また名店が一つ・・・神保町「スヰートポーヅ」閉店に思う。
ここ数年、全国の色々なお店を食べ歩いてきた。食べ歩きを意識した旅行も多く、北は稚内から南は宮古島まで。そんな中でも大好きなのは、ご夫婦やご家族で営んでいるような、街の小さなお店。常連さんばかり集まっている中で勇気を出して飛び込むと、店を出る頃には自分が常連になったかのようなアットホーム感に包まれていて、「またこの街に来た時には必ず顔を出しますね」なんて言葉を置き土産にして、店を出る。「あ~。ほんと良いお店だったなあ」と笑みを顔中に浮かべながら。
そんな形で店を後にしても、場所が遠いとなかなか再訪するのは難しい。まあそれでも四国や南九州には再訪していたりするけど、再訪するとまた違った魅力を感じてしまって、やられてしまう。一生通いたい、と。そうはいってもあと生きているうちに何度行けるか、分からないけれど。
そういうこともあって都区内、特に近所の名店には、なかなか行けない地方のお店の分も、という気持ちもあるのか、出来るだけ定期的に通うようにしていたりする。
ただ残念ながらこうしたお店というのは、店主が「ほどほどに儲かればいい」という考えで長年営業していることが多く、だからこそ居心地が良くて常連さんも集まるわけだけど、そういうお店だとちょっとしたきっかけで「もうお店は十分かな」と店主が思ってしまって、繁盛しているのにふっと閉店を決めて無くなってしまう。
それがとても悲しいのだけれど、まだ救いなのは閉店が決まったというニュースが駆け巡ると、その思い出の味を求めて全国からファンが殺到し、閉店日まで連日予約で満席になるということもざらで、常連さんやファンがお花とかを持ってきたり、店主と写真を記念に撮ったり、そういう光景を見るとこっちも温かい気持ちになってしまう。
だってそれがこのお店が長年育んできた世界なのであり、その世界の住人たちがこうして別れを惜しみつつ見送っているのだ。もちろん自分自身も含めて、自身の人生とシンクロさせてしまったりもするだろう。
ここ数年で記憶に残っているのは、京橋にある街中華の名店「中華シブヤ」。良く会社の飲み会でも使わせてもらったり、一人でランチでお邪魔したり、また自分の離婚が決まった時には当時の上司に付き合ってもらい、月曜なのに二人ともふらふらに酔っぱらったり。名店にはそういう人それぞれの人生の思い出が詰まっていたりするのだ。正に”深夜食堂”の世界のように。
その他にも、スープチャーハンの元祖・有楽町の「慶楽」や、高田馬場の日本酒好きの聖地「真菜板」など、中華シブヤほどではないものの、顔を出していたお店が閉店していった。どれも後継者不足だったり店主の体調だったり、そうした理由であり、閑古鳥が鳴いているから閉店ということはまずない。
(ちなみに真菜板が奇跡的に鳥取県の智頭町で復活したということを知ったときは驚いたなあ。1年以内に行く予定)
コロナ禍の閉店は、幸せなフィナーレを奪い取る
さて本題である。ご存知の通り新型コロナウイルスが日本中、いや世界中で猛威を振るい、その影響をもろに受けた業界の一つが飲食業界だろう。お店を開けていると容赦なく周りから攻撃されるようになってしまった。東京以外の街では徐々に活気が戻りつつあるなんて声も聞いていたけど、それだって少し前の北九州のように少しでも感染者が増加してしまうとたちまちまた自粛ムードになるわけで、先行きはまだまだ不透明だと言わざるを得ないだろう。
東京は東京で、何だかわからない”東京アラート”が解除され、ステップ3への移行も決まり、深夜0時まで飲み屋も開店が認められたのだけれど、とはいえすぐに客足が戻るわけでもなく、またそのうち戻ってくるという見込みもなく、お店の店主は厳しい判断を迫られることも多いのだと思う。色んなお店が始めたテイクアウトやUber Eatsを使った宅配も、正直利益が少し出ればいい方で、大体は赤字だけれどお客さんに忘れられないようにということでしょうがなくやっているところも多いという。
そういう状況だからということもあるけれど、大手のチェーン店は不採算店を容赦なく閉店しているし、いよいよ個人店も商売を辞めるところが出てきた。個人的に全国の開店閉店情報が掲載されているサイトはちょくちょく覗いているのだけど、時々自分が行ったこともあるお店がちらほらあって、切なさに襲われてしまうのだった。ファンの多いお店はTwitterで知ることも多く、例えば良く飲みに行く中野の街でも、老舗バー”ブリック”に”焼肉だるま”、立ち飲みの”おかやん”など、何度か足を運んだお店が閉店したこともTwitterのファンの書き込みで知って悲しんだ。あとは仙台出張の〆で何度かお世話になった”味よし”も。そしていつか行きたいとリストアップしていたお店でも、吉祥寺の”芙葉亭”や神保町の”酔の助”に行くことは夢と消えてしまった。
そんな感じで少しはこの切なさに慣れてしまった身だったのだが、かなりへこむニュースがこれまたTwitterで流れてきた。神保町の餃子の老舗、日本における最古の餃子専門店の一つ、”スヰートポーヅ”が閉店するという。コロナの影響で3月途中から休業に入り、そのまま6月10日に閉店というお知らせが店の前の貼り紙にてアナウンスされたというのだ。
個人的には今年の3月3日に凡そ10年ぶりくらいに立ち寄ることが出来たので、「久しぶりに顔を出しておけば・・・」という後悔の念は運良くなかったのだけれど、やはり寂しくなってしまった。と同時に、この新型コロナウイルスの持つ残酷な一面を強く感じた。なぜならTwitter上にはファンたちの「無念」という声が殺到していたのだ。そう、本来ならこれだけ長い間多くの人に愛されたお店であれば、しっかりとした花道が用意されてしかるべきだったのだ。前述したように全国から往年のファンが思い出作りに押し寄せたり、店主に花束を持ってきて記念写真の撮影をしたり、そういう温かい時間を何日も過ごして、そしてようやくフィナーレを迎える・・・そういう花道が。それがこのように休業から突然閉店へと変わってしまう。ファンは名残を惜しむ間もなく、ただただその決定に涙する・・・。これは本当に無慈悲だ。
もちろん人の生き死にと比べることは不適だとは思うけれど、コロナに感染してお亡くなりになると家族も看取ることが出来ないというが、正にお店もファンに看取られることなく終わってしまうのだ。これこそが新型コロナウイルスの怖さであり、残酷さだろう。
恐らく今後も多くの店が今回の新型コロナウイルスの影響を受けて閉店することだろう。その中で勝手な身分から少しでも望めるのであれば、何とか閉店前に少しでも営業を再開してもらい、お店のファンや常連さんが思い出に浸る時間を作って欲しいと思う。営業最終日に沢山の常連さん達に見守られて閉店することは、店主達にとって少しでもその後の人生の希望になってくれるんじゃないかと、ファンは勝手に思っているのだから。
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