「秘湯と足湯とブルーシール」”ソロの細道”Vol.16「富山」~47都道府県一人旅エッセイ~
私にとって富山県は、47都道府県のうちで最後まで残った未踏の地だった。
そんな富山を初めて訪れ、47都道府県制覇を成し遂げたのはちょうど3年前の年末年始。
新潟から日本海側を西に進み、遂に富山へと到達したのだった。
その時は富山市を散策して「世界で一番きれいなスターバックス」などを見たり、富山ブラックを食べたり、氷見に移動して氷見グルメや藤子不二雄A先生の生家を堪能したり、最後は高岡に移動して”日本三大大仏”とも言われる高岡大仏やドラえもんの散歩道を1日半の強行軍で楽しんだ。
あぁ、せっかく初めての富山なのに、もう少しゆっくりしておけばよかったかなあ、なんて思っていたのだけれど、まさかその一年後に仕事で何度も来ることになるとは。
結局、昨年になり仕事で富山には4回ほど行くことになったのだけれど、出張にかこつけて富山県内を色々巡ることになった。
その中から今回は、黒部峡谷鉄道で旅した時のことを書きたいと思う。
黒部峡谷鉄道に乗るには、電鉄富山駅から宇奈月温泉駅へまず向かい、そこから歩いて黒部峡谷鉄道の宇奈月駅へ。
さすが玄関口。宇奈月駅には売店やレストランが揃っていて、駅弁も豊富。黒部峡谷鉄道グッズも購入できる。
そんな宇奈月駅では宇奈月ビールを3種類購入し、飲む気満々でトロッコ列車に乗り込む。
このトロッコ列車は、今まで色々な場所で乗ってきたトロッコ列車の中でもっとも「おもちゃっぽい」というか、「アミューズメントパークっぽい」。
つまりは本当の列車には思えない作りなのだが、そう感じさせる大きな理由はおそらくオープン車両の作りにあるだろう。
何せ遊園地などの列車と同じような作りなのだ。確かに解放感はあるのだが、これだと走っている途中で外に飛び降りられてしまう。
ちょっと驚きつつ、出発。
席はそこまで混んでおらず、私が乗った車両には他に客は居なかった。
出発したトロッコ列車はというと、解放感が最高で、そして景色がとても素晴らしい。
この景色をこんな列車で楽しんでいいのかと思ってしまうけれど、逆にこの列車だからこそより素晴らしく感じるのかもしれない。
こうして車窓からの眺めを満喫しつつ、黒薙駅に鐘釣駅を通過し、あっという間に終点の欅平駅へと到着する。片道80分ほどの列車旅だ。
欅平に降りた後は、この旅の目的地、駅から徒歩40分の位置にある秘境の温泉・祖母谷温泉へと向かうことにする。
途中、「人喰岩」という物騒な名前の付いた場所を通過する。
コの字に抉られたこの奇岩を通るには無料貸し出しのヘルメットを被ることになる。
私が通った時は、安全のための補強工事の最中だったのだが、実はこの後モルタルで覆われてしまったという。
岩肌を見上げながらこの道を歩けたのは、今となってはラッキーだったかもしれない。
人喰岩を通り過ぎても、峡谷の綺麗な景色を楽しみながら歩き続ける。
季節は7月、雨模様ではあるが涼しく歩くことは苦にならない。
というよりも途中で雨が上がって太陽がカンカン照り。汗をかいてきた。
そうして最後の最後にある綺麗な歩道橋を渡ったところで到着したのが、祖母谷温泉(ばばだにおんせん)だった。
日本各地に”秘湯”と呼ばれるところはあると思うが、この祖母谷温泉もそうで、温泉といっても宿は1ヶ所。そして宿以外には周りは何もない。道も無い。
そしてこの温泉というのが、正に”野ざらし”というかなんというか。今までで一番「ワイルド」な温泉だった。
そもそも露天風呂には壁などは無い。脱衣所には申し訳程度に壁はあるが、正直外からは丸見えである。
いやあ、これは凄い。イメージは足湯である。
しかも男湯は道の下にあるので、より丸見えだ。一応、女湯は遮るものがあるようだから、まだましだろうか。
この日は温泉客は私一人だったので、何の気兼ねなく入ることが出来たが、ここに人が沢山いたらちょっと大変そうだ。
そして40分かけて、途中からは汗だくになって歩いてきた後に、アツアツの湯に入る。カンカン照りの太陽の下で。
これはこれで楽しくなってきた。そして湯はすこぶる気持ち良い。
とはいえ長くは入っていられるほどの温度ではないので、10分ほど入ってさっと上がることにした。
それにしても熱いし暑い。温泉に入ったお礼を伝えるとともに、缶ビールを購入して美味しくいただいた。
温泉後のビールはいつでも最高だが、今回は運動後も兼ねているわけで、正に最高の二重奏のようなものだ。
うん、これは素晴らしい。このビールを飲むためだけにまた夏に来たいくらい。
こうして、これまでの中で最もワイルドで最もオープンな「秘湯」を満喫した後、また40分かけて駅へと戻る。
駅へ戻った時にはまた汗だくなのだけれど、ひとっぷろ浴びているので気持ちは清々しい。
駅途中には、同じく「日本秘湯の会」に入っている名剣温泉で食事を楽しみ、黒部峡谷の温泉を堪能させてもらった。
こうしてまたトロッコ列車に乗って、宇奈月温泉駅へと戻ってきたのだが、ここで何とも嬉しい発見があった。
なんと、こんな場所で故郷・沖縄のソウルフードの一つ、ブルーシールアイスクリームが売っていたのだ。
これには驚き、暑かったこともあって迷わずお店へ立ち寄った。
中の店員さんに話を聞くと、このお店のオーナーが沖縄大好きで、自分のお店でブルーシールを出したい、と契約をしたようだ。
いやあ、富山の山奥でまさかブルーシールを楽しめるとは。
しかもしかも、このお店に隣接されているのが足湯施設。
つまり、ブルーシールアイスを食べながら足湯を堪能できるのだ。こんな幸せなことは無いではないか。
喜び勇んで突入していると先客がいて、その人たちも同じくアイスを食べながら足湯を堪能されていた。
うん、そりゃそうしたくなるよね。
こうして、初めてアイスを食べながらの足湯を堪能したのだった。
富山の地でのちょっとした幸せ。旅はこれだからたまらない。
秘湯に足湯にブルーシール。それにトロッコと絶景も追加できるだろうか。
富山の黒部峡谷での思い出だ。