伝説を超えるとき 羽生結弦の ICE STORY 2nd ”RE_PRAY” Vol.2
破滅への使者
物語は再びスクリーンへ。ラスボスの待つ最終場面へと勇者が踏み込んでいく。
アイスクリームみたいにひんやり甘い羽生の声。
「好奇心だけで区々たるモノを踏み台にしてきた気分はどう?」
からかうような、そそのかすような蠱惑的な響きだ。
過去プロの衣装を着た12組の8ビット戦士・羽生が画面に並び、ロブスターとシャンデリアのハーフみたいなボスキャラに次々に挑んでいく。
この戦士たちがよい。2.5頭身でもそれとわかる「ロミ+ジュリ1」から「パリ散」、「阿修羅ちゃん」までの衣装を着ていてキーホルダーとかアクスタにして手元で愛でたい可愛さだ。
たまアリでは新キャラのグッズ販売は無かった。佐賀、横浜公演までに追加されたりするのだろうか。新キャラのアクスタやクリファが出たら人気爆発は間違いない。加えてこの8ビット戦士・羽生のグッズもぜひ出してほしい。
最期に「?」で隠されたキャラが選ばれる。
「あなたの世界に超えるべき壁はありますか?」の問いかけ
真紅の衣装に身を包んだ新キャラが生身の羽生となって氷上へと姿を表す。
氷上に投影された「YES」を踏み越え、美しく弧を描き、見慣れた動作で軸を取る。
スペクタクルな照明は消え、白いライトがリンクを照らす。
スクリーンにはいつの間にかタイマーが表示され、懐かしいプーまでがスタンバイし、どうやら6分間練習であるらしい。競技会の6練に似ているけれど、アナウンスはない。羽生は集中しきった表情で、ジャンプもしっかりと跳ぶ。
競技を超越したアスリート・羽生結弦が見えない敵との戦に備えて己を研ぎ澄ます最後のウォーミングアップ。
2021年全日本選手権ショートプログラムの際、6連での羽生の集中ぶりが並外れていたことは今も忘れない。このさいたまスーパーアリーナで開催され、「序奏とロンドカプリチォーソ」初披露の場となった大会だ。
他の5人の選手やアリーナを埋め尽くす観客とはまったく違う空間に居るかのような静謐さを纏い、神事のように粛々と滑りを確認していた羽生。光の粉を撒き散らすみたいなオーラを放ちながら、3種類のジャンプをすべて一度で決めて見せた。
彼にとって練習でも、競技でも、ショーであっても、滑ることは常に過去の自分と競うことであり、戦いなのかもしれない。
アートな6連が進むにつれ、羽生の顔つきが音を立てるように変わる。
呼び覚まされた魔性が全身の血管を廻り、骨肉に侵入し、神経系を支配し、やがて心臓に到る。その浸食によって青白く固い表情がさらに鋭く、眼光に宿る狂気の色は増していく。
役柄へと入り込んでいく、というより変身していくその過程まで芸にして見せてしまうとは…
度胸?
集中力?
異星人?
羽生結弦の露出狂ぶり=表現に対する躊躇のなさ、が天才過ぎて言葉が見つからない。
羽生の声で独白が入る。
「戦う なにと?」
「わからない」
「いやわかっている」
「わかりたくない」
答えは出ない。今、考えることに意味はない。
「こわせ」
「こわせ」
「こわせ」
考えることを放棄して戦いを選ぶ羽生。
敵襲を知らせるようにブザーが鳴る。練習時間が尽きる。
長く重い剣を抜き、振りかぶる羽生。剣をおし頂いた「天と地と」とは違う、殺気に満ちた構えだ。
鞘は捨てたに違いない。手にした剣は再び鞘に収まることはない。この戦場から生きて帰るものはいないから。
コールされた曲名は、羽生結弦「破滅への使者」。ファイナルファンタジーⅨの曲だという。私のFF歴は前世紀にⅣで終わっているのでキャラの位置づけは掴みきれないが、威圧感のあるパイプオルガンの響きと重低音のリズムは恐怖と混乱の前触れのよう。
衣装は熾火のような黒を含んだ赤をベースに白や金の輝きがうねり、手首や腰周りで細く赤く揺れる装飾が血のしたたりかチロチロと瞬く炎を思わせる。放たれるオーラは禍々しいまでに強烈だ。
死をも恐れない、既に自分は死んだものと思って戦いに臨む戦士を兵法では「死兵」と呼ぶそうだけれど、まさにそんなオーラ。強固な砦をたった1人で攻め落とそうとするする戦士の狂気がにじむ。
4回転ジャンプ、トリプルアクセル、終盤には5連続ジャンプを組み込んだ競技プログラム以上にハイレベルな構成だ。粘度の高い、重厚さを感じさせる滑り。ジャンプの滞空時間もひときわ長い。
ところどころに剣を振るうしぐさが入り、スマートで冷静だった「SEIMEI」の戦闘とはまるで違う。ただすべてを終わらせることだけを目的に戦う殺戮者。
握った剣が肉を裂く音を聞き、骨に食い込む感触を味わい、飛散するぬるい血を浴び、死の匂いを嗅いでいる、その顔。
どうしてあんな顔ができる? 今、この瞬間、彼は何を見、何を思っているのだろう。
憑依系とは知っているけれど、尋常ではない入り込み方は恐ろしいほどだ。
フィニッシュは片腕を高くつきあげて勝利を宣言。
スクリーンには「CLEAR」の文字。しかし羽生は片方の口角を微かに上げただけ。血の池にかかとを浸した戦士の顔だろうか。
「セーブデータは壊れた」という無情な表示がスクリーンに浮かぶ。
ここで前半が終了した。
ここまでは既に書いていたので、とにかく公開します。続きはちょっと時間がかかると思います。ごめんなさい。
PS:
羽生選手の公式Xによる「ご報告」を読みました。離婚については他人が何か言うことではないと思います。しかしその理由についての記載は衝撃的でした。あの彼がここまで踏み込んで云うからには相当の被害を受けていると思います。自分が矢面に立ってすべての攻撃を引き受けるつもりでしょうか。
そんなことをさせてはいけません。
心配です。
何かを変えなくてはいけないと思います。
・伝説を超えるとき 羽生結弦の ICE STORY 2nd ”RE_PRAY” Vol.1
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