてもらう。
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店内では、小笠原をテーマにしたオムニバスアーティストの音楽が流れている。
島バナナミルクと島レモンとヨーグルトのシフォンケーキのスイーツセットにした。小笠原珈琲だとかパッションフルーツジュースもあったけど、飲みたいものを飲む!という気持ちでバナナジュースにする。
「島バナナジュースは、砂糖も氷も使っておりません〜」とのこと。
バナナ100%のもったりとした濃厚な味わいだ。シフォンケーキは軽やかな口当たりで、レモンの匂いが爽やかでおいしい。すこし雨がぱらついていたけれど、お店を出る頃にはカラッと晴れた。
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ここからは下記「Listen in browser」を選択し、イヤホンで聴きながらご覧ください。
Sound - コペペ海岸
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コペペ海岸を端まで歩いていくと、背中にフィットするテリハボクかモモタマナの木があった。お尻は石でフィットさせることができて、世界にひとつだけのビーチサイドチェアーだ。
まわりに目をやると、オカヤドカリが静かに歩いている。じっと眺めていると、背負っている貝殻は綺麗なものから緑に褪せたものまでさまざまあった。褪せたものは、人間で言うとLevi’sの古着を着こなしてるような玄人おしゃれさんだろうか。案外家に帰るとワードロープの中から気分で選んでいたりしてね。
おだやかな波音と子どもの楽しそうな声を聴きながら、小笠原のローカル雑誌「ORB」を手に取る。
島に来る前になにかのサイトで見つけて存在は知っていた。旅の序盤に何気なくはいったお店の片隅に置かれていて、いざ手に取った瞬間にこれは作り手の想いがこもった大切なものだとわかった。
だから、なんとなく読み飛ばすようなことはしたくなくて、島で手に入るものをかき集めてゆっくり読める瞬間までとっておいた。
ようやく読めるぞとドキドキしながらページをめくる。
なかでもVol.0に収録されている、ORBに先駆けて島でスコールという雑誌をつくっていた四郎さんへのインタビューが心に響いた。
40年ほど前に島の10人くらいで文章や絵を手書きで書いたものを50部程度刷って、配っていたらしい。
「若い頃はね、自分の作品はあまり人にみせたくなかった。自慢しているような気がして。でも年をとってからはそういうものはやはり人、特に若い人に見せるのが大切だと思うようになった。殻に閉じこもるのは違う気がする。たとえ小さくても、誰かに良い影響を与えることができるものがあれば見せるべきだよ。良いという人が100人に1人だとしても、恥ずかしいことではない。価値があるよ、それは個性だから。そもそも万人に受けるものなんてない。絵や写真、音楽や文章、何か自分で作ってそれを人に表現できるものを持っているということはとても幸せだと思う。やりたくてもできない人もたくさんいるから。それがいかに大事かってことだよね。
自分が写真を撮っていること、感情を文字で残すこと、環境音を録っていること。自分でも手探りながら、とにかく夢中で取り組んでいるそれら全ての行為が、島のフリーペーパーの中のインタビューで全肯定されて、島の端っこの海岸でひとり静かに泣いた。
「言葉は必要なときに向こうからやってくる。」と好きな映画で言っていたけど、ほんとうだ。
17時30分、日が暮れ始める時間の木陰に吹く風はさらっとしていて気持ちがよかった。
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今日の夕日は美しいだろうからウェザーステーションで見たい!ととぼとぼ帰りながら考えていた。18時過ぎにホテルへ帰りつき、とものさんへ相談する。
「あの、図々しいんですけど、いまからウェザーステーションまで送ってもらっても良いですか?まだ一番の王道スポットに行けていなくて…」
「もちろんいいですよ」と二つ返事で承諾してくれる。
夕日が沈んでしまうぞ、と急いで車に乗り込みウェザーステーションに向かう。
「いや、王道じゃないところに行けるのがゆっくりな日程の強みですね。それがいいですよ。夕日が見れる場所は季節によって変わるので、みなさんに聞かれたらまずはウェザーステーションですねって言っちゃうんです。だから自分なりに夕日が見れる場所を見つけるのはいいと思いますよ」
「ありがとうございます。みなさんが口を揃えてウェザーステーションっていう意味がようやくわかりました。僕は扇浦地区の静かな夕日が好きなんです。」
「いいですよねえ。」
と、お話しているとすぐにウェザーステーションにつく。ありがとうございます!と伝えて、急いで車を降りる。まだ間に合うだろうか。
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りょうさんもちょうどウェザーステーションにいて、太陽が落ちた瞬間の夕焼けをいっしょに見る。
「ほんと、3分前に落ちたよ」と言われてすこし落ち込んだけど、本当に綺麗な夕日はここから。海に囲まれた島だからこそ、どこまでも美しい水平線と空のグラデーションが美しかった。
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太陽が完全に落ち道路は真っ暗。りょうさんに帰りの足が無いと伝えると、明るい道までねと付き合ってくれた。
私はダッシュで坂道を下っていき、りょうさんは原付のエンジンをかけずに下っていく。
箱根駅伝みたいじゃんこの構図、と笑いながら、夕闇の中の港にて燦然と光る夜のおが丸を見つけて、「ラッキーじゃん!」と一緒にホクホクしながら下山した。
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星空を見上げながら、コペペ海岸で読んだORBで引用されていたある社会学者の方の言葉を思い出す。
「一番強い者はどこでも、どこの場所でも故郷と思える者だ」
自分から地域を、土地を、ひとを愛することができるのかという問いにも感じる。
すくなくとも自分にとって小笠原は、次に来たときに「帰ってきたな」と思えそうだと予感していた。
(次回へつづく)
↓マガジンに随時まとめています