最寄りの戦国武将
予備校に通っていた浪人時代、同じコースに友達のできない僕らは昼休みはいつも同じ高校の奴らと食堂で唐揚げ丼を食べていた。
とはいえ毎日、家と予備校の往復でしてることは勉強だけ。
そんな中で集まって話す内容といえば、当時放送してた朝ドラのあまちゃんと、高校時代の思い出の話くらいしかないもんだ。
1日15分しか放送してないあまちゃんの話には限りがあるので、高校の頃の思い出を何度も何度もすり切れるほど語り合った。きっとそれは、午後からやらなければいけない勉強への現実逃避にも近かったと思う。
高校の頃の鉄板の思い出も何度も話していると、シソ焼酎に水を足して飲み続けるが如くどんどん味と酔いが失っていく。
そんなマンネリ尽くした中で不意に出てくる話は、なんとなく顔の覚えている同級生の話だ。
こんな同級生いたよねっていう話題な中で、出てきたのが誰かが言った戦国武将のような男。
馬に乗って槍を振り回していたわけではない。
小柄ながら目の細い狐のような顔をして、鼻の下に狐顔にふさわしい髭を蓄えていたのだ。みんなが朧げな顔を思い浮かべる中で、彼への熱い戦国武将感を語っていく。
「武ではなく知で評価されていたタイプ」
「小国大名でありながら、あの徳川家康からも一目置かれていた」
「近隣の大名達だけでなく、百姓からも信頼を得ていた本物の統治者」
最終的には、歴史好きの中では知る人ぞ知る戦国武将となり、小説を書き始めた司馬遼太郎が彼を主役にして短編小説を書いていたなどと盤石の地位を得るまでになっていた。
社会に出て数年が経ち、不意に名前もわからない彼のことを思い出す。
浪人時代の暇つぶしとはいえ、一躍時の人となった彼は今何をしているのだろうか。
先行きの不透明な現代社会でも、きっと先を見通しているような彼の狐目で絶大なる信頼を得ているのだろう。
彼本人を主役とする大河ドラマが始まるその日まで....