
疾走
綾人には今、家がない。流行病の所為で孤独感と哀愁が漂う部屋に篭っていた。綾人は千葉の部屋を引き払った。それでよかった。孤独は好きだが、ずっと独りは嫌だった。
死にたいと思うことがよくある。というよりかは「消えたい」。死が救済なんておかしな考えもした。
大学校の同期とも合わなかった。アルバイト先の店長、お客さんとも楽しかったこともあった。
それでも何か足りなかったーー。
ただ、寂しかったのだと思う。僕がやりたいことも思う通りにならなかった。
だから、僕は逃げた。
✳︎✳︎✳︎
帰省して、落ち着こうとも考えた。でも親とは仲が良いわけではなかったのでやめた。
そんな時、東京で出会いがあった。行き場のない綾人は、同居という選択をとれた。巷でいうシェアハウスだ。僕を拾ってくれた。
一緒にいてくれる人が、仲間がいる。救われた気がした。
初めて自分の「居場所」を見つけることができた。嬉しかった。それだけで十分だった。
「永遠なんて存在しない」
これは綾人が昔からの思想だ。
人の優しさに触れても、刹那的なものでいつか終わってしまう…良くない考えないなのは重々に承知している。
でもーーー。
✳︎✳︎✳︎
綾人には金がほとんどない。それでも、パンと好きな珈琲がのめて、好きな音楽に毎日触れるだけで今は倖せだ。
好きな音楽にはとことん打ち込みたい、しないといけないこともあるが、綾人をとりまく様々なシガラミなんて、どうでもよくて。
口だけで終わらせたくない。
自分が何もできない。(してるつもりではいるが難しい)努力して、行動してからこその結果主義。そう思っている。
他人に頼らずどこまでいけるのだろうか。
それでもーー。
諦めないで、今の絶望に抗い続けることが大事なんじゃないか?
答えなんて、分からない。
やってやる。そう決めた。僕だって男だ。
いつか。いつか、もし願いが叶うのならーー。
むしゃくしゃした綾人は25時、皆既月食で欠けた月を眺めて走った。ただ走った。
ディストピアの街灯はただ、輝いていた。