「琵琶湖の湖畔でわれ思う」”ソロの細道”Vol.25「滋賀」~47都道府県一人旅エッセイ~
琵琶湖で有名な滋賀県には、長い間降り立ったことが無かった。
大阪へは出張で何十回と新幹線にて往復しているので、その回数分は滋賀を通過しているのだけれど、なかなかに立ち寄るきっかけが無かったのだ。
滋賀に魅力が無かったわけではない。
戦国好きにとっては、安土城に長浜城、坂本城に近江八幡城、そして国宝の彦根城と沢山の有名な城があるし、京都との県境には比叡山がある。
そしてなんといってもやはり琵琶湖だ。
沖縄の小学生でも知っている、「日本一の湖」。
私の地元の那覇市には”漫湖”くらいしか湖は無く、そもそも湖のイメージも持ち合わせていなかったのだが、テレビなどで見る琵琶湖はまるで海のようで、いつかはその湖畔を旅したいと思っていたものだ。
その気持ちは万城目学の名作「偉大なる、しゅららぼん」を読んだことで更に高まり、ようやくそのチャンスが出来た二年前の出張は、先方の予定によってキャンセルとなり、そこから実現できずに居る。
そのために残念ながら一人旅では訪れたことが無いものの、数年前に祖母と母を連れた親孝行旅行で琵琶湖湖畔を回った時のことを書くことにする。
初めての滋賀への旅行は、祖母と母に京都の紅葉を見せようと思い立ったのがきっかけだった。
交通の便がいい滋賀県大津市、琵琶湖の南の端にあるプリンスホテルにて宿泊したのだ。
このプリンスホテルが便利で、京都駅の中に受付スペースがあり、チェックインと荷物のお預けが出来る。
それを使えば、新幹線で京都に到着し、そのまま駅でチェックインと荷物を預け、手荷物だけで京都を観光し、夜に大津のホテルに戻ってくれば、預けた大荷物は部屋の中に運び込まれているということだ。
京都のホテルは地下鉄などでの移動が必要なケースも多いし、何より京都駅から大荷物を持ったままの観光もし辛いので、このシステムは非常に便利。
私自身、京都観光をする知人から相談を受けた場合は、この大津のプリンスホテルをオススメしている。
さてそのプリンスホテルの部屋からは眺めが素晴らしく、琵琶湖を見下ろすことが出来る。
夜は夜で夜景が綺麗だし、朝は朝焼けを楽しめるので、琵琶湖初心者にも嬉しい。
私たちはその便利なホテルを拠点に、京都観光を一日楽しみ、そしてもう一日はレンタカーを借りて琵琶湖の南側を回った。
琵琶湖の南側の観光スポットとしては、やはり坂本の日吉大社や坂本城、京都側まで進めば比叡山があり、雄琴温泉に琵琶湖大橋あたりが有名だろうか。
この観光ルートは私に任されたので、行きたいところをピックアップしては旅の予定を作り、そして自身で車を運転して回ることにした。
まずは朝から世界遺産の比叡山へ。比叡山は大津市と京都市にまたがって位置しているが、多くのメインスポットは大津市側に位置している。
ドライブウェイを使って東塔エリア、西塔エリア、横川一丁目エリアと三エリアを巡る。
さすが世界遺産、さすが南都北嶺と称され、また時の白河法皇に恐れられ、織田信長の逆鱗に触れるほどの権勢を誇った地。
山全体が延暦寺、とはよく言ったもので、かなりのスケールの大きさに驚く。
この地で日本の様々な仏教の宗派が産まれたというのも納得。
また、ちょうど紅葉が見頃で、ドライブも楽しかった。
続いては比叡山を後にして、奥比叡ドライブウェイを抜けて、坂本方面へ。
そして比叡山の麓にある日吉大社へと向かう。
日吉大社は全国の日吉神社、日枝神社、山王神社の総本社。東京だと溜池山王の山王日枝神社が有名だ。
かなりの広さに沢山のお宮がある、さすがの神社だったが、それよりも興味を惹いたのはその回りの石垣。
戦国時代に一世を風靡した石垣職人集団である”穴太衆”の出身地だけあって、街中で見事な石垣を至るところで楽しめた。
これは戦国好きならではの楽しみ方かもしれない。
ちなみにその日吉大社の門前町には、有名な蕎麦屋がある。
このお店はかの司馬遼太郎が訪れるつもりが、誤って別の蕎麦屋に入ったというエピソードでも有名。
さすがの人気店で、お昼を避けた時間だったものの30分は待つことになった。
坂本から北上して琵琶湖大橋を渡り守山へと向かう。
途中、琵琶湖大橋を渡る手間には”満月寺”があり、その浮御堂が有名。
近江八景の「堅田の落雁」でも知られており、琵琶湖に突き出した仏堂で、思わず写真に納めたくなるような光景だった。
そしてその後は琵琶湖大橋で反対岸へと渡り、琵琶湖の周りを近江八幡方面へ。
湖の周りをドライブするのは運転手ながらも楽しい。
家族や親せきを乗せてのドライブというのも気は遣うものの、楽しんでくれている姿を見るのもまた嬉しいものだ。
そして数年前までこの辺に住んでいた親せきの案内で、ちょうど夕日が沈む頃に湖畔の人気カフェに訪れることができた。
そのカフェは知る人ぞ知る絶景カフェのようで、閉店時間は日没まで。
それもあって皆夕日が沈むのをこのお店で待っているそうだ。
美味しいケーキを食べながら眺める湖畔の夕日は、確かに素敵だった。
こうしてたった一日ではあるけれど、琵琶湖湖畔を満喫できたのだが、こうして湖畔を旅することが何とも楽しい。
考えてみれば数年前に、同じく祖母と母を連れて台湾へと旅をしたことがあった。
その時の目的は、間もなく米寿を迎えるタイミングだった祖母の思い出の地を巡るということ。
戦時中、沖縄の人たちは当時日本領だった台湾への疎開が多くされていて、祖母も台湾で2年ほど疎開をしていたのだ。
当時17歳だった祖母は、台湾のパイナップル工場で経理として働くことになり、その時に仕込まれた経理の知識がその後もずっと役立ったのだという。
実際にそれから数十年後にとある地元の小さい会社の監査役を務めることになったのだから、面白い。
そんな台湾への旅でも、同じく湖の傍のホテルに宿泊した。
”日月潭”と呼ばれるその台湾最大の湖も、今思えば上半分と下半分で違う形をしていて、何となく琵琶湖の形に近い気がする。
その日月潭は、5年前に琵琶湖と姉妹協定を締結していた。そのことは私自身、今このエッセイを書いていて初めて知ったのだけれど、図らずも私の数少ない湖の記憶がこの二つを連想させたのかもしれない。
日月潭の80倍以上の大きさを誇る、日本最大の湖、琵琶湖。
富士山が古代から日本の象徴だったように、この琵琶湖も多くの歌人たちが訪れて歌を詠んでいるように、景勝地として知られていた。
その湖畔である大津には、飛鳥時代には”大津京”が作られていたし、天下人だった織田信長は琵琶湖の水運を支配すべく安土城を作った。
そんな琵琶湖の湖畔をドライブする。なかなかに感慨深い。
次に滋賀を訪れる際には、鉄道旅で楽しみたい。
琵琶湖線に湖西線の車窓から、のんびりと琵琶湖を眺めて酒を飲みたい。
この状況が落ち着いたときに、一人でふらっと旅をしたい場所の一つだ。
旅の終わりには、大津の和食料理店で、琵琶湖名物のモロコをまた食べるのも楽しみだ。
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